第75話 夏の暇なうちに鳩の塔を立てたよ
さて、アヒルやガチョウを河原に連れ出して考えたが、春先だけではなく、通年で卵を確保するためにも鳩を飼育できるようにしたいと思う。
もちろん俺たち家族だけではなくエリコの住人200人ほどに行き渡るくらいの鳩を確保できるようにはしたい。
ちなみに家禽としてのドバトの野生種はカワラバトだが生息域は地中海沿岸のヨーロッパ、西アジア、北アフリカなどの乾燥地帯に住んでいて、ここエリコでも両方とも普通に見られる。
野鳥は比較的警戒心が強いものが多いが、カワラバトは元々警戒心が低く、人間の食べ残しを食べるために人のに近くに簡単によってくるうえに人の建築物に普通に巣を作るり、人に馴れやすい鳥であるため、約1万年前くらいにはエジプトの人々はカワラバトを食料とするため、家禽化を始めたと言われている。
そして鳩は春に麦などが実ると落ちた穂をついばんだことで太った若い鳥はタンパク質と脂肪を豊富に含んでおり、都市に住む人々にとって栄養豊富で貴重な食料源となった。
また、意外と色の美しい鳥でもあるため愛玩用の品種も多数作られたらしい。
まあ、ドバトは本来伝令用やレース用に放たれたものが巣となる鳩小屋に帰らずに再度野生化したものがほとんどだけどな。
でまあ、エジプトや中東では鳩の塔という、構造物を建築して鳩を飼ってきた長い歴史がある。
ハトの塔は高さ10~15メートルほどで、日干しレンガで作られ中空の円筒の形状ををした構造物だ。
その内壁や柱に凹みを作り、そこが巣穴となる。
ハトが塔に出入りするための穴は最上部に1つだけだったり、壁に穴があってそこからも出入りができるものだったり、巣に関しても止まり木が何段も差し込まれ、そこに巣を作らせるものなど等、その様式は地域によっていろいろあるようだ。
基本的に大きい猛禽は入れないような構造にはなっている。
人間の出入りは普通に一番下に通れる穴を作るけどな。
基本的には鳩に対して餌やりなどをすることはなく、近くで水が飲めるようにしておけば後は勝手に住み着いて、巣を作り卵を産んで増えていく。
鳩の繁殖時期は春・秋で、親鳥は雛を育てている最中に次の産卵をすることもあり、育雛と抱卵を同時期に行うこともある。
ただし産む卵の数は一卵か二卵なのでその数自体はアヒルほど多くはないけどな。
鳩の雛が孵化から巣立ちするまでの期間は25~40日だが、雛は鳩ミルク(ピジョンミルク)と呼ばれる鳩の胸のあたりにある「そのう」という部分で作らる物質で育てられ、ヒナが生まれて子育てをするときに雛は親鳥の口に嘴を差し入れてミルクを摂取する。
といってもピジョンミルクのみで育てるのは生後数日までで、それ以降はピジョンミルクだけではなく昆虫も食べさせたりするが。
また、鳩の場合オスの鳩でもピジョンミルクを生成できるため、オスとメスとで協力をおこなってそれぞれ分担してヒナに与えたりもする。
親鳥は雛を育てている最中に次の産卵をすることができるのもこれが理由だろう。
鳩が人間の吐いたものを食べている光景をよく見るのはこのピジョンミルクで育った経験があるからじゃないかな。
そして鳩も意外と長生きして20年くらい生きることがあり、生後半年で繁殖期に入ってしまうため、繁殖数は非常に多い。
天敵は猛禽類や蛇などだが、どちらも人間の住んでいる場所ではそう多くは見ないので、鳩を増やすこと自体は割と簡単だ。
現代では鳩や野良猫への餌やりは禁止されていたりすることも多かったが、これは都市部において鳩などが増加の一途を辿っていることが原因だな。
鳩も病原体は保持しているが、基本的にそこまで致命的なものではない。
無論、老人や乳幼児などに対してはそうではない場合もあるが。
またハトの糞は強酸性のため、金属部分などに鳩が大量かつ長時間糞をし続けると、金属が変色したり腐食する場合があることは現代では大きな問題だが、この時代では金属は使われていないのでそのあたりの問題はない。
というわけで俺はマリアに相談することにする。
「マリア。
春先のアヒルやガチョウの卵だけじゃなく、その他の時期にも卵を食べられるようにしたいから、鳩が集まって巣を作れる塔を作りたい。
できればエリコの他の住人にも、手伝ってもらいたいんだがどうだろう?」
「鳩の住める塔……ですか?
それはまたなぜ?」
マリアは首を傾げた。
「秋口にも卵を食べられるようになれば子どもたちが風邪などで死ぬことがすくなるはずなんだよ。
あと春の増水の時期に肉を食べやすくなるしな」
俺がそういうとマリアはうなずいてくれた。
「なるほど、それでしたら皆さんも手伝ってくれると思います」
というわけでマリアの口添えもあり、今はまだ秋に収穫や採取の時期ではなく、比較的暇なのもあって鳩の塔の建設に協力してくれる住人は30人ほどと結構多かったはたすかった。
まあ、子供が死ににくくなるという俺の言葉にはそれなりに説得力があるようになってきたんだろう。
日干しレンガを円筒形に近い円錐形に積み重ねていき、雨に巣などが濡れることがないようにして、その途中で内側にくぼみを大量に作って鳩が巣を作れるようにする。
ただ凹みをあんまり下の方に作ってしまうと、猫やイタチなどに襲われる可能性もあるし、元々鳩は高い場所に巣を作るので、2メートル以上の場所にするけどな。
日干しレンガは夏の暑い時期には断熱に、冬の寒い時期は防寒に役に立つ上に、鳩の天敵であるヘビが登ることが困難であるというのも大きなメリットだ。
鳩の塔は鳩の天敵である猫やイタチ、カラス、タカ、ワシ、フクロウ、ヘビなどから襲われずらい作りになっているんだ。
まあ、あんまり高く作るのは
ちなみにエリコの塔は石づくりで高さ8.5メートルの3階建て程度、直径9メートルの大きさで、これを作るのも大変だったと思う。
ともかく時間は結構かかったが、ちまちま日干しレンガを積み重ねて高さ7メートル直径9メートルくらい鳩の塔は完成した。
あとは近くの泉は鳩が水を飲んだり水浴びをするだろうから人間は使用厳禁とし子供は危険なので近づかないようにも伝えた。
秋口までには鳩が住み着いて卵を取れるようにはなっているだろう。
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