第104話 ハママートマインの温泉はかなり良かったよ

 さてキルベト・クムランに到着して休憩がてら食事をしてから、クムラン川に近い比較的水分が多そうな土を耕して、ソルガムやミレットの種を撒いたり、ヤムイモを植えてみたりした。


 これで栽培がうまくいくようなら、毎年春先にここに来てソルガムやミレット、ヤムイモの栽培を進めようと思う。


 それに加えてどんぐりやナッツ、西洋クリの樹の実を埋めて、それらの木が生えてくるようにしてもいいけどな。


 そういった作業をしたら日もくれたので、洞窟で一泊して夜が明けたら、温泉のあるハママートマインに向かう。


「さて、今日はお湯の湧き出てる温泉を目指すぞ」


 俺がそう言うとリーリスは首を傾げた。


「お湯が自然に湧き出るなんてことがあるのかしら」


 俺はその言葉に苦笑せざるをえない。


「まあ、普通はそう思うよな。

 でもあるはずなんだ」


「まあ、あなたが言うことなのだから本当なのでしょうね」


 葦船にみんな乗り込み、道具も船に乗せて対岸のヨルダン側にあるザルカマイン川を目指すとやがてそれらしき川が見えてきた。


 どうやらザルカマイン川は枯れ川ワジではないらしい。


 俺達は葦船を川岸に上げ、ここからは歩いていくことにする。


「ここからちょっと歩くが頑張ってくれ」


「はいはい」


「がんばるのー」


「がんばー」


 ザルカマイン川は死海に流れ込む温泉川で、ハママートマインの温泉は特に皮膚病、神経痛、リューマチに良いらしい。


 こういった効能があるということはおそらくナトリウム炭酸水素塩泉つまり重曹泉だとおもう。


 しかし、川の水に硫黄の匂いが混じってるようなので硫黄泉もあるのかもしれない。


 ちなみに風呂のことを、アラビア語でハンマームと言い、その複数形が、ハママートらしい。


 マインというのは地名なのでマインのたくさんある温泉という意味だな。


 英語ではマイン・ホットスブリングスと呼ばれるようだ。


 しばらく歩くとハママートマインらしき場所にたどり着いた。


 見て驚くが轟音とともに吹き出し山肌を流れ落ちる温泉の滝が見事だ。


 滝の下や川の岩は黄色い硫黄のかさぶたを何重にも被っているのが見えるので間違いなく硫黄泉だな。


 源泉の温度は50度くらいなので崖を流れ落ちると、適度に冷えてちょうどいいくらいの温度になるような。


 お湯に触れてみると熱すぎもせず、ぬるすぎもせずのちょうどよい湯加減のようだ。


 俺達たちは服を脱ぐが、周りの岩や空気も源泉によって温められているせいか、裸でも全く寒くない。


 現代ではイスラム教の戒律もあって肌の露出が少ない水着を現地の女性は着ないと入れないみたいだけどな。


 そして滝壺の下に溜まってる温泉に身を沈めるとジワッと体が温まってくる。


「うん、こりゃいいな」


 俺がそう言うとリーリスは頷いていった。


「本当体が芯から温まるわね」


「きもちいいのー」


「いいでしー」


 アイシャと息子も温泉を楽しんでいるようだ。


 滝の裏側には、天然のミストサウナの洞窟があってこちらもいい感じだった。


 やはり俺が作ったような簡易式サウナだと湿度が足りないんだよな。


 周囲にはある程度樹木も生えて緑もあるし、秋口には樹の実やナッツ、果実などが手に入るかもな。


 ただ川については硫黄が流れ出しているだろうから魚とかは温泉の吹き出しているよりも下流のほうにはいないだろう。


 上流に行けば小魚くらいはいると思うので少し探してみたがやはり小魚ならいて人を見ても警戒することもないようなのでたも網で簡単にすくえた。


 同じように温泉に近い場所を畑にするのは硫黄分が多すぎて難しいかもしれない。


 食料の確保の問題や交易商人が来づらい場所だからか、現状では集落などはないようだが、避寒の場所や病気の療養の場所にするにはここはとてもいいと思う


 少し離れれば温泉が噴き出していない洞窟があったんで、そこで持ってきた小麦粉をこねて、壺窯を使ってパンと魚を焼いて食べたがなかなか悪くなかったよ。

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