第88話 そろそろ大根や蕪を探してみるかな
さて、秋の豊穣祈願の祭も終わって冬に入った。
そして、リーリスが作っていた息子の毛糸のショートパンツも無事完成した。
「これでどうかしら?」
リーリスが息子に毛糸のショートパンツ履かせてやると息子はとても嬉しそうだった。
「あったかー」
それを聞いてアイシャが言う。
「いーなー」
リーリスはそれを聞いて苦笑しながら言った。
「あなたの分はこれから作るからちょっと待っていてね」
その言葉を聞いてアイシャは嬉しそうにうなずいた。
「わーった、まってる」
そして雨が振りはじめ、土が湿り気を帯びてくれば麦の種まきが始まる。
最近は収穫する際に取れる栽培種小麦の割合も増えてきたので、鳩の塔の床に溜まっている鳩の糞を試験的に一部で撒いて、収量が増えるか試してみようと思う。
もっともエリコの周辺はヨルダン川の増水で塩害が起きたり、土壌の酸性化が起きたりはほとんどしないうえに、現状のエンマー小麦はパン小麦ほどには元々収量は多くないので余り意味はないかもしれないが。
まあ、鶏や鳩糞は家畜糞の中でも肥料成分が多く、肥料成分が比較的早く効くメリットもあるらしいので試してみて損はないだろう。
それと小麦などをまき始めるとガゼルやイノシシなどがそれを食べに来るので食べられないためにも積極的な狩りを行うことになる。
できればそういった動物の肉の長期保存が可能にできるように香辛料などが手に入るといいのだがな。
スマホで調べてみるとこのあたりで手に入るハーブはローリエ、クミンにキャラウェイとアニス、タイム、バジル、オレガノ、サフランなどか。
思っていたよりはだいぶ多いが胡椒やシナモン、ターメリック、クローブ、カルダモンといったインドやインドネシア原産の香辛料に比べるとちょっと地味なものが多いかな?
問題はこれらが取れるのは多くが春から夏ということだったりするので、春先に水に沈んでしまうエリコの周辺では見つけるのは難しいことだな。
来年キルベト・クムランへ春から夏にかけていったときにでも探してみるか。
後はスープに入れる野菜として大根や蕪を探してみたいところだな。
大根も蕪も原産地は地中海周辺で4000年ほど前にはエジプトで栽培されて食べられていたようだ。
ただ蕪や大根は比較的深くまで耕さないといけないうえに、にんにくや玉ねぎと違って焼いて食べて美味しい訳では無いこともあって、現状では栽培はされていなかったみたいだけどな。
とはいえじっくり煮込んで味が仕込みんだ蕪や大根はうまいし、葉っぱの部分も煮て食べると美味しかったりもする。
まあこの時代の蕪や大根はラディッシュと同じような丸くて小さめなやつだと思うけども。
ちなみに粥にして食べる春の七草のスズナはかぶ、スズシロは大根のことだ。
このあたりは畑や川岸などに自生しているはずなのでおそらくヨルダン川の川岸に生えてるだろう。
後、同じアブラナ科の野菜であるキャベツもこのあたりでもみつかるかもしれない。
というわけで今日は一人で鳩の塔の床に積もった糞を石鍬で削ってツボに入れて、川辺の麦畑を耕した後それを撒いてみた。
種まきは後日アイシャと一緒にやるので今日は少し時間が余ってる。
そして、余った時間を使い河原で蕪や大根、キャベツを探してみたが蕪や大根らしきものは一応見つかった。
アブラナ科は生命力が強く、アブラナ科野菜の起源は地中海沿岸で自生していた雑草で、およそ4500年前に数種のアブラナ科の雑草が交雑して色々と変化していったらしい。
ケールは葉が大きくなり、キャベツは葉が結球するようになった。
ブロッコリーは花がつく茎先が肥大化し、大根は白く張った根が太く長く変化したなどだな。
ちなみに白菜とキャベツは。元々は同じもので中国に伝わったものは白菜に、ヨーロッパに残ったものがキャベツになったようだ。
結球する野菜というとレタスもあるがレタスの原産地も地中海沿岸だ。
しかしレタスははキク科なので生命力はキャベツほど強くないが害虫に強いという点で便利ではある。
ともかく根っこの部分は現代のものに比べると小さいが、れっきとした蕪や大根などが手に入ったのはありがたい。
そして畑の作物を食べに来たガゼルを狩ったら、その骨で出汁をとり、肉に加えて大根や蕪も加えてじっくり煮込んでみた。
「うん、味のしみた蕪や大根は美味いな」
大根や蕪にはうま味成分のグルタミン酸が含まれていて、肉のうま味成分のイノシン酸と合わさるとうま味の相乗効果が起こり、うま味が強くなり、そのおいしさが増すのだ。
「たしかにこれは美味しいわね」
リーシスがそう言うとアイシャもいった。
「うまーでし」
息子もリーリスが柔らかくなった蕪を食べさせておるが美味しいようで笑顔だな。
次回はキャベツやレタスも見つけたいものだな。
キャベツも煮て食べると美味いし、ロールキャベツのようなものも作れるかもしれないしな。
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