第55話 念のため飲料水のろ過装置も作っておくべきか

  さて、あの後は集会場で子どもたちが遊ぶときに、何かを食べさせる前に全員石鹸で手を洗うようにさせた。


 そして、石けんの材料と作り方をエリコの女性に教えて、特に小さい子供が居たり、妊娠していたりする場合は調理の前と食事の前には必ず石鹸を使って手を洗うように伝えてみた。


 生まれたばかりの子供にとってはかなり致命的な病気である、百日咳などは飛沫感染もするが接触感染もするので、手指の消毒をすれば少しは感染の可能性は減らせると思う。


 後は念のため飲料水はろ過とかをしておいたほうがいいかもな。


 エリコのオアシスは地下水が自然と湧き出たもので、地下水は基本的にすでに天然の土によって幾重にもろ過され、病原細菌や汚染物質についても地中微生物が分解したり土壌の吸着作用によって浄化されているものでもある。


 そして湧出量を増やすために湧口を堀り広げ小さな池のようにして水を溜めて用いるようになったが、面積が広くなった分、オアシスに人間のし尿糞尿や生活排水、あるいは家畜や鳩などの糞などが絶対混じらないとも言えないからな。


 あと、この周辺の地下水は塩水も多く、井戸を掘ったら塩辛い水が出てきたなんてこともよくあったりするから、下手に真水を汲み上げすぎるとやばいことになったりもする。


 まあ、それはともかくとして浄水装置を作るとなればまたもやスマホの出番だ。


 飲料水のろ過の歴史も意外と古く、ろ過が不純物を取り除くのに有効であることはかなり古くから知られていたらしい。


 紀元前2000年、つまり4000年前のインドでは水を砂や砂利でろ過してきれいにする方法についての伝承がすでにあったようだ。


 インドは,危険な風土病の特に多い地域でもあり、天然痘の他に細菌性胃腸炎、腸チフス、パラチフス、細菌性赤痢、アメーバ赤痢、コレラなど食物や飲料水を介して広がるものも多い。


 幸いなことにこの時代はまだエリコとインドとのつながりはないので、そういった病気は入ってきていないがな。


 簡単なろ過は容器の底に穴を開け布を敷いてその上に砂を入れて水を上から入れて砂を通すことで不純物を除去するものだが、もう少し手間をかけてなるべく目詰まりしにくく、病原菌なども除去できるようにしたい。


 となると必要なのは木炭だな。


 炭には小さな孔がいっぱいあいていて、そこへ病原菌などもある程度吸着させることが出来るはずだ。


 もっともそのためにはまず木炭を作らないといけない。


 炭は木材を酸素がない、または極めて少ない状態で加熱すると、木材の成分である二酸化炭素、一酸化炭素、水素などがガスになって揮発することで、炭化して黒い炭となって残る。


 なので森へ行って枯れ枝を拾い集め、麦わらを地面に敷き詰めたあと、木炭にする木の枝を置き、その木の枝の上に大量の籾殻やドングリなどの殻を乗せ火をつける。


 あとは火があまり強くなりすぎないように注意しながらいぶす程度に火を保ち続け、火や煙が落ち着いたらあとは1日置くと炭の完成。


 まあこの方法では備長炭のような白炭はできないが、白炭を作るのには1000℃以上の高温で焼き、白熱した木炭を1本1本窯口まで集め、15~20kgずつ外に引き出し、消粉といわれる湿気を含んだ灰と土をかけて火を消していくという技術や材料が必要なのでそこまではやらない。


 ろ材を入れた壺を乗せ、その下で水瓶に落ちてきた水をいれられる木組みの台を作ってから、壺の底に穴を開け亜麻の布を敷いた後、適当に砕いた木炭、砂、砂利、軽石の小石の順で敷き詰めていけば、ろ過装置の完成だ。


 オアシスのそばに上にろ材が入った底に穴の空いた壺を乗せ、下に水瓶をセットしたら、上の壺に他の壺で水を汲み入れて、のんびり待てば砂や木炭でろ過された、きれいな水が下にたまるという仕組みだ。


 まあ最初のうちはかえって濁った水になってしまうので捨てるのだが。


 きれいな水がある程度溜まったら、別の水瓶を持ってきて置き換え水の入った水瓶を持って家に変える。


「ただいま。

 リーリス、ちょっとこの水を飲んでみてもらえるかな?」


「ええ、いいわよ」


 炻器のカップで水瓶から水をすくって飲んだリーリスに俺は聞く。


「どうかな?」


「ん、とても美味しいわよ」


そしてアイシャも言う。


「あちしものみたーい」


「んじゃアイシャもほれ」


と炻器のカップで水瓶から水をすくってアイシャに渡す。


「んまー」


二人の反応は上々だな。


「そうかそれは良かった。

 できる限りきれいにした水だから、可能ならこれからはそれを飲むようにしてくれな」


「わかったわ」


「わかったでし」


 これから先の冬の間は雨水をろ材の入った壺で受け止めて水瓶にためておくようにしてもいいかな。


 雨水は降り始めは空気中のちりなどを多く含んでいるが本降りになってからはかなりきれいな水なんで飲料水にも使えるはずなんだ。


 石けんと同じように炭の作り方やろ過用の壺の作り方も教えて、周り特に妊娠中や乳幼児の居る家にはなるべくろ過水を飲んでもらうようにしよう。


 まあ、使い始めたら10日に一度くらいの間隔でろ材、特に木炭を取り出してきれいな水で洗った後、煮沸消毒して吸着した物を出した上で、乾燥させておかないと目詰まりを起こしたりするから、これはこれで手間はかかるんだけどな。

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