第89話 西洋よもぎを使って団子やパンを作ってみるか

 さて、そろそろ寒くなってきたので、俺たち家族は風邪ひき対策にローズヒップの採取を始め、春に採取し乾燥させて保存していた、カモミールやエルダーの花をハーブティーにして飲み始めた。


 しかし、俺やリーリス、アイシャは普通に飲めるんだが、息子はカモミールやエルダーの花のハーブティーを飲むのが嫌なようだ。


「やー」


 そう言ってバタバタ暴れる息子を前に途方に暮れる俺。


「うーん、風邪を引かないために一番飲んでほしいのは息子なんだがな」


 俺がそういうと苦笑しながらリーリスが言った。


「でも、仕方ないと思うわ。

 私達にはそこまで気にならなくても少し苦味はあるもの」


 そしてアイシャも言う。


「それにちょっとかわったにおいなの」


 俺は二人の言葉にうなずく。


「たしかに二人の言うことも事実なんだよな」


 カモミールやエルダーには特段年齢や妊婦などへの禁忌事項はないが、やはり幼児は苦味とかに敏感だ。


 こういった時に飲みやすくする手段としては砂糖やミルクを入れるのが手っ取り早いのだが、この時代には砂糖はないし、家畜からミルクが取れる時期でもない。


 ちなみに去年は母乳でほぼ過ごしていたから、息子には特にハーブティーは飲ませなかった。


 まあ、こういうときには砂糖の変わリにナツメヤシの樹液を使うのが手っ取り早いか。


 甘い樹液というとパンケーキなどに使うメープルシロップが有名だが、ナツメヤシや東南アジアではココヤシの樹液を煮詰めて砂糖を作ったりするくらいこれらの木の樹液は甘いのだ。


 カモミールの花を煮出したカモミールティーにナツメヤシの樹液を少し混ぜてからよくかき混ぜて息子に飲ませてみる。


「どうだ?」


 俺がそう聞くと息子は笑顔でいった。


「んまー」


 どうやら甘みで苦みをごまかせたようだ。


 これはコーホーやホットチョコ(ココア)、日本以外での茶の飲み方と同じだな。


「ん、それなら良かった」


 カモミールのハーブティーを飲めれば、息子が風邪をひく可能性は低くなるだろう。


 しかし男の子は女の子より小さい頃は体が弱いとも聞くし、やれそうなことはやっておくべきか。


 そういうわけで少しスマホで調べてみたが、この季節でも取れそうな薬草と言うとヨモギかな?


 よもぎは漢方薬では艾葉がいようと呼ばれる薬草の一つで、乾燥させた葉っぱなどを粉末にして薬として飲んだりする他に、乾燥させた葉っぱなどをよもぎ茶にして飲んだり、よもぎ蒸しに使ったり、モグサにして使ってお灸に使ったりもする。


 ヨモギは多年草で寒い地域では冬は根っこだけになって寒さをやリ過ごし、春にまた芽吹くが、寒さがさほどではない場所では一年中葉をつけている。


 生命力はむちゃくちゃ強く、見えている部分を刈り取っただけでは普通にまた生えてくるので雑草として嫌われていたりもする。


 春の新芽は天ぷらやおひたしにして普通に食べられていたりもする。


 秋から冬にかけての葉っぱは硬いので食べるには向いていないが、乾燥させた葉っぱをお茶にしたり粉にしたりすれば普通に薬草として利用できるはずだ。


 ヨモギには食欲不振や冷えによる腹痛、出血、流産の予防や浄血・増血作用他、保湿や収れん、抗酸化、抗炎症に体温を上げる作用などがあって婦人病に効くと昔から言われていたりするらしい。


 またその液には止血や止痛作用があり、生葉として傷口にすりつぶしたヨモギの液を塗ることもあったようだ。


 もっともヨモギの種類は非常に多くて、日本で言うヨモギが自生するのは日本や朝鮮半島に中国と言った東アジア地域だけだが”マグワート”と呼ばれている”オウシュウヨモギ”ならばヨーロッパから北アフリカ、中央アジアまで幅広く分布していて、元々はこちらが原種だったようだ。


 その効能はヨモギとほぼ同じで古代ローマなどでも色々使われていたらしい。


 ただ、ヨモギもマグワートも妊婦や授乳中の母親には禁忌とされるようなので、息子にはお茶などで多めに取らせるのは危険かもしれない。


 というわけでスマホでもう少し調べてみたが、ヨモギ蒸しや草餅・草団子・よもぎパンなどにヨモギが少量入っている程度であれば問題ないらしい。


 とりあえずはヨモギのハーブミストサウナを試してみるか。


 すでに公共の蒸し風呂は作ってあるし、そこにヨモギを入れたツボを置けばいいかな?


「今日はみんなで風呂に入るぞー」


 干しレンガで作った蒸し風呂は公共施設扱いだが、ここエリコでは燃料となる木材があまり豊富ではないので頻繁には入れない。


「あら、いいわね」


 俺の言葉にリーリスが頷くと、アイシャもバンザイをして喜んだ。


「おふろいくのー」


 二人が喜んでいるのを見て息子もニコニコしている。


 俺達は家族で風呂に入りに行った。


 持ち物はシャボン草に亜麻の布、今回は水を入れたツボに麻袋に入れたマグワートも持っていく。


 みんな服を脱いで裸になり、脱いだ服はかごに入れてから、蒸気室に入る。


 炉で焚いている火のそばにと石のおかげで十分湯気は満たされてるが、今回は水を入れたツボに麻袋に入れたマグワートを火の側におく。


 しばらくするとマグワートの匂いが蒸気室に広がった。


 ヨモギの香りはシネオール、ベーターカリオフィレン、リヨンなどなど多くの揮発性の成分からなっていて蒸すと簡単に広がるが品のある独特な香りで決して嫌に感じるものじゃない。


「あら、温かいしいい香りね」


「いいにおいなのー」


「あったかー」


 アシで織ったゴザの上に、めいめいが座ったり寝たりしてのんびり過ごすと汗もたっぷり出てくる。


 それぞれ自分の体を水で濡らしてシャボン草の汁をつけて手の届く範囲を絞った麻布で拭いてから、俺とリーリスはお互いに背中を洗い合う。


 そして俺はアイシャの、リーリスは息子の背中を洗ってやる。


 みんな十分汗をかいて垢を落としたら、風呂から出る


  そして家に戻ったら細かく刻んだマグワートを少し混ぜたよもぎパンを作ってみた。


  よもぎの風味はしつつ、子供にも食べやすいように作り置きしておいたバターとナツメヤシの樹液も入れてみた。


「味の方はどうだ?」


 俺がそうきくとみんなは笑顔だった。


「ええ、美味しいわよ」


 リーリスがそう言うと


「ほんとう、おいしいのー」


 そして息子もパクパク食べている。


「うまー」


 薬草であるよもぎを美味しく食べられるならパンだけじゃなく団子にしても良さそうだな。


 まあ、団子だと息子が喉につまらせる可能性もありそうだから。食べさせるときには気をつけないとだめだが。

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