第3話 恋人同士になりましょう
次の日。
学校に行くのがちょっとこわかった。あのヘンな女の子を江崎に紹介するというミッションが憂鬱だったからだ。
教室に入った途端、
「おはよう 石田君!」
と昨日のヘンな、いや内村さんが声を掛けて来た。
「おはよう」
礼儀として挨拶する。
「アタシ、わかったで」
得意そうに内村さんが俺を見る。
「何が?」
「あの人が江崎君やろ?!」
内村さんが顔を向けた先に江崎がいた。
「うん 誰かに聞いたん」
「顔見たらわかった!なんで今まで見てなかったんやろー アタシの目は節穴か!!」
パッと喜んで、パッと悔しがって、パッと怒った。
百面相。コロコロと表情が変わる。そしてエサをやる前の犬のような目で俺を見る。
「紹介しよか……」
エアー尻尾が全開でブンブン揺れた。
「江崎、内村夏音さんがお前の絵に感動してんて。お前の事紹介して欲しいって」
ちゃんとフルネームで紹介した。
「絵って?」
江崎が不思議そうな顔をする。
「展示されてるやつ」
しばらく考えてから、あーという様子で江崎が内村さんを見た。
「絵、好きなんや?」
江崎が内村さんに声をかけた。
しばらくじっと江崎を見つめた後で内村さんが答えた。
「今までは別に。でも昨日から好きになった」
そんな急に好きになるものだろうか?
「そうなんや」
おっとりと江崎が相槌をうつ。
「逢いたいって」
突然内村さんが言った。
「……誰が?」
江崎が不思議そうに聞き返す。
「江崎君…の絵が」
江崎は驚いたような戸惑ったような顔で、
「絵見てそう思ったってこと?」
と聞いた。
「思ったっていうか、そう言うてた」
内村さんはきっぱりと言い切った。
何を言っているのかさっぱりわからなかったが、江崎はちょっと悲しそうに微笑んで
「そうか…」
と呟いた。
「江崎君。これからはずっとアタシと一緒にいて下さい」
唐突に内村さんが言った。
江崎も、周りにいたクラスのみんなも もちろん俺も度肝を抜かれた。
言われた江崎は困ったというより驚いて、
「一緒にって…それはどういう……?」
と内村さんを見る。
「そうか、どうしようかな……」
内村さんはちょっと考えてから言った。
「恋人同士になりましょう」
「恋人にはなられへん」
江崎がめずらしくハッキリした口調で直ぐに断った。
「そっか」
内村さんは下を向いた
「えっと…内村さん?のことまだ全然知らんし…」
江崎が急に我にかえったように、オロオロと言い訳を始めた。みんなの前であまりにもバッサリ女の子を振ったことにようやく気がついて慌てている。
「じゃあ知ってくれたらもう一回考えてくれる?」
パッと顔を上げて内村さんが江崎を見つめる。
あのこわい目だ。真っ直ぐこちらを見つめてくる、嫌とは言えなくなる目。案の定江崎もモゴモゴとなにやら言っていたが、最終的には「うん…まぁ…」と押し切られた。
「じゃあいっぱいアタシのこと知ってもらうわな。そのためにもいっぱい一緒におってな!」
元気ハツラツと言いのけて内村さんは自分の席に颯爽と戻っていった。
クラス中が呆気に取られていた。漫画なら「ぽかーん」と頭の上に書いてありそうなそんな空気だった。
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