第25話 命の価値
朝になり見回りをしていたウィルの屋敷の
警備員が屏に残された鉤の手つきのロープと 縄梯子を見つけウィルに報告しました。
ウィルは急いでジュリアの部屋に
向かいます。
そしてジュリアがいないのを確認すると
ウィルは急いでバロウの屋敷に向かいました
ウィルがバロウの屋敷に着くと
そこにはレムロがいました。
レムロはバロウの屋敷で
寝泊まりをしていました。
ウィル
「レムロ!
ジュリアがいなくなった!!」
レムロ
「お嬢さんが?」
ウィル
「どうやら 夜の間に
屋敷を抜け出したようだ。
多分、行き先はヒルマ村だ」
レムロ
「分かりました。
もう襲撃の準備は整っています、
行きましょう」
レムロはバロウに少し予定より早いが
ヒルマ村に襲撃することを報告しました。
ウィル
「なぜジュリアはヒルマ村に
行きたがるのか・・・
あんな危険を冒す子ではなかったのに」
ウィルはただ 呆然としていました。
ジュリアは幼い頃から
病院で暮らすことが多く
母もジュリアが幼い時に亡くなっています
父親一人で育てたという形ですが
元々ウィルは仕事人間。
もちろん ジュリアの事は心配でしたが
仕事がそれを、かき消しました。
ジュリアに構ってあげられない分
たまにジュリアが屋敷に戻る時は
何不自由なく好きなものを買い与えました。
それは確かにジュリアとしても
嬉しいことは嬉しかったし
父のことが嫌いというわけでもありません。
ただどこか満たされない部分が
ジュリアにはあったのでした。
一方 病院でジュリアは
本を読むことが好きでした。
冒険記や空想話が好きでした。
父のおかげで自分がいることも
もちろん自覚はしていますが
ジュリアの先生は本なのかもしれません。
その頃 ジュリアとニールは
ヒルマ村への道を急いでいました。
ノルウェアを出て 6時間ほど。
このまま 急いで行っても
ヒルマ村に着くのは明日のお昼ぐらいです。
まだまだ先は長い道のりですが
とにかく ゆっくりは出来ません。
ヒルマ村へは基本 一本道。
なので迷うことはありませんが
途中から山道でした。
ジュリア
「ニールさん 荷物持ちましょうか?」
ニールはジュリアに比べて
やけに大きな荷物を背負っていました。
ニール
「いえ、大丈夫です。
それよりもおそらく村への襲撃の為に
そろそろ兵がノルウェアを出ても
おかしくない頃です。急ぎましょう」
ジュリアとニールは
先をひたすら急ぎます。
レムロは先陣をきってヒルマ村襲撃の
部隊の先頭にいました。
とにかくアナスタシアが持ってる
ベルを奪うために。
その前にジュリアが到着して
アナスタシアが逃げたりすると厄介だと
レムロ焦っていました。
それとは別にノルウェアの衛士たちも
日頃鍛えた力を発揮すべく
ぐんぐん 進みました。
ジュリア達とレムロの部隊を比較すると
やはりレムロの部隊の方が
進むスピードは早かったのでした。
その差はどんどん縮まっていきました。
ジュリア達がノルウェアを出発してから
朝を迎え夕方になろうとしていました。
さすがにヘトヘトになり
2人は一度休むことに。
このペースで行けばヒルマ村には
明日の午前中には着きます。
全体の6割ぐらいの距離を進みました。
しかしここからが山道。
多少 整備されている道ですが
基本ずっと坂道でした。
ここからが正念場です。
ジュリアとニールは日中に会話も
ほとんど無く、黙々と歩いてきました。
ニール
「ジュリアさん、これを・・・」
ニールが差し出したのはラルフの葉でした。
このラルハの葉は濡らして
シップのように貼ると、
とても気持ちが良く炎症を抑えたり
傷の治りが早くなったりしました。
疲れた筋肉にはもってこいの品物です。
ジュリア
「ありがとう」
ジュリアは嬉しそうに 受け取りました。
2人が簡単に食事を済ますと
ジュリアはニールに言いました。
ジュリア
「ニールさん私ね、
小さい時から病弱で
病院によくいたの。
もう人生の8割くらい
病院で生活してたわ」
ジュリア
