第57話 色々あって大勢でローズヒップなどを取りに行くことになったよ
さて、そろそろ麦の種まきの季節だ。
今年はリーリスは下の子供の面倒にかかりきりなので、アイシャに種まきを手伝ってもらおうと思う。
「アイシャ、リーリスは今大変だから、お前さんが麦の種をまくのを手伝ってくれるか?」
そう言うとアイシャはにっこり笑顔で答えてくれた。
「わーった、あたしかーしゃのかわりにがんばゆよ」
「んじゃ、種籾の入ったカゴはアイシャが持ってくれな」
「あい」
というわけで俺は石鍬を持ち、アイシャは栽培種が多めになってるはずの麦の種籾の入ったカゴを持っていく。
そして俺は石鍬で土を耕したあという。
「種のまき方は覚えてるか?」
俺がそう聞くとアイシャはコクっとうなずいていった。
「ぎゅうぎゅうだとむぎしゃんかわいそだから、ばらばらってまくのー」
「おお、ちゃんと覚えてたな。
えらいぞ、アイシャ」
「わーい、あちしえらーい」
とバンザイして喜ぶアイシャ。
俺はその頭を撫でてやる。
子供は叱るよりも褒めて伸ばしたほうがいいのだ。
というわけで一度失敗して成長したアイシャは、ちゃんとパラパラッと間隔が開くように種を蒔いていた。
危険なことでなければちょっと失敗させて、なぜ駄目だったかを考えさせるのも大事だよな。
「そろそろ疲れたな。
アイシャはどうだ?」
「あちしもつかれたー」
「んじゃ表は切り上げて帰るか」
「あーい」
まあ、石鍬で土を掘り起こすのも、間隔を開けて種を撒くのも体力的にそれなりに大変なので、ある程度やったら切り上げて家に帰るけどな。
で、俺はそういった農作業などの休憩の合間につるバラに実っているローズヒップを探しては確保していた。
カモミールやエルダーの花が咲くのは春なので、春になって花が咲いたらこれらも忘れないように確保しておこう。
レモンバームやセイヨウナツユキソウも雪がふるような所では冬には枯れてしまうが、これらは耐寒性が強い上に繁殖力が非常に強く、根は数年生きるため、雪解けと同時に成長を始めるくらいだ。
しかも、このあたりではめったに雪も降らないから、通年でも手に入れるのは難しくないだろう。
とするとこのあたりでのローズヒップの収穫期である10月~12月に採取できるものは採取しておくべきだろうからな。
11月〜2月ぐらいに地面に落ちたローズヒップは、暖かくなったら芽を出して新たなイヌバラになるんだな。
「ちなみに聞くけど、ローズヒップが晩秋から初冬になるのはしてったよな?」
俺がリーリスにそうきくと彼女はうなずいて答えた。
「ええ、知っていたけど、とても食べるようなものじゃないでしょう?」
「まあ、普通に食べるには酸っぱすぎるもんな」
ローズヒップは生のままでも一応食べられるが、かなり酸っぱいので今までは特に食用にしていなかったようだ。
なので基本的には乾燥させてお茶にしたほうがいいらしい。
そんな感じで採取してきたローズヒップの陰干しを家でやっているときに慌てた様子で家にやってきた奴が居た。
「アキラ!
うちの子供が熱を出したんだ!
なんとかしてくれないか?」
「ん、ああ、わかった。
今見に行こう」
というわけで子供の様子を見にいった俺だが熱を出したのは生後半年ほどの乳児だった。
「乳児か、こいつは困ったな」
なにせ乳児だと体が小さくて体温の調整が難しい上に、免疫が低すぎるからな。
一応、手足まで温まり汗をかき始めたら 熱が上がりきっているはずだから熱冷ましをしても大丈夫だろう。
けいれんを起こしたり、咳き込みがひどくなる、何度も吐く、意識状態がおかしいなどの症状があるとかなりやばいんだがそういうのは多分無いみたいだしな。
「ちなみに乳はちゃんと飲むか?
吐いたりしていないか?」
俺がそう聞いたら、彼は。
「ああ、大丈夫だ」
と答えた。
それならまだなんとかなるか?
