第2話 楽器職人リュート

ある日アナスタシアは屋敷の人間と街に

出かけました。アナスタシアは常に監視の目があり、外出するときは必ず屋敷の人間と一緒でした。

そうして歩いていると、どこからか美しい鐘の音が鳴っているのに気が付きました。

アナスタシアがその鐘の音が鳴る方へ近づいてみると、そこは古い楽器工房でした。

そして一人の青年が鐘を作っていたのです。

屋敷の人間が用事で離れている間に、アナスタシアは楽器工房の入口に立ちました。ドアは開いていたので、入口からそっと見守るように青年が鐘を作る姿を見ていたのです。


青年の名はリュート。

音楽が好きな青年で楽器職人になりましたが

この時代、あまり楽器はあまり売れませんでした。しかしリュートは貧しい生活で苦しくても幸せでした。

そんな様子を入口から見ていたアナスタシアに、リュートが気が付きます。

お互い目と目が合いました。そして思わず


アナスタシア「すみません、楽器を作ってるんですか?」


と声をかけると、


リュート「あ、ああ、うん。ここは歴史ある楽器工房なんだ」と返しました。


アナスタシアは楽器工房を見たいとリュートに聞くと、リュートは快く受け入れました。


アナスタシアがそっと工房の中に入ると、

沢山の鐘であふれていました。大きな鐘、

小さい鐘。細かな彫刻が施された鐘。

教会で鳴らす大きな釣り鐘やハンドベルの

様な小さな鐘まで沢山ありました。


古い工房はアナスタシアにとって別世界に

来た様な感覚で、置いてある職人道具や

飾ってある古いハンドベルが一つ一つ

何か物語を語っているような気がしてならなかったのです。

窓から見える先程まで自分がいた景色も

何故か色鮮やかに見えたのでした。

アナスタシアのこの経験は今までに感じたことのない経験で、何か生まれ変わったような

気さえしたのでした。


工房の中をゆっくり見回すアナスタシアに

リュートは一つのハンドベルを見せました。


リュート「これ鳴らしてみる?」


リュートは美しいハンドベルをアナスタシアに渡しました。それは二羽の鴛鴦(おしどり)の彫刻が刻まれたハンドベルでした。

アナスタシアはハンドベルを持つとゆっくり

振ってみました。

ハンドベルの美しい音色が工房に響き渡り

アナスタシアはその音に聴き入ってました。


すると突然声がしました。

「おい!どこだ?帰るぞ、アナ!」


工房の外で、屋敷の人間がアナスタシアを探していたのです。

アナスタシアは普段屋敷の中でアナと呼ばれていました。アナスタシアはリュートに

「また来ても良いですか?」

と聞くと、リュートは

「ああ、構わないよ」

と、ちょっと照れ臭そうに返事をしました。

そしてアナスタシアは屋敷の人間に、ここの工房から出てきた事がバレないように、

そっと外へと出たのです。


その日のアナスタシアの工房での経験は

アナスタシアの心を開く素晴らしい経験に

なりました。根っからの職人気質で世間の

事に疎く、有名人であるアナスタシアの事を

知らないリュートも彼女の美しさに惹かれ

心が温かくなったのでした。

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