第10話 回想
その頃リュートは、村はずれの泉への道を
他の村人と一緒に整備をしていました。
大きな石や草などを取り
牛車を通すためです。
この泉の傍に、この度、村で大規模な農業を始めることになり、牛車を使って収穫した
食べ物や 肥料などを運んだりするために
道を整備するのでした。
この地域は馬はいないが
代わりに牛が多くいる地域で
必然的に牛車になりました。
今までも村で作物を作っていてましたが
村は狭くて農地にする場所も限られます。 なので 村はずれの泉の傍に
大規模な畑を作ることにしたのです。
泉の傍に家を建てなかったのは
地盤が緩く月日が経つと家を建てても
傾いてしまう可能性があったため
そしてさらに雨が降ると泉の水位が上がり
危険な日もありました。
ただ農地としては利用できそうで
この度 開拓して農業を始めることに
なったのです。
牛車を通るための道幅はすでに
十分でしたが、道の途中にはたくさんの石や 岩が道中に埋まっていて、それを掘り出して道を滑らかにする作業が必要でした。
全員で5人。
2人は道に埋まっている大きな石を
掘り出す仕事。
もう2人は道に生えている草を抜きながら
掘り出された石や岩を邪魔にならない
場所まで持って行く仕事。
そしてもう一人は小さな石を拾って
同じように 邪魔にならない場所まで
持って行ったり、埋まっている石や岩を
取った後の窪地を土で埋めて平らに
均していく作業でした。
リュートはこの平らに均す作業を
していました。
リュートたちが作業をしていると
先ほどの覆面の音が近づいてきます。
村から泉までの道は一本道で
もっと言うなら泉の先には何もありません。
周りは山に囲まれていて、唯一
泉の水が流れ出す川は村の方向へは流れず
反対側になりしかも急流
つまり人が通る道は、いまリュート達が整備している道の他に何もありませんでした。
それを知っている人間ならこの道を通るのは 泉の水に用がある時だけ。
つまり 覆面の男が この先に何があるのか
わからずに向かっているの事は
作業している村人たちは容易に想像ができました。
一人の村人が覆面の男に問いかけます。
村人
「この先は泉しかないけど
泉に何か用かい?」
そう聞くと覆面の男は面倒くさそうに
レムロ
「えっ?行き止まりかよ。ここまで来て」
と村人に答えるというより独り言のように
言いました。 覆面の男は 村人に、
レムロ
「でも水ぐらい飲めるんでしょ」
と言うと
村人
「自分たちが 普段飲んでる水さ
飲めるよ」
と答えます。
レムロ
「ここまで来て、水飲んだだけかぁ」
と覆面の男は再び 独り言のように言うと
だるそうに泉に歩き出しました。
男が遠ざかると 村人たちは
覆面の男の話を始めました。
「何者だろう あいつは」
「覆面をしているし 怪しい人物なのは間違いない」
リュートも見た目からして覆面の男は
怪しいと少し思いましたが、でも
あまり気にするつもりもありませんでした。
そして少しして覆面の男が泉から
帰ってきました。
喉の渇きが癒されたせいか 先程より
機敏な動きをしている感じです。
覆面の男は泉に向かっている最中は
疲れもあったのか、あまり周りの事に
関心がない様子でしたが
帰りは疲れが取れたせいか
辺りを見回しながら泉から戻ってきます 。
そして覆面の男は リュートを見て
思ったのです。
『こいつ どっかで見たような』
覆面の男は思い出しました。
『そうだ 間違いないこいつはリュートだ 。でも なぜ生きているんだ?
あの時、死んだはずなのに』
覆面の男、レムロは5年前の日々を
思い出していました。
『5年前、劇場の鐘の前で俺は
リュートに会い、そして尾行をした。
その後、アナスタシアがリュートの
元へ向かった日に、オゾマが先回りをして
リュートを殺したはずなのに』
実はリュートを殺したオゾマは
その翌日に失踪。他国へ亡命を図りました。
オゾマのいなくなった屋敷は崩壊状態で
オゾマの悪事がオゾマの元で働いていた
人達の証言で暴露されました。
その後、亡命先で自殺。
オゾマの残された遺産はその町の管理になり
他人に売却された後そのお金の一部がオゾマの元で働いていた人達に平等に分配されたのでした。
レムロはそのお金でインチキ臭く
物売りをして、ふらふらしながら
生活していたのです。
レムロはさらに5年前の日々を回想します。
『オゾマはリュートを殺して屋敷に逃げて
帰ってきた。あの怯えた様子では
殺人をしたのはまず間違いない。
その後 アナスタシアを探しに
俺は街に出た。
リュートの工房や担ぎ込まれた病院。
アナスタシアの現れそうな場所全てに
行ったんだ。
そしてその中で病院でリュートが
死んだ事を看護師に聞いたんだ。
そいつがなぜ生きている?』
レムロはリュートの顔を確認すると
そそくさと急ぎ足でその場を後にしました。
村人たちは声をかけることもなく
レムロをあまり意識せず
作業を続けています。
その頃 アナスタシアは村長ラウムの家にいました。 レムロの事を報告するためです。
アナスタシアは自身の過去の事や、
ここまでの経緯を丁寧に話しました。
まだまだレムロがこの村や自分に
悪影響を与えるかどうかわからないが
レムロの過去を知っているアナスタシアに
とってはやはり警戒すべき人物であり
この村人たちは慈悲深い人達のため
余計にアナスタシアは心配でした。
ラウムはアナスタシアの意見を聞き
レムロの事については全てを悪と
決めつける事は現段階で出来なくとも
要注意人物として 村人 全員に忠告すると
アナスタシアに約束しました。
一方レムロはこのヒルマ村を離れ
この村から一番近いノルウェアの街に
向かいました。
ヒルマ村の人達が自身の作った
工芸品などを売るのもこの
ノルウェアの街で売っています。
ただ近くと言ってもヒルマ村からノルウェアまで徒歩で丸2日かかる場所でした
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