第5話 八百屋お七
「一緒に文化委員やらへん?」
内村さんが江崎を誘っている。
「あー 僕、委員とかはあんまり……」
「そっかー残念。どうせやったら一緒の委員になりたかったのに」
内村さんは強引だがしつこくはない。
「何で文化委員になりたいん?」
二人の会話に割り込んで聞いた。
「文化委員になったら職権濫用して劇に決定出来るやろ。アタシ文化祭は演劇がやりたいねん」
文化委員にそんな特権があるのだろうか…あっても濫用してはいけない気がする。
「主役とか?」
「違う 衣装作りたいねん」
「裁縫得意なんや」
江崎が聞くと、
「これから得意になろうと思って」
と内村さんは江崎にニッコリ微笑んだ。
今は得意じゃないってことか?ようわからん。内村さんの思考はイマイチ読めない。
「八百屋お七の衣装作りたいねん」
八百屋お七?なんで?
「八百屋お七知らん?好きな人にもう一度逢いたくて放火した女の子」
「歌舞伎とかでやるやつやろ」
名前ぐらいは聞いたことがある。
「江崎君、八百屋お七知ってる?」
内村さんが江崎に聞く。
「聞いたことあるような、ないような…?」江崎が首をかしげた。
「文化祭で八百屋お七やりたいねん。そんで衣装は私が作りたい」
と内村さん。
「お七の衣装やったら着物?」
「うん。和裁やりたい。ホンマは染め物も。江崎君にお七の話見て欲しいし」
相変わらず何を言っているのか良くわからなかった。江崎共々曖昧に、へーと言って話は終わった。
内村さんが自分の席に戻った後、
「何で八百屋お七なんやろな」
江崎が呟いた。
「あの子の考えてる事はさっぱりわからん」本当に訳がわからなかった。得意でもないことをやりたがるのも。
「好きな人にもう一度逢いたくてか」
江崎は独り言のようにまた呟く。
「お前の絵見た時も、逢いたいって言うてるとかなんとか言ってなかったっけ」
「うん……」
江崎は何か考え込むように黙った。
HRで委員を決めるための立候補が始まった。
文化委員は大人気で立候補者が大勢いたため、くじ引きで決めることになった。ついでに他の委員も決めてしまおうと、立候補者がいなかった委員が書かれたくじも箱に入れられた。文化委員に立候補した者たちが次々とくじの箱に手を突っ込んで引いていく。内村さんは気合満々で挑んだ。そして引いたくじを開けるなり崩れ落ちた。アカンかったなー とすぐ分かる激しいリアクションだった。
「なに委員やったん?」
江崎が聞いた。
「園芸…委員……」
ワナワナしながら言った内村さんだったが、「しゃーない。校内を緑で埋め尽くしたるわ」
と直ぐに立ち直った。
内村さんなら本当に校内中を緑で埋め尽くしてしまいそうで怖かった。
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