「学校もたまにしか行けなくて・・・
そんな私は病室でよく本を読んでいたわ。
冒険記や昔話。
一番好きなのはエデンという
冒険記なの」
ニールが静かに頷きます。
ジュリア
「そのエデンの中で
主人公の男の子と人生のレールを
無理やり敷かれ周りに振り回されてる
女の子が出会ってね・・・
ある時、女の子が悪者にまた
都合よく利用されちゃう場面があるの。
でもね、その時、主人公の男の子が
『運命は自分の力で変えられる
運命は自分の力で動かせる』
っていうの。」
ジュリアは続けます。
ジュリア
「私は病気して不治の病と言われても
その言葉を信じて生きてきた。
もちろん父も自分の身を
心配してくれたから余計に信じてきた。
そして病気は治ったけど
まだどっかで私の中で
このままじゃいけないって思ってた」
ニールが微笑み うなずきます。
ジュリア
「私がヒルマ村の皆に助けてもらった時
少ししか村の人とは話さなかったけど
ヒルマ村の人たちは皆、一人一人が
自分も相手も大切にしていて
共に生きていくという思いが
本当に感じられたの。
自分だけが得すればいいという
考えじゃなく皆が幸せになるような 。
うまく言えないんだけど
ヒルマ村の皆を見ていたら
私も自分の出来ることしなくちゃなって」
ニールが口を開きました。
ニール
「ジュリアさん私もヒルマ村出身では
ないですが、ある田舎の村の生まれです。
村が全てそうだとは言いませんが
貧しい生活では1人で生きていけません。
暮らしを良くするために
人が集まって役割分担した方が
効率もいいし何より大きな力が
出せます。」
ニール
「しかし結果
効率の良さは損得を生み
大きな力は権力を生みます。
損得も権力もそれ自体が
悪いわけではありません。
やはりそれを悪用する事が
いけないのです。
ヒルマ村の人たちは
質素を美徳とする人々です。
言い換えれば最低限な暮しで
満足できる人たちとも言えます」
ニールが続けます。
ニール
「ノルウェアにスラム街がありますが
あそこも質素。でもヒルマ村とは
ある意味正反対の場所。
他人は他人。
自分が生きていくだけで精一杯。
同じ質素なのにヒルマ村と何が違うのか」
ニール
「それは 命の価値を知っているかどうかと
私は思っているんです」
ジュリア
「命の価値」
ニール
「そう。 私は商売人だから
得をしなければ生活できない。
つまり商品に価値がないとだめなんです」
ジュリア
「ヒルマ村の工芸品は私も持っているわ」
ニール
「それは価値があるということ。
それがあることで 嬉しかったり
楽しかったり大切にしたいと思ったり。
言い換えれば、それは全て
その人にとっての価値です。
しかし価値と言っても
全てお金で表される訳ではありません。
特に人の愛情や親切心は
お金に変えられるものではありません」
ジュリアは頷きました。
ニール
「でも愛情や親切心は
嬉しくなったり楽しくなったり
大切なものですよね。
そして単純にお金で表せない。
ただどんなに貧しくても
愛情や親切心は価値は価値 なんです」
ニール
「ただ生きるだけなら確かに
食べ物だけあればいいかもしれない。
スラム街のように。
でもヒルマ村がスラム街と違うのは
そこに お互いの信頼や尊重
思いやりや愛情があり、それが幸せで
その価値を村人が知っているから
ではないでしょうか」
ジュリアは納得しました。
ニール
「ノルウェアは資本主義で
物は確かに溢れています。
しかしそれで見失ってしまったモノも
あることは言えるようです。
レムロの噂が出た時、
私は最初は嬉しかった。
こんな街でもこんな素晴らしい話が
あるのかと。
でもジュリアさんのおかげで
騙されずに済んだ」
ジュリア
「ニールさん。
ヒルマ村の皆を絶対守りましょう!」
ニール
「そうしましょう」
2人は少し休むと
闇深くなった道を再び歩き出しました。
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