第74話 アヒルやガチョウはなんだかんだで人懐っこくて可愛いぜ
さて、春の増水期も終わって夏になった。
夏になる前に蚊取り線香を燃やすためにそれを置ける、香台としての皿も焼き窯を使って焼いておいた。
俺はリーリムの家に行き作った蚊取り線香と香台渡して蚊が出てきたら、それを焚いて蚊帳や吊るしてある冬服などの布や毛皮を燻すように言う。
「なんでそんなことをするんだろう?」
リーリムが不思議そうに聞くので俺は答える。
「蚊は常に飛んでるわけじゃなく、人間が身に着けていたリよく触る布や毛皮の匂いを感じて、そこに止まって待ち伏せすることが多いからだよ」
「なるほどね。
じゃあそうするよ」
というわけでリーリムに対して蚊の対策は完了。
自分たちの家は乾燥させたアカハナムシヨケギクの茎や葉で蚊帳や衣服などを燻すことにする。
そのため紐ををつけた猫を連れながら家を出て家畜小屋へ向かった。
猫は家畜小屋の開いている場所に紐でくくりつけてアカハナムシヨケギクの煙から退避させておこう。
アカハナムシヨケギクに含まれている殺虫成分のピレトリンは哺乳類には大きな毒性はないらしいが、煙に燻されるのは良くないだろうしな。
そういえば野生の鴨や雁にたっぷり餌付けをして飛べなくすることで、アヒルやガチョウとして飼い始めてしばらくたったな。
今ではアヒルやガチョウも結構増えて、リーリスの家族だけではなく、エリコの住人にもちょっとずつわけている。
「やあ、これはありがたいな」
「あとは自分たちでちゃんと増やしてくれよ」
「わかってるって」
アヒルやガチョウは鶏ほどではないが、卵は美味しいし結構な割合で増えるからな。
野生の鴨や雁も雛のときには猫のような小型の肉食動物や猛禽に襲われることは結構あるので、たくさん卵を生むがアヒルやガチョウもたくさん雛を生むんだ。
そしてアヒルもガチョウも雑食なので、基本的に何でも食べるから河原に連れていけば基本的には餌も特に必要はない。
特にガチョウはアヒルよりも粗食でも大丈夫だ。
アヒルも柔らかめであれば草を食うし、穀物のあまりでもよい。
ガチョウであれば結構硬い草でも食うし、両方共ミミズや小魚、昆虫なども好んで食べるな。
草食とされる動物も実は葉っぱについている昆虫を食べることでタンパク質を補っている例は多い。
今日は猫と一緒にアヒルやガチョウをヨルダン川に連れだしている。
アヒルもガチョウももともと水鳥なので水浴びをして毛づくろいをすることを繰り返す、その間に適当に食べられるものを探すわけだ。
河原であればいつでもミミズがいるが、特にアヒルはミミズが大好きだ。
だから中には”ミミズ食べたーい””ミミズほってー”とくちばしでコンコン地面を突くアヒルもいる。
ガチョウは割りと気にしないようだが。
「アイシャ、アヒルたちがミミズ食べたいって」
アイシャは手に棒を持ってバンザイと手を挙げる。
「がんばるー」
そしてアイシャがしゃがみこんで小さな手で土掘り棒を使って土を掘り返している。
俺や息子をあやしているリーリスも同じように棒で土をほってミミズを探す。
流石に息子にはまだ無理だがなんだか楽しそうなことをしているなと思っているらしくキャッキャと笑っている。
「みみずいたー」
アイシャがそういうとわらわらとアヒルがアイシャの元へてこてこと歩いて行く。
アヒルは意外と賢くて”ミミズ”と言う言葉を理解できるらしい。
それに人懐っこいと言っても人間の顔などはちゃんと覚えているようで、見知らぬものが近づいたときには警戒して声を上げたりもする。
もっともそういった警戒心の強さはガチョウのほうが強く、番犬代わりに番鳥としても使われるぐらいだ。
実際にスコッチウイスキーの老舗、バランタイン社は自社の醸造所を守らせるためにガチョウをたくさん敷地に放っているそうだな。
「あーい、あひるしゃん、あいしゃがんばったー」
とアイシャがミミズを差し出すとアヒルがうまそうにそれを食べはじめた。
「こっちもミミズはいるぞー」
「こっちにもミミズはいるわよー」
俺とリーリスもミミズを土から掘り出してやるとヨチヨチ歩きでアヒルが群がってくるので適当にミミズを食わせる。
ミミズを食ってるアヒルは皆嬉しそうだが、アヒルは意外と喜怒哀楽をはっきり示すんだな。
発情期になるとオスはけっこう攻撃的になり、メスは甘えん坊になったり、生まれていちばん最初に動いてる生物を親と勘違いしてついて回ったりとなかなか面白いんだが、そもそも食べすぎて飛べなくなるという辺りちょっとお間抜けではあるんだけど。
で、アヒルは意外と長生きで10年から20年位は生きられるらしいからあんがい長い間一緒にいられる。
ガチョウはもっと長くて50年位生きられるらしい。
日が傾いてくると家に帰る時間だ。
「じゃあそろそろ帰りましょう」
「かえるー」
「ああ、そうしようか」
先頭にリーリス、その次にアイシャ、間にアヒルやガチョウを挟んで最後尾が俺。
リーリスやアイシャに付き従ってアヒルやガチョウがよちよち歩いてついていく様子を見ながら、今日もアイシャやリーリスと息子が楽しそうでよかったと俺は思いながら帰途についたのだった。
しかし、アヒルやガチョウは卵を春しか産まないし、一帯に広く分布する鶏の野生種のセキショクヤケイは東南アジアしかいないから現状では手に入れるのはまず不可能だ。
となると通年で肉や卵を取れるようにするためにも、夏の暇な時期に鳩の塔をエリコの住人で協力して建設することを村長のマリアに提案してみるかな。
鳩肉は素焼きというシンプルな調理でも濃厚な旨味を感じられるらしく、日本ではともかく地中海沿岸ではよく食べられていたらしいし、鳩の卵の味は、鶏卵とほとんど変わらないらしい。
鳩の卵は加熱しても白身があまり白くならないらしいし、ペンギンの場合は全く白くならないで透明なままらしいけど。
十分に乾燥させて病原体や寄生虫を殺した人糞でも肥料にはいいんだが、鳩の糞も良い肥料になるしな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます