第106話 エリコが水没したときの農場の候補地になりそうな場所が見つかったな
さて、キルベト・クムランから温泉地であるマハマート・マインを経由して、エン・ゲティまでやってきて一晩過ごしたが、ここも十分に移住先にできそうな場所だ。
「さて、だいたい目的は果たせたし、キムベト・クムランに立ち寄ってからエリコにそろそろ帰るとしよう。
アイシャたちは楽しめたか?」
俺がそうきくとアイシャは笑顔でうなずきながらいった。
「すっごくたのしかったー」
そして、息子もいう。
「たのしかったー」
「それならよかった。
リーリスはちょっと大変だったと思うがどうだった?」
俺がそう言うとリーリスは笑顔でいった。
「たしかに大変な事もあったけど、とても楽しかったわ」
「ああ、ならよかったよ」
基本的に交易商人のような例外を除けば、この時代の人間は泊まり込みでの遠出はしないからな。
それを考えると俺達はかなり変わってることをしているとは思う。
しかし、100年ほどあとに起こるはずの大洪水に対処するには大事なことなのだ。
俺達はエン・ゲティを離れて、死海の西岸を北に進む。
しばらくすると、死海のほとりに真水の湧く泉や小川があるのがみえた。
位置的にはキルベト・クムランの南に位置するな。
「ちょうどいい、今日はここで休んでいこう」
俺がそう言うとリーリスは頷いた。
「そうね。
エリコまでの残りの距離を考えても、ここで休んでいくのがいいと思うわ」
というわけで俺達は船を小川の川岸まで寄せて、陸に上げたあと、アイシャと息子を船から陸に抱え上げた。
おそらくここは21世紀の現代ではイーノット・ツキム自然保護区のエン・フェシュカ、聖書の中のエゼキエル書ではエン・エグライムと呼ばれている場所だろう。
クムラン宗団に所属し、小麦や野菜、香料などを栽培するための農場として、エン・フェシュカとエン・エル・グウェイルという場所があったらしいが、その一つだな。
死海は塩分が強く魚が住めないが、ここには魚も住んでいて、葦のような水草も生えていたりする。
更にはガゼルやヤギ、水鳥もいたりする。
魚は死海の近くの下流に流れていくと、塩分濃度が上がるため、苦しくなり慌てて上流へ戻っていくようだけどな。
このあたりの川は乾季には干上がることがほとんどだが、ここの場合は一年中水が流れているようだ
この西の山の方で雨が降ると地面に浸み込み、地面に浸み込んだ雨は地下の石灰石の層にできた鍾乳洞までくると地下水脈となり流れそれが低いところでは露出して水が湧き出てくるわけだ。
エルサレムの地下深くの地下75メートルあたりには大きな地下水脈があるらしい。
ちなみにエゼキエル書の記述は
(エゼキエル47:7-12)
私が帰って来て見ると、川の両岸に非常に多くの木があった。
彼は私に言った。
「この水は東の地域に流れ、
海に注ぎ込むとそこの水は良くなる。
この川が流れて行く所はどこででも、そこに群がるあらゆる生物は生き、非常に多くの魚がいるようになる。
この水がはいると、そこの水が良くなるからである。
この川がはいる所では、すべてのものが生きる。
漁師たちはそのほとりに住みつき、エン・ゲディからエン・エグライムまで網を引く場所となる。
そこの魚は大海の魚のように種類も数も非常に多くなる。
しかし、その沢と沼とはその水が良くならないで、塩のままで残る。
川のほとり、その両岸には、あらゆる果樹が生長し、その葉も枯れず、実も絶えることがなく、毎月、新しい実をつける。
その水が聖所から流れ出ているからである。その実は食物となり、その葉は薬となる。
というものだが残念ながらエン・ゲディからエン・エグライムまで網を引く場所とはならなかったが、ヨルダン川以外で魚を取れ,、果樹が生えている肥沃な場所があるのはありがたいと思う。
とにかくここに小麦畑をつくってみて、うまく育つようならエリコの衛星集落として、だれか居続けるのがいいだろう。
死海の南端近くにあるエン・ボケックにも泉や温泉が有るようだし、探せば意外と集団で居住が可能そうな場所はあるみたいだな。
「さて、今日食べるものを確保しないとな」
俺がそう言うとアイシャが川の中を指さして言う。
「とーしゃ、あそこにお魚がいるー」
「ああ、じゃあアイシャには魚すくいを頼む」
「わーったぁ」
そうすると息子もいう。
「ぼくもやうー」
「じゃあ、リーリス、このこと一緒に魚をすくってくれるか。
俺は食えそうな果実を探してくる」
俺がそう言うとリーリスは笑顔で頷いた。
「ええ、まかせておいて」
そしてたも網を握ってニコニコしている息子が俺に言う。
「いってらっしゃー」
「ああ、行ってくるよ」
さて今は春でこの辺りで手に入れられそうなフルーツというと……
少し歩き回ってみると、さくらんぼがなる
ちなみにさくらんぼは4000年ほど前の青銅器時代には栽培され、食べられていたのは間違いないらしい。
「うーんこの時期のやつはやっぱりあんまり甘くはないか。
熟す前の実には青酸配糖体が含まれるため、やや毒性があるらしいし子どもたちには危ないかな」
サクランボだけではなくアンズ、ウメ、スモモ、ビワなどのバラ科サクラ属植物の種子にある仁や未熟な果実の果肉や葉には、アミグダリンなど、体内で分解されると非常に強い毒性をもつ青酸を発生するおそれのあるシアン化合物が含まれているため、 これを多く摂取すると、頭痛やめまい等の健康被害を引き起こすおそれがある。
ちなみにタピオカの原材料であるキャッサバやクローバーなんかもそうだな。
続いてメロンっぽいものを探してみた。
ちなみに厳密に言えばメロンは園芸分野では実を食用とする野菜の果菜とされるが、青果市場での取り扱いや、栄養学上の分類では果物あるいは果実と分類されている。
「ん、こっちはそこそこ甘いな」
というわけで俺はメロンを何個か探して家族が魚を取っている場所へ戻っていく。
「戻ったぞー」
俺の声にリーリスが振り向く。
そして俺の手の中にあるメロンを見ていった。
「あら結構取れたのね。
こっちも結構捕まえられたわよ」
アイシャと息子がドヤ顔で胸を張りながら言う。
「頑張ったー」
「ばったー」
「おう、ふたりともありがとうな」
二人が捕まえたのはキネレト・サーディンと呼ばれるニシンの仲間とムシュトと呼ばれるティラピアだろう。
日本ではニシンは海水魚だが、海外では純淡水産や海と川を通し回遊する両側回遊と呼ばれる種類のニシンもいる。
両側回遊する魚としてはウナギやアユ、サケやサクラマスやサツキマス、ニジマスなどのマス類が有名だがハゼ、ボラ、スズキ、クロダイ、ヒラメ、イシガレイなどもそうだ。
キネレト・サーディンもムシュトも焼いて食えば普通にうまいので助かる。
メロンを探していたときに見かけたが野生の麦もあったしやはりここは肥沃な土地のようだ。
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