第69話 大洪水が起きたときに一時的に避難できそうな場所を調べて調査してみた
さて、大洪水が起きてエリコが水没する未来はおそらく変えられないだろうが、それに対して今のうちからエリコの中で対策を行うのは難しそうだ。
まあエリコが放棄された原因はおそらく大洪水だとは思うが、そうではない可能性もあるけどな。
どちらにせよエリコの放棄が避けられないのならば、避難先を考えておくべきだろう。
実際問題として避難先に必要な条件は色々ある。
最低限、生きていくため必要な飲料水と食料、できれば寒暖や雨をしのげる洞窟や洞穴のような場所があること。
大洪水でエリコが水没してもその場所は水没しないこと。
すでに人が住んでいる集落が存在しないこと。
などだな。
そういった条件でスマホで検索してみた所、見つかったのが死海の西にあるエン・ゲディのオアシス。
イスラエル王国の初代王サウルはペリシテ人の巨人ゴリアテとの戦いに苦しんでいたが、羊飼いの少年ダビデがゴリアテの額に石を命中させて倒した。
それによりダビデの人気は高まり、それに嫉妬したサウルはダビデ暗殺を企む。
危険を感じたダビデはエルサレムを脱出し、エンゲディのオアシスで身を隠したという。
その後サウルはペリシテ人との戦いで戦死し、ダビデはエルサレムに戻って2代目王に就任したという。
エン・ゲディの意味は、”子やぎの泉”。
その名前の通りここには、
近くにはダビデ川とアルゴット川と呼ばれる乾季に干上がる
またこのあたりの岩にはたくさん洞穴があり暑さ寒さや雨を凌ぐことも出来そうだし、人間は現在は住んでいないだろう。
問題はエリコからエン・ゲディまでは50キロほどの距離があることで徒歩にせよカヌーなどを使うにせよ一日で移動するのは困難な距離ということだ。
もう少し近い場所でいい場所はないかと、探すと死海文書が見つかった場所として有名なキルベト・クムランがあった。
このあたりにも洞窟は事欠かないが、現代では完全に荒れ地になっている。
乾燥した死海のほとりで、共同体が生活するには、大量に飲料水として可能な水が不可欠で、さらに彼らは宗教的な理由で沐浴も欠かさず行っていた。
そのために必要な量の水を確保するために水路が張り巡らされていたが、現代ではどこから、水を引いてきたかは厳密には定かではない。
これはBC31年に巨大地震が起き、地震で生じた地割れによって水が利用出なくなってしまったかららしい。
乾季に干上がる
エリコからキルベト・クムランまでは15キロほどだから3時間から4時間位歩くなり船で移動するなりすれば行けるはずだな。
一度見に行ってみるとしようか。
「リーリス俺はちょっと南の方で泉がありそうな場所を見てきたいんで、一日泊まりがけで出かけてくるな。
済まないが息子と家畜の世話を頼む」
「はいはい、行ってらっしゃい」
そして俺がそういうとアイシャが言った。
「あちしもいくー」
「んー、まあ今回は船で行くし大丈夫か。
じゃあアイシャも行こう」
「わーい」
一応泊りがけで調査するつもりなので、水のたっぷりはいった水瓶にそこから水をすくって飲むためのカップ、硬めに焼いたパンとチーズ、魚をすくうためのタモ網、調理用のタジン鍋、地面に敷くためのものと体にかけるための薦、火を起こすための弓切り式火起こし器、獲物を捕まえるためのボーラに石器のナイフといった道具を一通り用意して、入るものは背負籠に入れて、薦は丸めて紐でくくりつけて葦船に乗せ、アイシャも船に乗せて俺も乗り込んだら水棹で南に進んでいく。
エリコからキルベト・クムランの方向は、ほぼ真南なので増水期の方が移動は楽かもな。
ある程度移動したらひましてるアイシャに俺は言う。
「アイシャ、水に落ちないように気をつけながら魚をすくってくれるか?」
「わあったー」
アイシャの暇つぶしついでに小魚をすくわせて、活け締めして食料の確保をしているうちに、それらしい場所についた。
「あれがクムラン川かな?」
夏には枯れて
俺は水棹を操ってそこへ船をつけてアイシャを船から下ろすと葦船を岸に引き上げて、背負籠を背負いながら谷底をアイシャと手を繋いで歩いていく。
そしてやがてチョロチョロと水が流れ始め、緑が見え始めた。
荒れた岩山に、命の泉ともいうべき湧き水や滝があるというのは不思議に思えるが、小高い丘にあるエリコのオアシスも同じようなものだしな。
アイベックスやハイラックスと言った野生動物の姿も見えるようになり、枯れ枝も落ちているのが見えだすので、それを拾い集めていく。
所々で岩山の山肌から水が吹き出して滝になっていて、落水の下はプールのような水たまりにもなっている。
この滝の水ならおそらく飲んでも問題ないだろう。
なるほど、これならクムラン教団が数百人単位で住むことが出来ていてもおかしくはないな。
後ろを振り返れば死海やその向こうのヨルダン側にネボ山も見える。
少し開けた場所で弓切り式火起こし器を使って火を起こし、魚を木の枝に串のかわりにさし、火で炙る。
「そろそろ火が通ったかな、ほれアイシャ」
「あーい」
アイシャがタモ網ですくった魚をうまそうに食べている。
おれも魚を食べつつ、用意してきたパンやチーズも食べ水を口にする。
それから丸めてあった薦を持って近くの洞穴へと向かう。
「アイシャ、疲れたし少し寝るとしようか」
「あーい。
とーしゃといっしょにねるのー」
と日も傾いてきたところで洞穴に薦を敷いて、その上に俺とアイシャで横になりもう一枚の薦をかけて一緒に寝た。
そして翌日明るくなったらエリコに帰るため荷物をまとめ、残りのパンとチーズで食事を取り、船のところまで戻ると俺たちは船でエリコまで戻った。
「只今戻ったよ」
「もどったのー」
そしてリーリスが迎えてくれる。
「二人共おかえりなさい。
アイシャはだいぶご機嫌ね」
リーリスにそう言われて大きくうなずくアイシャ。
「とってもたのしかったのー」
「それにあなたもいいことがあったようね」
リーリスの言葉に俺はうなずく。
「ああ、最悪の場合ここから避難しないといけない時に避難できる場所の目処がついたからな」
「あら、それなら良かったわね」
「まあ、そうならないでくれるのが一番なんだけどな」
ともあれそれなりに水が豊富で、緑があるからドングリやナッツも秋には手に入りそうだし、肉はアイベックスやハイラックスを狩れば手に入るだろう。
山羊やロバであれば連れて行って飼うことも可能だろうし、現状では人も住んでいない。
避難する場所としては理想的と言えるだろう。
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