第61話 泥の人形は人間が一番最初に作った人型の一つ

 さて、雪が溶けたりまとまった雨がふると、大地はぬかるむ んだが、これは天の恵みでもある。


 冬の間の水が草木を育てて春には花を咲かせるんだな。


「どろどろー」


 ドロドロの大地でも子供は元気に遊んでるけどな。


「あー、アイシャ、あんまどろどろの時は外に出ないほうがいいぞ」


 アイシャが首を傾げる。


「どちてー?」


 俺は諭すように言う。


「転んだら服もお前さんも全身真っ黒になるからな」


 アイシャはビクッとした。


「まっくろやー」


 そう言って慌てて家の中に戻って来て俺にしがみつくアイシャ。


「ん、ちゃんという事きくアイシャはいい子だな」


 アイシャはバンザイして言う。


「あいしゃ、いいこー」


 とは言っても、家に外からでられないのでは暇なのは確か。


「んじゃ、泥で人形でも作るか」


「つくうー」


「リーリスも作ろうぜ」


 俺がリーリスに声をかけると息子を抱っこ紐で抱きかかえた彼女は頷いた。


「そうね、そうしましょう」


 ちなみにそろそろ農作業しなくていいのと思うかもしれないが、この時代の農耕は水やりとかこまめな雑草取りやら肥料やりやらをしてるわけではなく、種を蒔いたら収獲まで放置が基本だから問題はないのだ。


 基本的に手間ひまをかけて農業をしているわけではなく、自然に生えてる麦を自分たちの周りに移しているだけというレベルだな。


「じゃあ、それぞれ自分を作ってみようか」


「あーい、つくゆー」


「じゃあそうしましょう」


アイシャとリーリスがそう答えると息子も声を出した。


「あー」


生後6か月頃になると、声を出す力が発達してくるんで、声を出すことが楽しくて笑いながら、手足を元気に動かしたりして、機嫌がよさそうにしていることも増えた。


 だからといって流石にまだ人形は作れないけどな。


 下手に息子に泥玉を渡して口に入れられても困るし、泥だらけの指を舐められても困る。


 そして俺たちは外から赤土を適当に手に取ってきて家の中で泥人形をこね始めた。


「なんか懐かしい感じだな」


 俺が泥をこねながらそういうとアイシャが首を傾げた。


「なつかしいのー?」


 俺は頷く。


「ああ、俺も小さい時にこんな感じで人形とか動物とか作ったな」


「あいしゃとおなじー」


「おう、そうだな」


 俺はアイシャの頭をなでてやろうとしたが髪の毛が泥だらけになるとかわいそうなのでやめた。


 だいたい、幼稚園とか小学生の頃は粘土とか紙粘土で色々作ったりしたよな。


「ふむ、意外と難しいな」


「たのしー」


「胸はこんな感じで……」


 三者三様に泥をこねて人の形に作っていく。


 やがて人形が出来上がった。


「できたな」


「できたー」


「これで完成ね」


 まあ、正直に言えば精巧とは言えないとおもうが、それぞれの特徴は捉えているんじゃないかと思う。


 もっともリーリスは胸と尻を盛り過ぎだと思うけど。


「あら、何か私の作った人形の造形に問題でも?」


 俺はハハハと笑ってごまかしながら言う。


「いやいや、何も問題はありませんよ」


 うむ、思ったことが顔に出ていたかな?。


 しかも、アイシャが真似している。


「あいしゃもかーしゃみたいになるのー」


 皆手を洗ったのでリーリスはアイシャの頭をポンポンと撫でる。


「そうね、きっとなれるわよ」


 俺もそれに頷く。


「まあ、大丈夫だろ」


 乳には成長ホルモンが含まれているせいか、穀物だけの民族より乳を摂取する民族のほうが胸や尻は大きくなりやすいみたいだからな。


 アイシャにはまだまだ先の話だとおもうけど。


「せっかくだから記念に窯で焼いて保存するか」


 アイシャはコクコク頷く。


「するー」


 そしてリーリスも頷いた。


「そうね、それがいいわ」


 俺は皆が作ったそれぞれの泥人形を窯で焼いて焼成することにした。


 まあ、水分を抜くため日陰で乾燥させないといけないけどな。


 暫くの間日干しして縮んだ泥の人形をパン焼き窯で焼いて見たらかなり固くなった。


 やはり日干しだけなのと高熱をくわえて焼くのではだいぶ違うらしい。


 そして無事に焼けた人形は部屋の床に並べておいてある。


 いつかは息子の人形もここに加わるのだろう。

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