第16話 スラム街のバーニー

レムロはこのウィルから得た報酬をもって

ノルウェアのスラム街に向かいました。


目的は この報酬で人を動かすため。

レムロがスラム街に行くと

そこはその日暮らしもやっとな貧乏人が

ひしめき合う場所でした。


ゴミを漁って生きるもの。

物乞いをして生きるもの。

スリや強盗をする人間もいて治安も悪い。


実はレムロは スラムの出身でした。


そして ノルウェアのスラム街は

レムロが実際、昔、住んでいた場所でした。


故に知り合いもいます。


その一人 バーニー という人間は

このノルウェアで昔、レムロと幼馴染で

共に過ごした中でした。


バーニーはノルウェアの酒屋の息子。

レムロはノルウェアに移り住んで

道具屋の息子として育ちました。


しかし バーニーは小さい頃から悪ガキで

周囲に迷惑をかけてばかりいました。


レムロもそんな バーニーの影響を受けて

次第に未成年で酒を飲んだり

スラム街に行って悪さをしたりしました。


そんなある時 バーニーの両親が離婚。

そしてレムロの両親が

自殺をしてしまいます。


バーニーの親権は母方が持っていましたが バーニーは自ら スラム街に身を置き

それにレムロもついていく形で

2人でスラム街で暮らすようになったのです


レムロ

「ここは いつでも薄暗い場所だな」


スラム街は地元警察もあまり干渉しません。

近年もよく人がいなくなるのです。

でも喧嘩や神隠しのような行方不明者が

あっても、そこに警察が干渉すると

警察の方がやられてしまう事も多いのです。


それをさらに武力や数で警察が

総動員して治めても、

それが元で新たな暴動が起こります。


イタチごっこなのです。


防犯 という点では好ましくありませんが

相対的に力で抑え込んで暴動が起こるより

基本、不干渉の方が

争いや被害は小さかったのです。


故に警察も極力スラム街には

手を出さずにいたのです。


レムロがスラム街を歩いていると

壊れそうな小屋の壁にもたれかかり

どこで盗んだのか安い酒を飲みながら

独り言をブツブツ言っているじいさんが

レムロに声をかけました。


じいさん

「おい、あんちゃん。酒かタバコくれや」


じいさんの声は酒に酔っていて滑舌が悪く そして今にも酔いつぶれてしまいそうです。


レムロ

「ふん、酒なんて持ってねーよ」


じいさん

「ケチくせーこと言うなよ」


レムロ

「持ってねえもん 出せるか!」


そう言うとレムロはじいさんにガンを飛ばし 殴りかかりました。

が、寸前で止めました。


じいさん

「いやあぁっっ、 止めてくれぇ~」


じいさんは怯えて逃げ出します。


レムロ

「うぜえところだな 、ここは」


レムロはスラム街の中で一番大きな建物

ハンベルト公会堂に向かいました。


実際そこは昔、公会堂として

使われていた場所。

そして今は スラム人が

よく集まる場所でした。


レムロが公会堂に行くと

数人の若い男女がたむろしています。

その中にひときわ目立つ

黒の革ジャンを着た男はいました。


それがバーニーでした。


レムロ

「よぉ兄弟」


バーニー

「ん?もしかしてレムロか」


レムロ

「久しぶりだな」


バーニー

「お前、いつノルウェアに

 戻ってきたんだよ」


レムロ

「1ヶ月ぐらい前 な。

 にしても相変わらずだな ここは」


バーニー

「お前もあれから

 たいして変わってないように見えるがな」


レムロとバーニーは15年ぶりに

会ったにもかかわらず

やはり馬があった者同士。


分かり合うものがあるのか

すぐに15年の歳月を超えて

打ち解けあいます。


バーニー

「お前、今何してんだよ」


レムロ

「物売りしてる」


バーニー

「どうせお前のことだから

 パチモン売って稼いでんだろ」


レムロ

「パチモンでも売れりゃ金だ」


バーニー

「ところで何か用があってきたのか」


レムロ

「実は金になる話があって

 お前らに協力してほしい」


レムロは続けて話します。


レムロ

「この街にウィルという銀行家がいて

 その娘はジュリアと言うんだが

 小さい頃から病気がちでな

 入退院を繰り返していたんだ」


レムロ

「そして ペリアトル病という

 不治の病になったんだが

 最近その病が治ったんだ」


バーニー

「不治の病が治っただぁ?」


レムロ

「正確には俺が治した」


バーニー

「お前が?どう治したんだよ」


レムロ

「それは 今は言えん。

 ただ その方法はとても強力で

 死者も復活させられる」


バーニー

「死んだもんが生き返るなんて

 あんのかよ」


レムロ

「いいから黙って聞け。

 そこでジュリアの不治の病を治したのは

 レムロという話をノルウェア中に

 ばらまいてほしいんだ」


バーニー 

「ばら撒いてどうすんだ?」


レムロ

「俺が治したという話が

 ノルウェア中に広がれば

 是非、自分も病気を治してほしい

 という人間が現れる

 不治の病が治ったのなら、なおさらな」


バーニー

「なるほど金に糸目はつけないことも

 考えられるな」


レムロ

「ここに100万 クラウンある。

 この金でさっき言った話を

 ばらまいてほしい。

 くれぐれも 余計な話はするなよ」


バーニー

「面白そうだな。よし、わかった」


100万クラウンあればノルウェアでは

屋敷も買えるほどの金額でした。

それをスラム人100人程度で山分けをして


"レムロは銀行家ウィルの娘の

不治の病を治した"


という話をノルウェア中に、

ばら蒔く事になったのです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る