第76話 家畜の子供は人懐っこいから子供の遊び相手にちょうどいい

 さて、ヤギ・ヒツジ・ロバ・ネコなどの出産は春だ。


 そして子供をそだてている間の母親は当然乳が出るが、子供が乳離した後でも、子供を見せつつ乳をしぼってやると乳を出してくれるようになったのが西洋の乳ヤギや乳牛などだな。


 中国などの東洋では家畜の乳を飲む習慣が根付かなかったので、牛もヤギもあまり乳を出す期間が長くならなかったのだが、西アジアの遊牧民族や牧畜をする者にとってはヤギやヒツジやロバの乳は大事な栄養源だった。


 遊牧民が出産が春に限定されている家畜の乳や乳製品を主に食べて行きていけるのはそういった知恵があってのことだ。


 ヤギはちゃんと面倒を見て健康的に飼育すれば15年以上生きるしな。


 そして今は乳搾りの最中だ。


「すまんな、お前さんが乳を出してくれると助かるよ」


 ”べぇー”


 ヤギはおとなしく乳を搾らせてくれるし、ヤギの乳は人間の子供が飲んでも大丈夫だからありがたい。


 ヒツジは乳を目的にすることは少ないが、脂肪やタンパク質が多いため、チーズやバターなどの乳製品を作るには適しているのでいまは積極的に絞るようにしている。


 ロバの場合は気難しいので乳搾りも大変な場合があるけどな。


 しかもヤギは薊のような牛などは食べない草も食べてくれる。


 もっとも好物はうまごやしやクローバー、アルファルファなどだが。


「やぎしゃーん、まってー」


 ”めぇー”


 アイシャは仔ヤギを追いかけて一緒に遊んでる。


 家畜の条件は色々あるが家畜化の条件としては穏やかな気性で人懐っこいままでいられるというのは大事だ。


 熊やオーストラリアのディンゴなどは幼獣のうちに飼育すると人間にはなつくのだが、繁殖期に凶暴性を取り戻してしまうので、家畜には出来なかったりする。


 その他の条件としては食べるものの種類や量がある。


 草のように人間は食べないものを食べる草食動物、あるいは犬のように人間の残飯で飼える動物、イエネコのようにネズミを食べさせておけば良い動物などだな。


 そういう点では植物の根やドングリなどの炭水化物の多いものを食べることが多い豚は場所によってはなかなか飼育が進まなかったりする。


 また家畜小屋のような飼育下での繁殖能力を持っていないと家畜化は出来ないがレイヨウのインパラ、ガゼル、スプリングボックなどは、繁殖時に広いテリトリーを必要とし、飼育された状態では出産が難しいのもあって家畜にできない。


 まあそれはともかく、もともと岩山やがけを住処にしているヤギは動き回ってはちょっと高いところに登ったりするのが大好きなので母ヤギの上に登ったり、台の上にのぼったりしているが、アイシャはそれを追いかけている。


「怪我しないように気をつけろよー」


「だいじょー」


 ヤギは基本的に緩やかに群れて暮らす動物なので基本的に寂しがり屋だが、仔ヤギは特に寂しがりやで、母ヤギや飼い主のあとをずっと追い続けるほどの甘えん坊でとても人懐っこい。


 ヤギは犬のようであるとも言われるし猫のようであるとも言われる。


 小さいうちは活発に動き回っているが、ある程度大きくなるとわりとおとなしくはなる。


 あと草だけだとミネラルが足らないので時々岩塩をなめさせる。


 ”べぇー”


 ヤギにとって岩塩はご馳走らしい。


 ”めぇー”


 母ヤギのまねをして岩塩をなめる子ヤギ。


「あいしゃはなめるなよー」


「どちてー?」


「なめたらしょっぱいからな」


「しょぱー?」


 俺は苦笑してちょっとだけなめさせてみた。


「じゃあ、ちょっとだけなめてみるか?」


「あいー」


 そして岩塩をなめて顔をしかめるアイシャ。


「しょっぱー」


「な、しょっぱいだろ」


「しょっぱだったー」


 まあ、これで岩塩はしょっぱいと覚えたかな?


 ちなみに仔ヤギは産まれて30分もすると目もすぐに見えるようになり自分で立ち上がって、母親のおっぱいを探してつんつんつついて母乳を飲む事ができるようになっている。


 草食動物はたいてい立ち上がるのが早いけど、生まれた後で何日も動けないと親子ともども肉食獣の餌食になっちまうから当然だがな。


 基本的にヤギは、風通しがよく日当たりのよいところを選んで歩き回るが、木陰があると子ヤギがよろこんで木陰と日向を出入りしたりもする。


 そういった刺激を面白いと感じるらしい。


「まあ、うちは犬はいないが変わりにロバがいる、ヤギやヒツジもいてくれるのはありがたいな」


 ロバは鳴き声が大きく危険にも敏感で北米ではシープドッグの助手にロバを飼っていたりもするが、ロバは危険に対して敏感だから大声出して警戒してくれるかしこさがあるんだよな。


 基本的にロバはオオカミと犬に対してきわめて攻撃的なので、牧羊犬のサポートをさせる場合はちゃんと慣れさせる必要はあるんだけど。


 ロバも産まれてすぐに人に慣れてくれれば、結構人懐っこい動物でもあるし。


 息子はロバの子供をペタペタ触っては笑顔になっている。


  まあロバの子供が走り出すとおいていかれたと思った息子は泣き出して、リーリスに抱きついてしまったけどな。


「ふえーん」


「あらあら、大丈夫よ」


 ヤギもそうだがロバも小さいうちはぬいぐるみのようですごく可愛のだ。


「そうよね、子どもたちの遊び相手にも事欠かないし助かるわ」


 ちなみにヤギやヒツジ、ロバは暑さには弱いし湿気も水にぬれるのもだめ。


 そういうところに関しては結構神経質だったりする。


 そして長年飼っているとある程度情も移るけど、結局は肉を食べるためにつぶしたりもする。


 ペットと違って家畜と人間は微妙な間柄だったりするんだよな。

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