第22話 ノルウェアの摂政 バロウ
バロウの屋敷の奥に進むと
さすがにノルウェアで実権を握る男の屋敷
であってウィルの屋敷以上の豪華さでした。
応接間に通されたレムロ。
そこでウィルと別れバロウを待ちました。
少しするとバロウがやってきました。
低く落ち着きのある声で
「待たせたな」
とバロウがレムロに声をかけます。
レムロ
「お初にお目にかかります」
レムロが椅子から立って
軽く会釈をしました。
バロウ
「私がバロウだ 。
お前のことは 色々 噂で聞いているよ」
バロウは迫力ある人間でしたが
レムロも怯んでいません。
もともとオゾマという
身勝手な人間の元で過ごしたり
スラム街での生活があったからです。
バロウ
「レムロ、お前の人の怪我や病気を治す
というのは本当に何でも治すのだな?」
レムロ
「当然でございます。
怪我人も治し病人も治します。
ウィル様の令嬢、ジュリア様の件の
通りです」
バロウ
「ウィルから聞いたが
病気が治る場所があるというが・・」
レムロ
「はい。私しか知らない神聖な場所です」
バロウ
「そうか、まあ治ることが事実なら
何でも良い。
そこでだ、お前をこの町の大臣として
雇いたい」
レムロ
「大臣・・・」
バロウ
「さよう。実はこの ノルウェアで今度
領地を拡大する案が検討されている」
レムロ
「戦争・・・ですか?」
バロウ
「戦争は最終手段だ。
目的はあくまで領地の拡大。
その昔このノルウェアで
感染症が流行したのは知っておるか?」
レムロ
「少しなら」
バロウ
「その感染症は実はここにやってきた
移民たちが持ち込んだことは
意外に語られていないことだ。
そしてその特効薬が
本当はあったことも・・・」
レムロ
「・・・」
バロウ
「私の祖先がな、まさに移民として
この町にやってきた。街の医者だった。
人を救う仕事をしていたわけだ。
医者として働いていた私の祖先は
街の中でも地位、名誉 を受けやすい
立場であるが故にすぐにお金が集まった。
そんな時、北部の連中がもっと皆に
治療を受けやすくするように
受診料を下げろと言い始めた」
バロウ
「命、そこに価値があるなら
それを救うための行為は
金がかかって当然だ。
しかし 当時の北部の人間は
金のない奴ばかりに 肩を持つ」
レムロ
「そういう変な人間はどの時代も
少数は いるものです」
バロウ
「そこで 感染症の研究をしていた
私の祖先は感染症を北部に
ばら撒くことを思いついた。
ウイルスに感染させ、もし医者として
それまでやってきた やり方を
北部の連中が認めれば
治療をするという条件をつけた」
バロウは更に続けます
バロウ
「しかし
命がかかっても北部の連中は
俺の祖先のやり方を認めなかった。
次々に死んでいってもだ」
レムロ
「命が軽いんでしょう」
バロウ
「感染症が全域に広がる前に
南部と北部は柵で仕切られた。
まあ 結果的に 祖先の思惑には
なったわけだ」
レムロ
「それで その感染症の話が
どうなるんです?」
バロウ
「その後も 感染症の研究が進んだ。
その研究は子孫に受け継がれた。
新しい感染症が作られて
その特効薬が作られる。
その実験台にスラムの人間が使われる。
成功した時の報酬はした上で
何の実験かは知らされんがな」
レムロ
「・・・」
バロウ
「しかしこの度、開発した感染症には
まだ特効薬がなくてな、
ウイルスが異常なまでに変異して
薬が効かなくなる特徴がある」
レムロ
「そのウイルスを他国にばらまく・・・」
バロウ
「そう。
私の祖先が感染症の研究をしていたのは
単に病気の人間を治す為だけじゃない。
と言っても最初は祖先も
北部の人間たちを感染症で殺すつもりは
なかったそうだ。
ちょっと脅すくらいの
つもりだったらしい。
普通なら死ぬような思いをすれば
考えぐらい変わるだろう?
しかし 命がかかってまでも
あいつらの考え方は変わらなかった。
それはもう愚かとしか言いようがない」
レムロ
「確かに・・・」
バロウ
「直す術を持ち合わせて
初めてコントロールと言える。
ウイルスも人間もな」
レムロ
「ウイルスをばらまいて
私が治せばいいのですね」
バロウ
「そうだ。 もちろん ノルウェアに
このバロウに従うことを条件にだ」
レムロ
「1つ聞かせてください。
今まで感染症の研究で、新しい感染症と
特効薬が生まれた時点で
他国にウイルスをばらまくことを
しなかったのはなぜですか?」
バロウ
「色々ある。
まず研究している感染症が元々
ある程度、濃厚接触しないと
感染しない病気で、
感染のスピードが遅い病気だった。
病気の進行 もゆっくりだった。
そこから進化させたウイルスも
その特徴を維持したままのウイルスで
研究者も安全に研究できたのだが
そのウイルスは毒性が弱すぎたり
あるウイルスによっては特効薬の数も
十分に用意できない事もあった。
しかしお前が現れたおかげで
今回新開発されたウイルスに
特効薬ができたようなものだ。
つまり 準備が整ったということだ」
バロウの話はレムロにとって
予想外の部分もありましたが
レムロはバロウの話を受けることにしました
レムロ
「バロウ様
1つ片付けなければならない
事があります」
バロウ
「なんだ?」
レムロ
「ヒルマ村という村の人間が
私の命を狙っています」
バロウ
「うむ、噂では聞いておる」
レムロ
「その村を滅ぼさないと、後で厄介です」
バロウ
「・・・それなら
新しいウイルスを早速 試すか?」
レムロ
「いえ、その村の連中も
たとえ命がかかっても考え方を
変えるような人間ではありません。
故に私を一度狙ったら
どんなことがあっても
死ぬ気で私を殺しに来る連中です」
バロウ
「そうか。 ではこの街の衛士を連れて
憂いを晴らしてこい」
他の国にウイルスをばら撒く計画は
このバロウを含め一部の人間にしか
知りませんでした。
この時点でもレムロにとっては
バロウは雇い主でもなければ
パートナーでもない
そして それはバロウも同じでした。
バロウはもし、この話を
レムロが受けなかったら
レムロを殺すつもりでいたのです。
もっと言うならバロウは
レムロから人を生き返らせる場所を
知っていると聞いた時点で
その場所を自身が知った瞬間レムロを殺すつもりでもいました。
感染症で支配しようと考えている
バロウにとって人を復活させる力は
邪魔以外、何でもなかったからです。
しかしレムロもそんなバロウを利用して
出世しようとしていました。
つまり利用するだけ利用して
隙あらばレムロもバロウを殺すことを
考えていたのです。
お互いがお互いを利用することで
お金や権力に変える。
利用し利用される 、そんな関係でした。
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