第20話 ヒルマの民として

シバは村に戻ってレムロのことが

ノルウェアで評判になってることを

村長ラウムに伝えました。


ラウム

「うむ、恐れていることが

 現実になりつつある。

 レムロはやはりこのベルの力を知り

 ベルを奪う気でいる」


シバ

「どうしましょう、村長」


ラウム

「アナスタシア やリュート、アトラスは

 大切な 村民。

 ベルもアナ達も守らなければならぬ」


シバ

「どうしましょう。

 アナにこのことを伝えますか?」


ラウム

「その方が良いだろう」


シバ

「しかし、あまりアナに心配かけると

 ここに居づらくなってしまうのでは?」


ラウム

「変に隠し事をして怪しまれるのは

 同じ村民としてよくはない。

 私が行って話をしてこよう」


そう言うとラウムはシバからの情報を

伝えに、アナスタシアの家に向かいました。


ラウム

「アナスタシア 、リュート、アトラス

 いるか?ラウムじゃ」


ラウムがアナスタシアの家の前で

呼びかけます。


アナスタシア

「はい、村長!今、行きます」


アナスタシア が返事をして玄関で

村長を迎えました。


ラウム

「アナよ今、シバが帰ってきて

 ノルウェアの街の様子を

 探ってきてくれたんだが」


アナスタシア

「何か、変わったことでも・・・」


ラウムは少しためらいながらも

口を動かしました。


ラウム

「今、ノルウェアはレムロの評判で

 もちきりらしい。


"ジュリアの病気がレムロによって完治した" "レムロは救世主"

 

 などと騒がれておるようじゃ」


アナスタシア

「そうですか・・・」


ラウム

「ジュリア もこの村のことは

 秘密にしてくれている。

 やはり 噂の出所はレムロのようじゃ」


アナスタシアは黙って聞いていました。


ラウム

「今のところ表向きでは今回の件で

 争いや怪我人が出たわけではないが

 レムロの動向次第ではわからぬ」


アナスタシア

「村長 !!私・・・」


とアナスタシアが 言いかけたが

それを消すようにラウムが言いました


ラウム

「アナよ、お主は心配するな。

 ベルの存在がこの村を苦しめていると

 考えているのならそれは違う。

 ベルの力で村人は助かり

 お主やリュートの存在で

 この村が豊かになった。

 皆、感謝しているのだ」


アナスタシアがうっすら 涙を浮かべる。


ラウム

「間違ってもこの村を出て行くなんて

 言わんでいい。

 間違いはベルを悪用しようとする

 人間がいることじゃ」 


ラウムは続ける。


ラウム

「そうじゃ、アナに一つ

 この村の歴史を話そう」 


ラウムは一呼吸おいて、話し出しました。


ラウム

「このヒルマ村の祖先は昔

 実はノルウェアの住民だったんじゃ」


アナスタシア

「えっ?」


ラウム

「もっと言うならノルウェアを作った

 人たちでもある。

 ノルウェアは少しずつ反映し

 移民 も増えていった。

 今のノルウェアの北部、

 スラム街になっている場所が私たち

 ヒルマ人がノルウェアを作り

 暮らしていた場所じゃ」


アナスタシア

「それじゃあなぜヒルマ人の祖先は

 ノルウェアを出たのですか」


ラウム

「それはなノルウェアが繁栄するにつれ

 新しく入ってきた移民たちと

 私たちヒルマ人との間で対立が起こった。

 主には街の存続のあり方じゃ。

 私たちヒルマ人は質素を美徳とし

 最低限のもので満足できるような

 生活を送ってきた民族。

 しかし 新しく入ってきた移民は

 どんどん物質的な豊かさや資本主義を

 元にした人たちが多く

 街の今後を巡って街の議会で争った」


アナスタシアは静かに聞いていました。


ラウム

「そうやって争っている中でも

 どんどん移民は増え、資本主義の人間が

 多くなっていった。

 すると私たちヒルマ人はどんどん

 勢力を失っていった。

 そんな時じゃヒルマ人の間に

 感染症が広まったんじゃ。

 ヒルマ人が生活していた

 ノルウェアの北部に感染症は広がり

 亡くなる人が相次いだ。

 そして南部の移民たちが

 南部と北部の境目に柵を建てて

 ノルウェアを分断してしまったんじゃ。

 境目には兵士を置いて北部の人間が

 南部に入らないように見張った。

 北部のヒルマ人 は何とか感染症を

 抑えようと研究をした。

 感染症から逃れるために一部のヒルマ人は 

 ノルウェアを出た」


アナスタシア

「それが今のヒルマ村に繋がっていると」


ラウム

「そうじゃ。

 感染症から逃れるためと言っても

 勝手に逃げたのではない。

 北部の人間が皆で話し合い

 ヒルマ人の血を絶やさぬように

 そうしたのじゃ 。

 残念ながら ノルウェアの北部に残った

 ヒルマ人は皆亡くなってしまった。

 しかし こうして逃げ延びたヒルマ人は

 生き抜いて再び繁栄しつつある」


アナスタシアの頬に涙が伝います。


ラウム

「こんな時に、こんな話をして見当違いに

 見えるが 、別にヒルマ人は資本主義の

 全てが悪いというつもりはない。

 実際この村もアナスタシアやリュートが

 いてくれて、村の特産品が生まれ、

 豊かになった。

 

 しかし行き過ぎはいかん。

 

 その証拠が今のノルウェアの

 スラム街じゃ。


 スラムは資本主義のなれの果て様なもの。

 私たちヒルマ人は共存という考え方が

 基本であり、それは

 同じ1人の村民の危機は皆の危機という

 考え方じゃ」


アナスタシアは静かに頷きました。


ラウム

「だからアナよ。1人抱え込むな。

 この村人全てがアナやリュート、

 アトラスとずっと一緒に生きていきたいと  

 願っておるし、アナの苦しみを

 分かち合いたいと思っておる。

 たとえベルが元で争いが起こってもじゃ。  

 それはベルが元で争いが起こる

 というのではなく、あくまで それを 

 悪用する人間がいるということ。

 それをヒルマ人として許さず

 正しい目で、心で、生きていく

 ヒルマ人としての定めじゃ」


アナスタシアは顔を手で隠して

泣き始めました。


するとアトラスと一緒に外で遊んでいた

リュートが家に戻ってきました。


リュート

「あ 村長。

 あれ アナスタシアどうしたの?」


泣いている アナスタシアを見て

状況を飲み込もうとするリュート。


アナスタシアは顔を上げリュートに近寄り 思いっきり抱きつきました。


リュート

「アナ・・・・」


アナスタシア

「・・・・・・」


アナスタシアは不安でした。

自分の事より皆の事が。


このベルの力で皆が苦しむかもしれないと。でもラウムの話を聞いて

自分の居場所を再確認できた

安心感がありました。

心から居たいと思える場所。


リュートもアナスタシアの

重荷にならないように、ずっとそばで

見守っていてくれたこと。


アナスタシア は、ずっと泣いていました。


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