第102話 俺が生きている間にエリコの人口が多く増えたら集団を分けておいたほうがいいかもな

 さて、俺はおよそ100年後に洪水が起こると推測している。


 その原因はヨルダン川の源流付近のアンチレバノン山脈に現在はあるであろう、氷河湖の決壊によりエリコは一度水に沈むことになるのだろうとも推測している。


 エリコに人間が定住した最初期は12000年ほど前からで、9370年前頃に放棄され、9220年前頃からそれまでとは異なる文化をもつ人々がその後エリコに定住し、7850年前頃にまた放棄され、しばらく無人の町となったらしい。


 このニ回のエリコの街の放棄はおそらく両方とも氷河湖の決壊による大洪水だと思う。


 洪水被害というのは日干しレンガの住居に住んでいるエリコの住人にとっては深刻だっただろうし、おそらく井戸の水も病原菌などに汚染されただろう。


 21世紀でも床上浸水してしまうと住居の中に残ってしまった汚泥、あるいは魚等の水生動物などの死骸を完全に除去したうえで、次亜塩素酸やベンザルコニウムなどで消毒をしないと再び住むことはできない。


 川の水には破傷風菌やレジオネラ菌など危険な細菌が含まれていたりするし、カビが繁殖する可能性も高いからな。


  それらが含まれた汚泥が泉に入り込んでしまうと、かなり長い間は泉の水は飲用には使えない状態になるだろう。


 話はそれたがちなみにここまでは先土器石器時代と呼ばれる土器がない新石器時代だ。


 その後、7300年前頃には周壁を備えた都市が形成されるが、4300年頃に異民族の来襲によるものと思われる火災にあい、またしばらく空白期間となる。


 そして、3900年前頃に再び町が建設されたが、3560年前頃にヒクソスの侵入にあい、大火災に見舞われてまたもや廃墟となったらしい。


 ちなみにヒクソスは 小アジア、シリア地方にいたセム系種族を中心とする遊牧民族で、3730年前ごろにエジプトに侵入し、王朝を開き支配した連中でエジプトに騎馬と戦車をもたらしたと言われていた。


 しかし、古代エジプトを征服し、エジプト初の異民族王朝を打ち立て、約100年の間シリア・パレスチナ〜エジプト北部の一帯を支配したと言われるヒクソスは、4100年前くらいからエジプトに住んでいて、最初は平和的にエジプト北部に移住していたようだ。


 ヒクソスは初めから略奪や征服を目的に暴力的にエジプトに侵入したのではなく、移民として平和的に移住して来たが、何らかの理由で最終的には武力で政権を取ったらしい。


 ヒクソスが政権を奪取する以前の350年間ほどはエジプト人とヒクソスは争うこともなく、穏やかに暮らしていたらしく、ヒクソスがエジプトの中王朝を武力で打倒した理由は結構謎だったりする。


 実際にヒクソスが政権を奪取する以前の350年間に埋葬された36人の歯を調べたところ、そのうちの24人が外国生まれと判明し、これは当時のエジプト中王国が、エジプト以外の地域からの移民を歓迎していたことを意味するようだ。


 まあ、逆に言えば平和的な移住を進めても、後には武力での反逆を行う可能性もあるから移民を無条件で歓迎するというのも危険なのだと思うが。


 エリコがヒクソスに攻撃されたのがエジプトで政権を奪取した後なのはそういう理由のようだな。


 まあ、それはともかくエリコの人口が急激に増えてしまうと新たな問題が出てくると予測はできる。


 ちなみにアメリカのアーミッシュの人口は20年ごとにおよそ2倍になり続けているらしく、1700年代に移住した時は200人ほどの集団だったが、1920年代には5000人まで増え、1980年代半ばにはおよそ8万4000人へと増加し、2019年度のデータでは、アーミッシュの人口は34万2100人まで増えていたりする。


  さすがに食糧事情や衛生事象が全く違うので、エリコの人口がここまで増えるとは考えづらいが、100年後には相当増える可能性は高い。


 いままでは集団生活に適さない行動、例えば暴力だとか窃盗のような行動を起こすものをエリコから追放することなどで200人の集団での生活ができるようにしていた。


 150人付近から200人ほどが、現生人類にとっては人間が安定的な社会関係を維持でき『自然に集団を維持できる人数』の上限だからな。


 これはダンバー数というやつで、現状のエリコの人口は200人ほどだが家族の元だけで育てられれている乳幼児を除外すれば150人くらいに収まるはずだ。


 それを大きく上回る集団を形成するには、明確に拘束性のある規則や法規などが必要になる。


 具体的に言えば集団の全員が理解できる、明確な刑罰というものが必要ということだ。


 しかし現状では刑罰を決めて集団の数を増やそうとするよりも、集団を分けてしまったほうがいいように思う。


 実際にアメリカに住むアーミッシュは人口が増えてくると集団を分け、一つの集団の上限は200人

程度らしいし。


 まあその場合は人数が均等に分かれるように移住を希望するものがいるかどうかが問題だけどな。


 まあ、まずは移住先を見て生活するのに不便がないかどうかを確認しないと駄目だろう。


 しかしここで問題になるのは畑や家畜、家禽などの世話だ。


 畑の麦などはまだしばらくは放置しても刈り取りまでは時間があるので問題ないと思うが、家畜や家禽の世話を放り出すのは流石にまずい。


 特に今は出産や産卵の季節だしな。


   ここは村長のマリアに相談してみるか。


 というわけで俺はマリアの下へ話をしてみた。


「マリア、また川が増水して周囲が水浸しになった時に行けるような場所を今のうちに見ておきたいんだが畑や家畜、家禽の世話をしないわけにもいかないんだがどうにかできないかな?」


 俺がマリアにそう言うとマリアは少し考えてから言った。


「そうですね、あなたがそうしたいということはこの街にとって何らかの利益になる物があるのでしょう。

 私から他の家族にあなたの家の畑や家畜などの世話をしてもらえない話してみます」


「ああ、そうしてもらえると助かるよ」


 結果として言えば子供の熱が出た時などに対処して、俺が助けた家の家族などが俺達が出かけている時に世話をしてくれることになった。


 なんだかんだでエリコのために色々やってきたことで、それなりの信頼を得られるようになっていたようで良かったよ。


 これで今のうちにあちこちを見て回ることができるな。

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