「それなら子供の首と両脇の脈のある所に濡れた布を当てて熱を冷ましてやってくれ。
ただし冷まし過ぎも良くないから少し熱が下がったら直ちにやめてくれな。
俺は俺の家に必要な物を取りに行ってくる」
「わかった」
というわけで俺は家に帰ってスマホで調べてみる。
乳児は特に生後半年すぎから1年にかけてが一番免疫が弱いそうだ。
その理由は子供が生まれてすぐの母乳や胎盤には免疫物質が豊富に含まれているので、それらから免疫物質を受け取った生まれたばかりのほうが実は風邪などの病気ににかかりにくいそうだ。
しかし、生後6ヶ月を過ぎると免疫物質が減少し、免疫が発達し始めるのは1歳を過ぎてからなので、6ヶ月から1才半くらいまでが免疫力は一生で低い状態なため、風邪をひきやすく、また風邪が重症化しやすいらしい。
また、日光(紫外線)を浴びると体内でビタミンDが作られ、ビタミンDには免疫機能調節効果があるのでかなり重要なのだが、母乳に含まれる量は少ないうえに、冬は日照時間が少ない上にこの辺りは雨季のため晴れの日自体が少ない。
とするとなんとかしてビタミンDを補充したいところだ。
現代であればBabyD200のような乳児用の飲ませやすいサプリメントとかもあるんだが、この時代には当然ない。
しかし母親に十分なビタミンDがあれば、母乳中のビタミンDの濃度も上がるらしい。
そしてビタミンDは、魚やキノコ、卵黄に多く含まれているが、特にイワシには多く、皮の部分に多く含まれているらしい。
とすると夏に投網で捕って、煮干しにして保存しておいたイワシを食べさせるのがいいかもな。
というわけで、前にアイシャの友達のマリアに飲ませたものと同じ物に加えて煮干しを持っていく。
「子供に似ませたり食べさせたりするのは難しいのでお母さんがこれを飲んで、あとこのイワシの煮干をそのまま食べてください」
俺がそう言うと熱を出してる子供のお母さんは?という顔になった。
「ああ、お母さんがそれらを摂取すれば、母乳を通して、風邪に負けないようになるものを子供に渡せるはずなんですよ」
「なるほど、わかりました」
というわけでお母さんにイワシの煮干しと、ハーブティーもどきを摂取してもらう。
「あと太陽が出たら子供と一緒にお母さんも体があたたまるまで、太陽の光をしっかり浴びるようにしてくださいね。
お母さんが風邪を引きにくくなれば子供もそうなるはずなので」
「わかりました」
という感じで俺にできる範囲のことをやった。
子供の熱は2日ほど下がらなかったが、最終的には無事に熱が下がったようだ。
「やれやれよかったぜ」
そうしたらそれを聞きつけたらしい女性達10人ほどが、俺の元を訪ねてきた。
そしてみたことがある感じの女性は以前にリーリスの乳母をしてくれた女性の母親だそうだ。
その他も妊娠していたり乳児を抱えている女性の母親や姉妹だったりするらしい。
「今度こそ、うちの娘の子供に無事に育ってほしいんだ。
何でもあんたが出すものを母親に食べさせたり飲ませたりすれば子供も風邪にならないって話じゃないか」
「んー、まあそうなんだけど流石にこの人数分の材料はないんで、緊急じゃなきゃみんなで取りに行きたいと思うけどどうかな?」
俺がそういうと皆は真剣な表情でうなずいた。
「むしろそのほうが助かるよ」
「あと、できればイワシを食べるようにしてほしいから投網で魚が取れるやつが居たらそうしてほしいんだが」
「わかった、それは嫁の旦那にやらせるよ」
というわけで男はイワシを捕るために冬のヨルダン川で投網漁を行うことになり、女はハーブティの材料になる物を取りに行くことになった。
「なるほど、この酸っぱい赤いやつを食べさせるのか」
「そのままだと酸っぱすぎるのでお湯で煮出して、飲みやすくしますけどね」
ちなみにローズヒップ自体は皆その存在は知っていたがやはり酸っぱすぎるのでわざわざ食べなかったらしい。
というわけで妊娠中や乳児がいる母親にはイワシなどの魚を食べ、ローズヒップにレモンバームやセイヨウナツユキソウなどを採取して、それをお湯で煮出したものを飲ませ、積極的に太陽の光を浴びることで熱を出した子供がそのまま重症化して死ぬことは多少は少なくなったと思う。
しかし、麻しん、百日咳や結核などの感染症は、感染力が非常に強く、生まれたばかりの乳児にも感染して発症してしまい、重症化してしまった場合はどうにもならなかったりするがな。
このあたりはやはり抗生物質や生ワクチンがある現代と違って、対処が厳しい。
実際17世紀くらいまでの乳児死亡率は古代からそう下がらなかったくらいだし、乳児死亡率を大幅に下げるには栄養学と医学の進歩に加えて上下水道の整備などは必須なんだよな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます