第91話 肩こりと腰痛は人間の大昔からの悩み、そして道具を使わない遊びは結構重要だと思う
さて、アイシャやリーリスはラピスラズリのペンダントをとても気に入ってくれたようで、離さず身につけていてくれている。
宝石をもちいたこういった飾り物はこの時代では身を美しく飾るためよりも、厄除けや大地母神の加護を期待して身につける、呪術的な意味合いも大きいから当然といえば当然なんだけどな。
今度商人が来たら俺や息子の分もほしいところだがちょくちょくくるわけではないので、それがいつ頃になるかはわからないのだよな。
まあそれはおいておいて、冬の間は雨が降るから雨の日はのんびり家の中で過ごす。
家畜たちもアヒルやガチョウは水が大好きだが、その他の驢馬、山羊、羊、猫などは濡れるのは嫌いだから家畜小屋や部屋でおとなしくしている。
鳩の塔の鳩も多分雨の中を飛び回ったりはしないんじゃないかな?
もちろん水や草なんかは必要だからちょこっと小屋を出て草を食べたりはするけどな。
こういう時はどんぐりのアク抜きやどんぐりや麦などの製粉作業をして暇をつぶしたりする。
アク抜きしたどんぐりをハンマーで叩き割って、平らな石の上で石の棒を使ってすりつぶし、あとはロータリーカーンで粉にしていくのだが、これはすごく時間がかかるし体力も使うのだ。
麦の場合は脱穀もしないといけないしな。
人間が定住をすることになったのはこのドングリのアク抜きや製粉にかかる時間が長すぎるが、長期保存が効くという恩恵のほうが大きいからだという説もあるな。
「うーむ、腰が痛くなっちまったな。
アイシャ、腰をふんでくれるか?」
アイシャは俺に頼まれたのが嬉しいのか笑顔でいった。
「とーしゃこしいたいの?
わあったー」
俺はガゼルの毛皮を敷いてある地面に横になりアイシャに腰をふんでもらった。
「おお、やっぱり子供にふんでもらうくらいが一番ちょうどいいな」
アイシャが聞いてくる。
「ちょうどいいの?」
俺は寝転がったまま言う。
「そうだな、ちょっと疲れたくらいだとアイシャの重さがちょうどいいな」
「だいぶ疲れたら私のほうがいいのかしら」
リーリスが笑いながら言う。
「そうだな、そんな感じだよ」
人間の脳が大きくなり直立の二足歩行を行うようになるとどうしても首や腰の筋肉の負担がおおきくなって慢性的に肩こりや腰痛に悩まされるようになる。
ずっと座って作業をするようになれば背中の筋が伸び切るので余計に腰が痛くなる。
そういうときは尻から腰にかけての筋を押してもらうのが一番いいが軽い小さな子供が全体重を載せてふむくらいが一番いい感じだったりもする。
もっとも疲れがひどくなると力も強めのほうが良くなったりするんだけどな。
「それじゃあとは私がやろうかしらね」
「ああ、悪いな」
「大丈夫よ、本来これは私達女の仕事だし」
本来男は畑を守るために弓で鹿や猪などを狩るのが冬の仕事で、製粉や織物など家での作業が女仕事だったりする。
なので、こういった雨の日でも一緒になって製粉をしたり、服を一緒になってつくったりする男はあんまりいない。
「アイシャありがとうな、もう大丈夫だ」
「わあったー」
アイシャは俺の腰の上から降りてリーリスの横に座ってリーリスがどんぐりを粉にしている様子を見ている。
しかしだんだん暇を持て余してきたようだ。
息子も暇そうだな。
「アイシャ俺とにらめっこしようか」
アイシャは嬉しそうにいった。
「するー」
「にーらめっこしましょ、笑うとまけよ、あっぷっぷ~」
「あっぷっぷ~」
そういった後に変顔をしたり面白ポーズをして笑った方が負け。
アイシャは俺を笑わそうとほっぺたを両手で抑えて一生懸命変顔をしてる。
その様子が可愛くて思わず笑っちゃう。
「あはは」
「あいしゃのかちー」
そう言ってバンザイして喜ぶアイシャ。
そしてそんな俺達の様子を見て笑う息子。
笑うというのはストレス解消にもなるし、相手を笑わせるにはどうすればいいかを考えるのもコミュニケーションの一環として結構重要だったりする。
「次は負けないぞー、にーらめっこしましょ、笑うとまけよ、あっぷっぷ~」
「あっぷっぷ~」
しばらくしたアイシャが吹き出した。
「ぷふー」
「今度は俺の勝ちだな」
「むーもっかーい」
「よーしもっかいだな」
こんな感じで俺がアイシャの相手をしている間にリーリスは粉挽きを終えていたらしい。
「じゃあ、次は私も一緒にやるわね」
こんな風にみんなでお互いに笑わせ合うというのは本当に良いことなのだろう。
ゲーム機のゲームは楽しさをあたえてくれるが、与えることはできない。
だから21世紀の現代っ子はコミュニケーションを取るのが苦手になっていったのじゃないかなと俺は思ったりする。
物質的に豊かになることが必ずしもいいことでもないんじゃないかとやっぱり思うんだよな。
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