第105話 エン・ゲティも小集団が住むには悪くなさそうだ
さて、まずはキルベト・クムランに行ってソルガムやミレット、ヤムイモを植え、天然の温泉である ハママートマインの温泉に立ち寄って入ってみたがかなり良かった。
「ここはエリコの周りが洪水で水に囲まれているときだけではなく、冬の寒いときに来るのも良さそうだな」
俺がそう言うとリーリスはコクリと頷いていった。
「そうね。
冬の寒いときにここにこれれば体も温まって調子が良くなると思うわ」
「とはいえ家畜の世話もがあるから、ずっとエリコからはなれるわけにもいかないんだよな。
とはいえここの土地を押さえておきたいから人を常駐はさせておきたいが」
「常駐?」
「ああ、ここに誰かがずっといれば他の集落から人が来てここを取られることもないんじゃないかなとおもうんだよな」
「そうね」
「まあ、そのあたりは村長のマリアとでも相談したほうがいいと思うけどな」
「そうね、
私達が勝手に決められるものではないわよね」
俺達の話をよくわからないアイシャと息子が暇そうにしていたので、おれはこえをかけた。
「二人ともすまんな。
じゃあ次の場所を目指すぞ」
「めざすのー」
「めざすー」
俺達は荷物をまとめてザルカマイン川を下っていき、葦船を川におろして、死海まで川の流れに乗って出ていくとオールを漕ぎ始める。
ハママートマインからエン・ゲティは南西の方向になるので太陽や死海の湖岸などを目印にして死海の上を進む。
しかし、地中海をギリシアやキプロス、アナトリアことトルコ方面からやってくる商人たちは大したものだと思うよな。
さて、エン・ゲティは21世紀では観光名所の国立公園で死海の湖岸はエンゲティビーチとしてホテルが立ち並ぶ場所だ。
21世紀の死海はヨルダン川の農業用水利用の増加などにより流量が大きく減ってしまったことで、死海の水は干上がり、南北のふたつ、「上死海」と「下死海」のふたつの湖に別れてしまっているが、今現在はレバノン山脈やアンチレバノン山脈に残る氷河が融解することによって起こる増水と農業や工業などの水の利用がないこともあって、死海はまだ一つの湖のままだ。
だがおおよその位置はスマホで見当をつけてあるので、そこへ向かって進む。
このあたりは極めて乾燥していて地中海側から湿気を含んだ風が山を超える際に雨になって、山を超えると乾燥した空気になってしまう。
冬の日本が日本海側では大雪が降るが太平洋側では乾燥しているのと同じ理由だな。
特に死海の湖岸あたりはその傾向が強いのだが、その中でもそれなりに木が生えている場所が見えてくる。
「多分この辺だな、船を湖岸に上げるぞ」
俺は湖岸に船をつけて子どもたちやリーリスを船から死海から湖岸へ引っ張り上げて、西の高くなっている方へ進む。
エン・ゲティにはダビデ川とアルゴット川という2つの川がありそれなりの水量はあるはずなのだが、夏の時期には湖岸では
そしてやがてチョロチョロと水が流れ始め、緑が見え始めた。
そして木々が増え始め動物の姿も見かけるようになる。
ここには、
その他にもトリストラムというムクドリの仲間も見かけることができたから水や食料になるものは間違いなくあるのだろう。
キルベト・クムラン同様に所々で岩山の山肌から水が吹き出して滝になっていて、落水の下はプールのような水たまりにもなっている。
「温泉とは違うがこういった水の溜まった場所に体を浸すのも気持ちがいいな」
このあたりは非常に乾燥しているため、日本の夏のようにジメジメ蒸して汗が引かないというようなことはないが、逆に脱水症状や熱中症にかかる時には一気悪化する可能性が高いので時々水で身体を冷やし、水分も補給しながら上流へ進む。
険しい道の先に、隠されたような砂漠のオアシスや小さな滝、天然の洞窟がひっそりと現れると、心まで癒される。
「やっとついたなー」
「ついたわね」
「ついたのー」
「ついたー」
しばらく休憩したあと、自然に生えたナツメヤシやぶどうを摘み取り、水で冷やしてから死海を眺めつつみんなで食べる。
「うーん、景色はきれいだし、ナツメヤシの甘さやぶどうの旨さもひとしおだな」
俺がそう言うとリーリスがうんとうなずいて言う。
「ここもいい場所よね。
動物を飼うには適してはいないけど、住んでいもいいと思うわ」
そしてアイシャもいう。
「お水が冷たくて気持ちいーのー」
「いーのー」
「そうだな。
家畜の世話をお願いできればまた来たいな」
「そうね、でもお母さんやリーリムにも来てもらいたいわ」
「確かに。
今度は俺達が家畜を世話をしてリーリスのお母さんやリーリムに来てもらうか」
「うん、そうしましょう」
キルベト・クムランやハママートマインもだが、エンゲティも避難場所として使うには十分良い場所だとわかってよかったな。
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