第60話 オアシスの泉やトイレを一度見直してみるべきか?

 さて、人間が生きていく上で清潔で安全な水の確保というのはとても重要だ。


 一応木炭も使ったろ過装置を作ってみたが、個人レベルではやれることも限られてくる。


 そして飲水の汚染は人や家畜家禽に加えて野生動物の糞便し尿が混じり、その中の病原菌や寄生虫などを経口摂取してしまうことが多かったりする。


 現代だと工場の排水による科学的汚染もあるけどな。


 沢の水はきれいに見えても、飲んではいけないというのは野生動物のフンなどが混じり、微生物などが繁殖しやすく病原体や寄生虫に感染する恐れがあるからで、特に北海道ではエキノコックスの単包条虫や多包条虫に感染する可能性があるので生水は絶対だめと言われているくらいだ。


 またネコ科の動物の寄生虫であるトキソプラズマは免疫機能が正常に働いていればそこまで危険ではないが、妊娠中の母親が感染して胎児に移ったり、乳児が感染すると重篤な影響が出る場合もある。


 原虫のたぐいは脳に回って重篤な障害を起こすこともあるので怖いのだな。


 というわけでもう一度エリコの飲用水やトイレなどを見直してみることにする。


 エリコにおける飲用水は基本的に湧き水であるオアシスの泉の水で、エリコには豊かな地下水があるらしく、泉がたくさんありそれぞれ水が湧き出ている。


 基本的には雪解け水を地層をとおしてろ過したものなので、これ自体は汚染の危険は非常に少ない。


 エリコの泉で有名なのはのちにエリシャの泉と呼ばれるもので、”エリシャ”とは、旧約聖書に出てくる紀元前9世紀に生きたイスラエルの預言者の名前だ。


 当時、エリコにあるこの泉の水が悪く、流産が多かった時、エリコの住人がエリシャに助けを求めたところエリシャは塩を投げ込み、それによって水は良くなり流産などはおきなくなったと言われている。


 ちなみに彼はエリコからの帰路の途上、町から出て来た子供たちに「禿げ頭、上って行け」とからかわれた際、神の名において子供たちを呪い、その結果、四十二名の子供が二頭の熊に襲われて惨殺されたたと言う話もあったりするが。


 まあそれはともかくエリコは小高くなっていてヨルダン川が増水しても浸水しないが、自噴する泉があって飲料水を確保できたので大きな集落として発達することが出来たのだ。


 ちなみにトイレだがトイレは各自の家の中庭の角に作られていて、ようを足しているところを他人に見られないように壁で遮った場所に、太めのヤシの木を2本おいてあるだけの場所で、ヤシの木の上に足を載せて用を足し、大便は乾燥したら適当に砂ごと環濠などに捨てるのだが、空気がかなり乾燥しているため、雑菌がわいたり匂いが気になることは雨季の冬場以外は殆どなかったりする。


 こういった自然乾燥式トイレは現代でもアフリカや中近東、アメリカなどの砂漠地帯の乾燥した日干しレンガの住居がある地域では普通に使われていたりする。


 ついでに熱く乾いた砂で手もお尻も拭くので水の出番はまったくない。


 もっと昔の竪穴式住居だった頃は集落の外周辺で用を足し、そのまま放置して自然の分解作用にまかせていたらしいけどな。


 逆に人口が増えたら集落の周辺を囲む通常は水が流れている環濠に杭を打って木を渡した水につき出した厠も作られることになる。


 飲み水はオアシスから得て、糞便は環濠に垂れ流すわけだ。


 こう考えると人間のトイレに関してはあんまり問題になることはないんだよな。


 路上に汚物を投げ捨てていた中世から近代のヨーロッパのほうがよほどやばいと思う。


 無論、糞便を垂れ流した環濠の水がオアシスに混じったらやばいことにはなるわけだがそういう可能性はほぼない。


 となると問題は飲用水だな。


 ネズミやヤマネコなどの野生動物や鳩などの野鳥・家畜家禽の糞尿が飲料用水に混入しないようにしたり、水浴びに使われたりしないようにするのはやはり大事かなと思う。


 エリコでは雪解け水が湧き出した湧泉を利用しているが、湧出量を増やすために、湧口をほって広げ、小さな池にして水を溜めてそこから水をくんで用いるようになっている。


 今はその脇にろ材の入った壺とその底から出る浄化された水を受け止める水瓶をおいてろ過して使ってるわけだが、飲料水とするにはもう少し工夫が必要かな?


 俺はマリアに許可を取ってから村人に手伝ってもらい、湧出量が少なめで湧口を広げていない小さめの泉の上に、干しレンガで広めの小屋を作って鳥がその上に糞をしたりしないようにしておき、更に干しレンガで周囲に井戸囲いのようなものを作って水浴びをしたり、動物が水を飲んだり近くで糞をまきちらしたりしないようにした。


 しかし、そうすると水が汲み上げづらくなったので、Y字の木を打ち込み、その上に細木の天秤を乗せ井戸の方には網にくるんで水瓶を吊るし、他の一方に重しをつけ、シーソーのように重し側を下げると水瓶が跳ね上がることで軽く水を汲みあげるように工夫した跳ね上げつるべを設置した。


 まあここにも一応濾過器は設置しておくけどな。


「これでより水が安全になったはずだし妊娠していたり乳児がいたりしている母親が飲んでも心配は少なくなったと思う」


 俺がマリアへそのように報告するとマリアはにっこり微笑んでいった。


「それに水をろ過壺へ汲み上げるのも楽になりましたしありがとうございます」


 今まで使っていた池のように広めに水が溜まった泉は洗濯や家畜の水飲み場などに使うだけにして飲水にするのは基本禁止にする。


 少しずつではあるが胎児や乳児への危険は取り除けているはずだ。

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