第82話 西洋栗を探して食べてみようか

 さて、以前であれば秋はナツメヤシやブドウ、イチジクと言った果実を採取したらすぐに食べていた。


 これはドライフルーツにしないとすぐ腐ってしまうためだが、現在ではドライフルーツに適するまで熟すまでまって可能な限り水分を抜き、雨季に入る前に乾燥させることで、長期保存が可能になったので急いで食べる必要もなくなった。


 なのでそろそろ美味しい秋の味覚を堪能してもいいかなと思う。


 秋の味覚で日本人がすぐ思いつくものといえばまずは柿だろうけども、柿はこのあたりには存在しないのであきらめるしかなさそうだ。


 そして秋といえば栗もだが日本栗は日本や朝鮮半島の一部しか生えてはいない。


 しかし、栗には4種類あって残りの3つは日本で焼き栗としてよく食べられている中国栗、ヨーロッパで栗のモンブランやマロングラッセに使われる西洋栗、そしてアメリカ栗がある。


 西洋栗は日本栗よりも小ぶりだが渋皮が剥きやすくて焼くと甘みがあるため焼き栗としても食べられる事が多いらしい。


 西洋栗の原産地は西アジア・南ヨーロッパ・北アフリカの地中海沿岸のようなのでこのあたりでも手に入りそうだな。


 日本では縄文時代の13000年前から食べられてきた栗だが、ヨーロッパではあまり古くから食べられていたわけではなく、主に食べられるようになったのは中世以降で、不作時に農民が食べる救済作物としてであったようだ。


 山間部には栗の木を植えておけば、特に手入れをしなくても秋には大量の栗が収穫できるので、中世ヨーロッパの山、特にイタリアには栗の木が激増することになったそうだ。


 栗の欠点は長期保存に適していないことで、カビが生えやすい。


 それを避けるには割れて地面に落ちる前にイガに入ったままの栗を収穫して保存するか、冷暗所に砂を入れた壺をおいて、その中に栗を埋めておく、もしくは収穫した栗の実を網にのせて数日間石のように固くなるまで乾燥させるという方法を取るしか無いが、この時代では木の実は地面に落ちてきてから拾って食べるのが普通で、なおかつドングリやナッツは長期保存がしやすかったので、栗は食べていなかったんだろう。


 後、秋の味覚といえばキノコもあるんだが、キノコは毒のあるものと食用になるものの見分けが素人には難しいのではっきり見分けが付きそうなもの以外は避けようと思う。


 また秋の味覚といえばサツマイモやカボチャなどもあるがこれらは原産地がアメリカ大陸なのでこのあたりでは手に入らない。


 芋があるとしたらアフリカから持ってきているヤムイモくらいかな。


 ヤムイモは日本のナガイモやジネンジョと同じ仲間で、アフリカの固有種が3種類あって、その他には東南アジア原産が2種類ある。


 アルカロイド系の毒を有するものもあるが、加熱により分解するので、熱を加えれば普通に食べることはできるはずだ。


 ヤムイモの利用は、有史以前からあって、容易に果実が手に入らない状況で糖分を多量に必要とする人間が脳容量を増やすことが出来たのはこの焼いたヤムイモのためだというものもいたりする。


 ジャガイモやトウモロコシもアメリカ原産だからこのあたりでは手に入らないな。


 洋梨の原産地は実は中国でヨーロッパに伝わるのはシルクロード経由なのでこれもない。


 ちなみサンマは、北太平洋の亜熱帯海域の北側から亜寒帯海域の南側までの全域に分布するが、このあたりにはいない。


 この時代のエリコにおいてはなかなか秋の味覚というのは少ないな。


 それはおいておいて今日はエリコの壁の外へ集団で出ていき、森に入ってそういった果実やドングリ、ナッツなどをかごに入れて収穫する日だ。


「ブドウやイチジクが今年も無事に採れてなによりだな」


 息子の手を引きながら俺と一緒に採取に来ているリーリスが頷く。


「ええ、本当にそうね」


 アイシャも嬉しそうに言う。


「いちじくいっぱーい」


 俺は娘に頷く。


「ああ、フルーツがたくさんなってるのはありがたいな」


「ありがたー」


 そして息子はしゃがみこんで木の根元を見ていた。


「ん、なにかあるのか?」


 息子は木の根に生えているキノコを見ていたようだ。


 そしてリーリスが言う。


「あらこれは食べられるわね」


 生えていたのは地中海ではメジャーなキノコのセイヨウタマゴタケで食用に適し、傘が赤色や橙色のテングタケ属菌には猛毒の種が知られておらず、ひだの色以外は典型的なテングタケ属菌の特徴を有する、食用にできるキノコでもかなりわかりやすいキノコ狩り初心者が最初期に覚えることを推奨されるキノコだ。


「スープに入れたらうまいらしいし、でかしたぞ」


 俺が息子の頭を撫でてやると息子は嬉しそうに笑った。


「あーい」


  そしてアイシャが地面に落ちている栗を見て首を傾げている。


「みんなひろわないのなんでー」


 リーリスがそれに答える。


「それはすぐにカビちゃうからよ


 それに対して俺は言う。


「たしかにそのままだとすぐカビるけど焼いて食うとうまいし、砂を入れた壺に入れるか乾燥させておけばカビずに保存できるから拾っておこう」


 俺がそういうとリーリスはうなずいた。


「あなたがそういうのならそうしましょう」


 そしてアイシャもしゃがんで拾い始めた。


「ひろうのー」


 時々ブドウやイチジクをもいで食べたりしながら、ナッツやドングリとともに栗も拾い集めたらいい時間になった。


 家に帰ったら俺はまずシンプルに焼栗を作る。


 栗を殻がついたまま炙って焼くと、いい感じに割れるので食べてみる。


 少し硬さと渋さが残っているがうまい。


「うん、美味しいな」


 俺がそ言うとリーリスもうなずいた。


「確かにこれ焼くだけでも美味しいわね」


 しかしアイシャは顔をしかめている


「にがー」


「ん、アイシャにはまだちょっと早かったか」


「はやかったー」


 アイシャが食べやすいように骨でダシを取った鳩肉と栗にセイヨウタマゴタケを入れて煮込んだスープを作る。


 それを食べたアイシャが笑顔でいった。


「うまー」


 栗は煮込んで食べてもうまいんだよな。


 後は皮を剥いて軽く煮た栗を、更にナツメヤシの樹液を入れた水で煮てマロングラッセもどきもつくってみた。


「あまー」


「あまー」


 これはアイシャも息子もおお喜びで食べていたな。


「柔らかくて甘くて美味しいわね」


 リーリスもそう言って美味しそうに食べていた。


 まあ栗を堪能できただけでも十分かな。


 すぐに食べない分の栗は砂を入れたツボに入れてカビないようにしておけばしばらくは栗の味が楽しめるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る