第45話
その後も小さな嫌がらせは続いた。
ある時は上履きが隠されていたり、ある時は明らかに美和の机の中が荒らされていたりした。
こうなってくると、美和も黙って嫌がらせを受けている訳にはいかなくなってきた。
朝登校した時に発見するケースが多かった。
「朝、美和ちんより早く登校してくる人って事だよね?」
「って事になるよね」
アヤナの言った事は美和も考えたが、元々部活で早く登校する人が一定数居るので、犯人の範囲は狭まらなかった。
「でもこんだけ頻繁に起きるって事は、クラスの誰かだと思う。それに他のクラスの人はアヤナちゃん以外殆ど話した事すら無いし、そういう人達に恨まれる覚えもないし」
美和はため息混じりに言った。
「美和ちんを恨んでる人かー…想像もつかないけど。そいつ許せないね!絶対に犯人見つけてやる!」
アヤナが本気で怒っているのが見てとれて、美和は救われた思いがした。
こういう時に一緒に悩んだり一緒に怒ってくれる友達とはなんと有難い事か。
放課後急に呼び出した美和に嫌な顔一つせず、陸上部を見に行きたいだろうにそれを蹴ってこちらに来てくれただけで充分有難いのだが。
「明日、私も早く登校するよ、明日も嫌がらせがあったら、すでに教室にいる人の仕業って事になるよね?」
「ありがとう、でも私より早く登校してくる顔ぶれって毎日同じなんだけど、あの人達がやってるとはどうしても思えないんだ…」
「それじゃ、やっぱり他のクラスの人…とか?」
「どうなんだろう…犯人探しって大変だね」
「そう考えたら警察って凄いよね」
アヤナの言葉に、あの時の事が否が応にも頭をよぎった。
警察が家に来た理由が結局分かってない…また来るのだろうか。
「…美和ちん?」
「あ、ごめん。ぼーっとしてた」
「大丈夫だよ、今日はもうお開きにしよっか。また明日集まろ」
「うん、ありがとう」
せっかく来てくれたのに気を遣わせてしまった。もっとしっかりしなくちゃ。
「話、終わりましたか?」
教室に戻ると、篠倉が本を読みながら待っていた。
「待たせてごめんね」
美和が篠倉の元へ駆け寄る。
「全然です、本を読んでたのですぐでした」
教室にはまだ何人かの生徒が残っていた。
私が今帰ったら、この後嫌がらせして朝発見させる事も可能だよね…
美和の頭にそんな考えが浮んだが、今目の前にいる何人かの生徒に恨みを買った覚えは無かった。といより、誰からも買った覚えなど無いのだが…。
篠倉の横顔を見ながら、思う。
もしかして篠倉君の事が好きな子とかだったり…?そうならどうしよう。負けるわけにはいかないな。
「どうしました?」
視線に気付いた篠倉が振り返った。
「ううん、ごめん、なんでもないの」
顔の見えない相手に疑心暗鬼になるなんて馬鹿馬鹿しいよね。
次の日、もしかしたら犯人と鉢合わせするかもしれない期待を抱いて、いつもより早く学校に行った。
上履きに履き替える時に中を見たが、何ともなっていなかった。
美和ははやる気持ちを抑え、教室に行った。
が、そこで見たのは意外な光景だった。
「新井さん!?」
「藤枝さん…」
新井さんが、美和の机に書かれた落書きを消していたのだった。
「ごめんね、勝手に。でも見たら傷付くと思って」
「ううん、ありがとう。まだ教室に来てるの新井さんだけ?」
「私が来た時は誰も居なかったよ」
じゃあ一体誰が…もしかして他のクラスの人?
「…藤枝さん、誰かに嫌がらせされてるの?」
「新井さん…」
美和は言おうかどうか迷ったが、この状況でうまい言い訳が思い付かなかった。
「う、うん。実はそうなの。ちょっと前から靴を隠されたりとか。される事は小さな事なんだけど」
「小さな事でも立派なイジメだよ。先生に報告したら?」
「先生か…いやー、それはちょっと、いいかな」
そんな事をしたらもっと大事になってしまうかもしれないし、何よりチクるみたいで嫌だった。
「今机の上に悪口が書いてあったの。でも気にしない方がいいよ、藤枝さん」
「悪口…何て書いてあったの?」
「…知らない方がいいと思う」
新井さんは意味ありげに目を伏せた。
「そっか。消してくれてありがとうね」
美和はお礼を言うと、机の横に鞄をかけて椅子に座った。
机はまだ濡れていた。
新井さんが消してくれなかったら悪口をこの目で見る事になってたんだ。なんだか嫌がらせが段々と大胆になって来た気がする。
美和は憂鬱な気分でため息をついた。
「あの、よかったら…犯人探し手伝うよ」
「…ありがとう、でも事を荒げたくないから」
美和が再度お礼を言うと、新井さんは離れていった。
でも今回の事で分かった。
犯人は他のクラスの人の可能性があると。いつどこで恨みを買ったのか分からないけど、こういう事ってあるのかもしれない。
ーそして放課後
「新井さんかー…」
アヤナは訳ありそうに目が泳いだ。
「なに?なんかあったの?」
「新井さん、中学一緒だったんだけど、昔からアヤナのこと嫌ってるんだよね」
「どうして?」
「この間の動画の事もだけど、アヤナってすぐ校則破るじゃん?真面目な新井さんにとってはそれが目につくみたいで、中学の時はちょっと何かやると、すぐ先生にチクられてヤバかったよ」
「そっかぁ…」
「うん、だから、新井さんの事はアヤナは信用してないんだ」
「それはしょうがないね」
「それより、これで他のクラスの子が犯人かもって可能性も出て来たね、どうする?朝早くから見張って犯人捕まえる?」
「それができたら楽なんだけど、そんな簡単にいくかな?」
「いくか分からないけど、やってみる価値はあると思う」
「そっか…やってみようかな」
「やろう!早速明日」
「あ、明日?随分急だね」
「何言ってんの。こういう事はエスカレートする前にとっ捕まえなきゃ!」
「うん、じゃあ明日…」
「じゃ、決まりね!明日めちゃくちゃ早起きするね!」
「うん。ありがとう」
「もー、お礼なんて言わないの!当然のことでしょ!じゃあ明日ね!」
美和は眩しい程の笑顔を振りまいて去って行った。
本当に明るくて太陽みたいな子だ…
とにかく明日、早く起きなきゃ。
明日で全て解決するといいんだけど…。
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