第56話 アイシャの友達の女の子が風邪を引いたようなので色々やってみたよ

 さて、季節も冬にうつりかわって雨も降り出してきた。


 雨が降ったら家の中でのんびり過ごすが、晴れていれば子供はやっぱり集まってかけっこなどをしている。


 そんなある日のことだが、アイシャと仲良くしている女の子のマリアが少し顔を赤くしていた。


「ん?

 マリア、顔が赤いが大丈夫か?」


 とマリアの額に手を当ててみたが少し熱がありそうだ。


「こりゃ風邪ひきだな。

 アイシャ、今日から暫くはマリアと一緒に遊べないが、がまんして、家に戻ってくれるか」


「わあった……ばいばい」


「ばいばい」


 アイシャはマリアに寂しそうにそう言って、小さく手を振って家へ戻っていった。


 俺はマリアを一度家に戻らせ、集会所へ行くとマリアが熱を出したので、しばらく集まるのは中止と告げ子どもたちを家に帰らせる。


 免疫が極めて低く、病原菌やウィルスなどに抵抗力ない乳飲み子から乳離れしてしばらくした幼児を家族のもとに置き、他の乳幼児と可能な限り離し、隔離しておくのは、乳飲み子には母乳が必要であるという理由もあるが、免疫や体力、病気への耐性のない乳幼児の集団のなかで、万が一病気を拡散させ、感染することで免疫耐性のない乳幼児や子供がおなじ病気に罹り、死んでしまっては困るという理由もある。


 なにしろ乳幼児にとっては風邪症状のある病気は致命的な結果をもたらす可能性が決して低くないからな。


 そして一度家に戻るとアイシャがシュンとしていた。


「とーしゃ、まりちゃだいじょびかな?」


 そういうアイシャの頭を俺は優しく撫でながら諭すように言う。


「そうしたらアイシャは神様にお祈りしてやってくれ。

 マリアが無事に治りますようにってな。

 そうすればきっと神様が助けてくれるさ」


 俺がそういうとアイシャは一転笑顔を見せ、力強くうなずいた。


「わーった、あちしいっしょうけんめ、おいのりする」


 そしてアイシャはすぐに祈り始めた。


「かみしゃま、まりしゃをたすけてくだしゃい」


 と。


 自分にできることがあるというだけで心配も減るというのはいいことだ。


 おそらくアイシャの祈りは神様に届くと思うが、俺は俺で出来ることをしよう。


 またもやスマホの出番だな。


 色々と調べた俺はまず子供のマリアの家に行き状態を確認する。


「マリアの熱はどうだ?」


 俺はマリアを看病しているマリアの母親に聞く。


「ちょっと高くなってるみたいです」


 たしかにふうふうと息苦しそうに言っているな。


 しかしこれなら熱は上がりきってるだろう。


「そうしたら亜麻の布を手頃な大きさに切って、水で濡らして、のどの左右の脈が触れる部分とわきの下の脈の触れる部分にあてて、冷やしてやってくれ。

 ただ冷やし過ぎも良くないからマリアの様子や体温をみて下がってきたらやめてくれな。

 布に余裕があるならおでこにも乗せてやってくれ」


「あ、はい、わかりました」


 これで発熱による脳炎などの可能性は減らせるだろう。


 実はおでこに濡れ布を乗せても体温はほとんど下げられないのであまり意味はないのだが、おでこが冷えると多少は気分的に良くはなるからな。


 それから俺はエリコの街の外へ出て風邪を治すに良いらしい植物を探すことにする。


 まずはローズヒップの実がなるイヌバラを探す。


 このあたりで野ばらといえばイヌバラを示すほどメジャーな薔薇でもある。


 そして、イヌバラの果実であるローズヒップはビタミンC、E、βカロチン、リコピンなど抗酸化作用や抗炎症作用に優れている成分が多く含まれていて活性酸素を抑え、免疫力を高める働きがあると言われているらしい。


 ローズヒップは晩秋から初冬に結実するのでまだ残っていてよかったぜ。


 後はカモミールの花だな。


 カモミールにも、炎症を抑えるほか、ウイルスを抑制する、体を温める、発汗させて熱を下げる、筋肉を緩める(風邪のひきはじめの痙攣性のコンコン咳を緩和)、胃粘膜を保護する など、風邪の諸症状に有効な成分がたくさん含まれまれていて、精神を安定させ、安眠させる作用もあるらしい。


 しかし、カモミールの花は晩春の5月ころに咲くので今の時期では手に入らない。


 同じようなものにエルダー別名西洋ニワトコがあり、葉や花はハーブとして利用できるらしい。


 エルダーもこのあたりではさほど珍しい木ではないので、葉っぱをとっていく。


 さらに、レモンバーム別名メリッサの葉っぱもいいらしい。


 レモンバームはシソ科コウスイハッカ属で実はシソは風邪に良いらしいのだな。


 それから鎮痛解熱に効くというセイヨウナツユキソウの葉っぱも取っていき、ローズヒップの果実やその他の植物の葉っぱを刻んでカップに入れ、沸かしたお湯でハーブティーにして、葉っぱは布で濾し取って子供のマリアのところへ持っていく。


「あー、ちょっとまだ苦しいかもしれないけど、これを飲んでみてくれ」


「あい……」


 そう言って子供のマリアはハーブティを飲んで、もう一度寝たが、こころなしか落ち着いたようだ。


 そして翌日には子供のマリアの風邪はケロッと治っていた。


  まあ、百日咳とかじゃなくってよかったな。


 幸い他に風邪が移った子供もおらず、俺も特に風邪を移されることはなかった。


 これからはカモミールなんかの薬効を持つハーブの花や一年草で冬に枯れてしまう植物の葉を見つけたら摘み取って陰干しで乾燥させていつでもハーブティに出来るようにしておいたほうがいいな。

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