第72話 蚊の対策に蚊帳を作ってみようか
さて、アイシャの夏に着るための服を作ったことで夏の準備もだいぶ進んだ。
なので夏の熱病対策も進めようかと思う。
今まではパンなどの食物を手で直接触って病原体を移してしまったり、飲料水など最初から病原体が混じっているものを経口摂取して病気になる事を防げる様には工夫してきた。
調理の前や食事の前、出産時は石けんで手を洗うようにする、飲料水を汲む泉を井戸風にして小屋で囲ったりろ過してから飲んだりなどだな。
ああ、ろ過装置自体は一週間程度に一度はろ材の小石や砂利・砂などを入れ替えて目詰りしないようにしていたが、木炭は毎回入れ替えるほど数を作れないので煮沸消毒をして、使いまわしていた。
木炭を煮沸場毒すると水の温度が上がって体積が増えることで木炭が吸着したものが微細な穴から押し出されてくるので再度利用できるようになるんだ。
しかし流石に半年も使い続ければ吸着効果もなくなるので収穫した麦の麦わらや籾殻を使って新しく木炭を作って、木炭も新しいものにした。
気温が高い時期は有機物も増えやすいと思うので3ヶ月程度で木炭は取り替えないといけないかな。
また、ノミやシラミの吸血によって伝染する病気に対しては、櫛を作って髪を梳くことで対策をしている。
冬場の風邪などはハーブ類で対応するくらいしか無いけどな。
で、夏場で怖いのは蚊が媒介する病気だ。
マラリアやデング熱、黄熱病などは蚊を介して感染するが、どれもわりと致死率が高い。
2014年4月にとある財団が発表した報告書の世界で最も危険な動物たちによると、人間を最も殺している生物ランキングのトップは蚊だったりする。
まあ、これは蚊という生物に対しての恐怖を意図的に煽って、遺伝子組み換えを行って卵を埋めなくしたとされる蚊を放つための名目づくりのためかもしれないけどな。
また、あくまでもこれは2010年代前半の数字なので、天然痘や麻しん、ペストやコレラといった伝染病が猛威を振るった過去も同じであるという訳では無いが、蚊が複数の人間に対して吸血を繰り返すことで様々な病原体を媒介し、それによって命を落とす場合があるのは間違いない。
幸いエリコの周辺は湿地やマングローブのような綺麗な水がよどみやすい場所は少ないから、そこに生息するハマダラカも少ないのでマラリアの被害はあまり出ているわけではないけど、ヤブカ属のネッタイシマカやヒトスジシマカは水がめなどに容易に発生したりもする。
そういったヤブ蚊は、デング熱、チクングニヤ熱、黄熱、ジカ熱などを伝播するのでやはり危険だったりするんだな。
現代ではDDTのような殺虫剤によって蚊を駆除したり、抗マラリア薬や黄熱病ワクチンの開発によって被害は少なくはなっているんだが、ヤブカの駆除を徹底的に勧めているシンガポールでも駆除しきれていないくらいヤブ蚊は駆除するのは難しい。
しかし、蚊が病気を媒介するということは経験則的に知られていたようで古代エジプトでは、植物の繊維を使って蚊帳のようなものが作られ、クレオパトラも愛用していたり、古代ローマでも同様に蚊帳が貴族たちの寝室で使われていたらしい。
日本においても応神天皇の時代の西暦270~312年に、中国の呉から蚊屋衣縫という蚊帳作りの技術者が渡来し、貴族用に絹織物の蚊帳が作られ、後に麻に変わると江戸時代には町人などの庶民階級まで広まった。
蚊帳は寝る場所の天井から吊るして天面と四方を囲い込むようにする1ミリ程度の網目の面積的には大きめの網で、蚊や蝿などの虫は通さず風は通すようにされている。
素材は東洋では麻や木綿などだが、このあたりだと亜麻の繊維だな。
網目は細かいし、網を箱型に縫い合わせて吊り下げ、家族全員が並んで眠れるくらいの広さはほしいから、結構大きめに作らないといけないから作るのは大変ではあるが、作り方自体は漁網と同じなので作ること自体はできるだろう。
俺がちまちまと亜麻の糸を編んで蚊帳を作っていると息子をあやしているリーリスやアイシャがやってきた。
「とーしゃ、なにやってるの?」
アイシャが首を傾げてそう聞いてくるので俺は答える。
「ああ、寝てるときに蚊にさされないように天井から吊るして蚊が入れないようにする網を作ろうと思ってな」
そうするとリーリスが笑顔でいった。
「あら、それはいいわね。
私も手伝うわよ」
そしてアイシャも言う.。
「あちしもてつだうー」
「ああ、それは助かるよ」
というわけで親子三人で亜麻の糸を撚っては、網目を編んでいって、蚊帳の四方4枚分と天面になる網を作り上げていくがやはりリーリスやアイシャのほうが俺よりずっと早い。
「出来たわ」
「できたのー」
「あ、俺も出来たがやっぱ俺のほうが遅かったな」
俺がそういうとリーリスが笑っていう。
「それは仕方がないわよ」
そして天面の網に四方の布を縫い付け、四方の網もそれぞれ縫い付ければ蚊帳の完成だ。
まあ、それなりに時間はかかったが漁網も自分たちで作っている経験が活かせたな。
そして天井のフックから蚊帳を吊るして寝ればやはり蚊は蚊帳の中には入ってこず、耳元で羽音がすることもなく、朝起きたら蚊にさされていることもなくなった。
「うん、やっぱ、これはいいな」
俺は実用に足りるものが作れたと確信したので、村長のマリアを通じて村の皆にも同じようなものを作ることを提案した。
蚊にさされないですむし、羽音にも悩まされることはなくなる。
さらに子供が夏に熱を出すことも少なくなると説明した所、小さな子供を持つ親から率先して蚊帳を作り始めたようだ。
これで夏に熱を出して死ぬ子供も減るといいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます