第6話 不思議なベル

「とにかく病院に運ぼう!」


集まってきた 住民たちが 担架を持ってきて

リュートを運び出します。

しかし 息がないのは 皆、分かっていました


担架でリュートが運び出されると

そこに一つのハンドベルがありました


アナスタシアはそのハンドベルを取ると

ハンドベルには

「アナスタシアへ」

と書かれ二羽の鴛鴦(おしどり)の彫刻が

掘られています。

リュートがアナスタシアに贈ろうと思って

作っていたハンドベルでした。


その時です。

劇場のスタッフが工房にやってきました。

それに気づいた アナスタシアは

リュートのハンドベルを持って その場から逃げました。


なんとか 逃げ延びた アナスタシア。

そこは 町の外れの馬屋でした。

夕方に劇場を出てもう 辺りはすっかり夜。

アナスタシアは疲れ果てていました。


リュートはもうこの世にいない。

手にはリュートがアナスタシアにくれた

ハンドベルが1つだけ。


アナスタシアは 逃げる最中 、

追手にハンドベルの音が聞こえないように

走っていたので、ハンドベルの音色は聞いていません。


アナスタシア そっと ハンドベルを鳴らしました。


美しい音色が アナスタシアを包みました。


その瞬間 アナスタシアは猛烈に悲しくなり

大粒の涙が ハンドベルを濡らしました。

そのハンドベルの音色は アナスタシアを

優しく包み込んで抱きしめ

その中でアナスタシアは泣いていたのです。


どのくらい泣いていたでしょう。

アナスタシアは自分の心がなんだか

どんどん 妙に落ち着いてくるのは分かりました。


すると"こうしてはいられない"と思い

闇が深くなった 夜の中リュートがいる

病院へと向かったのです。


街の病院はたった一つ。

街の中心にあるセントラル病院。

アナスタシアは劇場のスタッフに

バレないように周りに気をつけながら

病院に向かいました。

幸いにスムーズに病院まで来れました。


一方 オゾマも殺人を犯したのは初めてで

屋敷に戻った オゾマは冷静ではなく

ただただ怯えていて部下に指示をすることもできなかったのです。

アナスタシアを追っていた劇場のスタッフや

レムロも夜遅くになって一度オゾマの屋敷に戻っていました。


セントラル病院に運ばれた リュート。

しかし 当然ながら意識はなく死亡が確認された後 安置室に入れられました。

アナスタシアは病院の中へ入ろうとしましたが夜遅くなので正面玄関は閉まっていました。

そこで 裏口に回り込むと夜勤で残っている看護師がいました。

アナスタシアは看護師にリュートのことを尋ねました。

そして会わせて欲しいと。


リュートには肉親がいませんでしたので

そのまま遺体は焼かれるのを待つだけでした


それを知っていた 看護師はリュートを

気の毒に思い アナスタシアを安置室に

案内しました。


安置室にやってきたアナスタシア。

看護師が気を使い


「私は控え室にいるから

終わったら声をかけてください」


と言い、その場を立ち去りました。

アナスタシアは礼を言い、リュートが眠る

安置室の中へ。


静寂が包む空間にリュートは

安らかに眠っていました。


アナスタシアがリュートの元へ・・・


リュートの顔にかけられた 白い布を取る。

想像以上に安らかな リュート の死。

思わずアナスタシアの瞳から涙が・・・


そしてその涙が リュートの頬を伝う。

そして アナスタシアが


「ありがとう・・・」


と、一言。


そして持っていたハンドベルを静かに鳴らす


するとハンドベルの音は優しく 二人を包み込み、アナスタシアが一振りしただけなのにベルの 音がこだまするように安置室の中を

ずっと響いていました。


静寂の中をベルの音色だけが広がっていきます。


そして アナスタシアが持っていたハンドベルが次第に光を帯びていき、

その光が2人を包むとアナスタシアは

何だかとても懐かしいような

優しい気持ちになりました。


そして静かに瞳を閉じました。


まぶたを閉じて映る景色は 初めて リュートに会ったあの日の工房の光景。


ハンドベルを作っているリュート。


そしてそのリュートにアナスタシアは

声をかけました。


「リュート・・・」


すると、


「アナスタシア、アナスタシア」


と 、はっきり聞き覚えのある声。

アナスタシアは目を開けました。

そこにはなんと 体を起こし確かに呼吸をしているリュートがアナスタシアを見つめていたのです。


アナスタシアは夢を見ているようでした。


先ほどまで呼吸はしていなかったのに

でも今 現実にリュートはアナスタシアを見つめて アナスタシアを呼んでいる。


アナスタシアは驚き戸惑いながらも

喜びが 次第に勝っていって リュートに抱きつきました。

リュートもしっかりアナスタシアを抱きしめ

温もりを感じていました。


少しして2人は今後のことを考えました。


リュート

「これからどうしようか」


アナスタシア

「私はもうオゾマの元には帰らない。

私もあなたも無事だということが オゾマにバレると結局何も変わらない気がするの」


リュート

「そうだね。 どこか2人で別の地へ行って

一緒に暮らそうか」


アナスタシアは二つ返事で答えました。


アナスタシアは先にリュートを外に出し

病院の看護士に礼を言うとリュートと共に

病院を後にしました。

そして2人は 一度 リュートの工房に寄って

職人道具や 使えそうな日常品をバッグに詰めて真夜中 2人で町を抜け出したのです。

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