第59話 雪やこんこ、あられやこんこ、温かいエリコでもたまには雪が降ることもある

 さて、俺はあの後マリアを通してエリコの住人にも雨具の笠や簑の作り方を教えて回った。


 子供を助けようと父親が濡れて風邪をひいては本末転倒だし、寒さが厳しいときには防寒衣としても簑は役に立つからな。


 そして、緯度的に鹿児島と同程度の場所にあるエリコは冬でもめったに雪はふらないが、たまに寒の戻りが有って雪が降ることがある。


 21世紀の東京と同じくらいの確率じゃないかな。


 そして今年は珍しく雪が積もるほどに降った。


「とーしゃー、お外真っ白だよー」


 娘のアイシャが物珍しそうにいう。


「ああ、これはな雪っていうんだぞ」


 アイシャは首を傾げてる。


「ゆきー?」


 息子をあやしているリーリスも外を見て言う。


「こんなに積もるなんて珍しいわね」


 俺は頷く。


「俺がここに来てから積もるほど降ったの初めてだもんな。

 今日は雪遊びでもするか」


 アイシャはバンザイして喜ぶ。


「あそぶー」


 リーリスが外に出ようとするアイシャを捕まえる。


「お外は寒いから暖かくしないとね」


「さむいのー?」


「そうよ、すっごく寒いはずよ」


「さむいのやー」


「だから暖かくなるようにしましょう」


「あったかくするー」


 リーリスがアイシャに上着を着せたり、手袋をつけさせたり、帽子をかぶせたりしている間に俺も防寒装備に着替えた。


 息子にも色々着せて居るので息子も外に出すつもりらしい。


 猫は寒いので小さく丸くなってうずくまっているが。


 アイシャに色々着せていたリーリスも息子を抱っこ紐で抱えて防寒対策をすると皆で家の外に出る。


 アイシャも息子も積もった雪を見たり、冷たい冬の空気を感じたりするだけで新鮮な驚きがあるようだ。


「家畜たちは大丈夫かな?」


 俺は家畜小屋をのぞいてみたが、家畜たちもまあとりあえずは大丈夫そうだ。


  雨降りの時と同様暇だなーという感じではあるようだが、いくらかは干し草もあるし、雪が溶けるのもそんなに先のことじゃないだろう。


 雪が深い地域には山羊や羊は住めないようだが、これは雪の下の草などを山羊や羊は探すことができないかららしい。


 馬やトナカイなどはそういったものを探すことができるので寒冷地でも生活できるらしいけどな。


「わーい、あっ!」


 雪の中を走り回ってるアイシャが雪に足を取られてころんだ。


「おーい、大丈夫かー」


 アイシャはむくっと起き上がってふんすと胸を張っていう。


「だいじょー」


 まあ、雪がクッションになって大丈夫だったみたいだな。


「あらあら、服が雪だらけよ」


 リーリスが笑いながらアイシャの服から雪を落としていく。


「だいじょー」


 まあ子供は風の子元気の子だな。


  一方息子は白い雪を見て驚いていたのだが、リーリスが手で雪を触らせたら、雪の冷たさにびっくりして泣き出してまった。


「あらあら、ごめんなさい。

 私は一度戻るわね」


「ああ、わかった」


 そう言ってリーリスは息子と一緒に家に戻っていた。


 そのうちによその家族も外に出てきた。


「じゃあ、アイシャ。

 どっちが一番大きい雪玉を作れるかやろうか」


「ゆきだまー?」


「ああ、まずはこうしてな」


 俺は適当に雪を手にとって丸めて、そこに更に雪を取って丸めていきちょっと大きな雪玉をを作る。


 そして地面の雪の上におろしてそれを転がすと雪がくっついて大きくなって行く。


「わちしもやるー」


 早速アイシャが食いついてきた。


「よし、じゃあ、アイシャもやってみようか」


「やるー」


 俺たちがやり始めると面白そうと思ったのか、そこかしこで雪玉を作って皆でそれをころがし始めた。


 皆楽しそうに雪玉を転がしている。


 俺はそれなりに大きくなった雪玉を前に足を止めた。


「まあ、こんなもんかな」


 こんなもんかなで作っていたら周りに大きさでどんどん抜かされたけどな。


「とーしゃー、みてみてー」


 アイシャの雪玉もちゃんと出来ていた。


「おーすごいぞー、じゃあ、俺の雪玉にお前さんの

 雪玉を乗っけてみようか」


「わーった」


 俺が作った雪玉にアイシャが作った雪玉を乗っける。


「これで雪人間の完成だ」


 そこへ息子が落ち着いたリーリスが戻って来る。


「あら、面白そうなことをしていたのね。


「わーい、できたーできたー」


 俺がそういうとアイシャは跳ね回って喜んでいた。


「ああ、雪人間を作ってたんだ」


「あらそれなら目とかもつけてあげたほうがいいんじゃないかしら?」


「ああ、そのほうが完成度は高くなるな」


 ぴょんこぴょんこはねているアイシャがいう。


「あちしがやうー」


「じゃあ、土で目とか口をつけてやるか」


「やうー」


 俺は雪の間から顔を覗かせてる土をアイシャ手にもたせて、抱き上げてやった。


「ゆきにんげんさんのめー」


 アイシャが土で目を作る。


「ゆきにんげんさんのおくちー」


 アイシャが土で口を作る。


「できたー」


「おお、できたな」


「出来上がったわね」


 俺たちは顔を見合わせたあと笑いあった。


 周りの家族たちもおなじように雪人間をつくってたのしんだようだ。


 残念ながら翌々日には全部溶けてしまったけどな。


「アイシャ、雪遊びは楽しかったか」


 アイシャは満面の笑みで言った。


「たのしかったー」


 まあ、娘が楽しめたから良しとしよう。


 息子が雪遊びを楽しむ時がまた来るかどうかは分からないがな。


 あんまり長い間雪が積もっても家畜が餓死してしまうし、そんなに降って欲しいわけでもないんだが。

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