ひき逃げ

口羽龍

ひき逃げ

 剛は高校2年生。自転車で30分ぐらいかけて高校に向かっている。毎日大変だけど、将来のためにと頑張っている。そんな剛を、母は温かい目で見ている。


「さて学校終わった終わった。これから帰ろう」


 剛は部活に入っておらず、帰宅部だ。勉強していい大学に行くために、日々頑張っている。


 剛は自転車で家に帰り始めた。それと同じくして、何人かの生徒が自転車で帰り始めた。中には部活をしていく人もいるが、剛は彼らに全く目を向けずに家に向かう。


「今日はそうめんだと聞いたから、早く帰らないと」


 剛は田園地帯の中を走っていた。見通しはいい。車はあまり通ってない。いつも通りの日常だ。そう思って仕方がない。


 剛は交差点に差し掛かった。だが、やって来る車はない。そのまま直進しよう。剛はその時気が付いていなかった。1匹の三毛猫が横断しているのを。


「うわっ・・・」


 突然、剛は揺れを感じた。何かを引いてしまったかな? だが、車も自転車もぶつかった形跡がない。


 剛は足元を見た。そこには血を流した猫がいる。猫を引いてしまったようだ。首輪がない。どうやら野良猫のようだ。


「ね、猫か・・・。ごめんよ・・・」


 剛は全く気にせず、再び走り出した。野良猫を引いても、何も怒られないだろう。


 その時、剛は気づいていなかった。それが原因で、この後とんでもない事になるのを。


「ニャー・・・」


 猫は執念深そうに剛を見ていた。そしてそのまま、死んでしまった。




 約30分後、剛は家に帰ってきた。剛は疲れていた。明日は休みだ。しっかりと休んで、勉強をしよう。


「ただいまー」

「おかえりー」


 剛が玄関に入ると、母の声がした。これもいつも通りの日常だ。疲れたから、しばらく2階の自分の部屋にいよう。


 部屋に入ると、剛はベッドに寝そべった。今日は何気ない日々だった。あの野良猫を引いた以外は。だけど、そんなのあんまり気にしていない。


「ニャー・・・」


 その時、猫の声がした。普通は夜に聞こえるのに、どうしたんだろう。近くに野良猫がいるなろうか?


「えっ!?」


 剛はカーテンを開けて、外を見た。だが、そこに猫はいない。見えない所にいるんだろうか? 剛は辺りを見渡した。だが、猫は見当たらない。


「あれ、いないな・・・」


 剛は首をかしげた。きっと疲れているんだろう。少し寝たら、大丈夫だろう。剛はベッドに横になった。程なくして、剛は眠ってしまった。




 剛はとんでもない夢を見た。そこは裁判所だ。だが、そこにいるのは2足歩行の猫ばかりだ。一体何だろう。剛は辺りを見渡して、戸惑っている。


 気が付くと、剛は2人の猫獣人に連れられている。猫獣人は厳しい表情だ。


「な、何をする!」

「いいから来い!」


 猫獣人は厳しい表情だ。剛は戸惑っている。何も悪い事をしていないのに、どうしたんだろう。


「どうして、どうしてだ!」

「お前、猫をひき逃げしただろう。猫仙人様がお怒りだ!」


 その時、剛は帰り道での出来事を思い出した。野良猫をひき逃げしただけで、こんな事になるなんて。信じられない。こんなのおかしいだろ?


「えっ!? えっ!?」

「早く来い!」


 剛は裁判室に連れてこられた。そこには多くの猫獣人がいる。そして、その端には三毛猫がいる。剛にひき逃げされた三毛猫だろうか?


「やめろ! やめろ!」

「うるせぇ!」


 剛はやや小さめの演台にやって来た。剛は知っている。ここで裁判にかけられるんだ。


「お前、よくも猫を殺したな!」


 向かいの演台の中央にいる猫獣人は怒っている。その猫は、まるで仙人のような白いひげを生やしている。


「そ、それか・・・」


 剛は怒っている。どうしてそんな事になったんだ! おかしいじゃないか!


「何だその態度は! お前、猫にしてやる!」

「やめろ! やめろー!」


 剛は暴れている。だが、横にいた猫獣人が抑えている。猫になんてなりたくない! 助けて!




 その次の夢は、次の朝の出来事だ。だが、夢とは思えなかった。


「剛、剛!」


 母の声で目が覚めた。いつも通りの日常だ。一体、あの裁判にかけられる夢は、何だろう。


「ゆ、夢か・・・」


 剛はほっとした。落ち着け。自分は野良猫をひき逃げしただけだ。それだけで、あんなことになるなんて、ありえない。


「朝ごはんよ、早く来なさい」


 剛は起き上がった。だが、何か不自然だ。お尻から何かが出ているようだ。全くわからない。何だろう。


 不思議に思い、剛はパンツを脱いだ。すると、お尻から猫の尻尾が出ている。まさか、あの夢の出来事が原因だろうか?


「えっ、尻尾?」


 剛は戸惑っている。このままではまずい。尻尾を隠さなければ。


「ズボンやパンツで隠そう」


 剛はパンツやズボンで尻尾を隠す事にした。だが、それで本当にうまくいくんだろうか?不安でしょうがない。




 その夜、剛は外を見ている。外からは何匹もの猫が見張っている。まるで剛をにらみつけているようで、恐ろしい。剛は気になってしょうがない。


「あの猫をひき逃げして、猫仙人に猫にされる夢を見て、今朝、尻尾が生えてた。うーん・・・」


 あれは本当に夢だろうか? 本当に尻尾が生えている。そんな事ありえないだろう。


「もう夜だな。もう寝よう」


 剛は横になった。だが、不安でしょうがない。明日はどんな姿になっているんだろう。


 寝ている間、剛は熱でうなされていた。寝る前はとても元気だったのに。どうしたんだろう。


「うーん・・・。うーん・・・」


 剛は目を覚ました。だが、布団の中から自分の体を見て、驚いた。自分が段々三毛猫になっていく。まるでひき逃げしたような猫のようだ。まさか、こんな呪いをかけられてしまうとは。


「な、何だ? 体が猫になっていく・・・。えっ!? 尻尾が大きくなっていく!」


 剛は汗をかきながら、びくびくしている。ひき逃げをしただけで、こんな事になるなんて、ありえない。


「そ、そんな・・・。こんな姿、ママに見せられないよ・・・」


 と、剛は目を覚ました。夕方だ。剛はほっとした。どうやら今まで悪い夢を見ていたようだ。剛はほっとした。


「剛ー、晩ごはんよー」


 剛は1階に向かった。だが、剛はその時気づいていなかった。自分が三毛猫の獣人になってしまったのを。


 1階のダイニングに入った瞬間、両親は驚いた。そこには三毛猫の獣人がいる。


「キャー!」


 母は悲鳴を上げた。剛はその理由が全くわからなかった。

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ひき逃げ 口羽龍 @ryo_kuchiba

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