第51話 夏だし家族みんなで死海にプカプカしに行くついでに塩も取ろうか

 さて、息子はすくすくと育ってている。


 泣いている息子をゆりかごにのせて軽く揺らすと、すやすや寝始める様子はとても可愛らしい。


 とはいえ生まれたばかりの子供の面倒を一日中見るのはやはり大変なんで、アイシャの時同様に昼は乳母さんに手伝ってもらっているが。


 そして本格的に夏になると気温も上がってやっぱりそれなりに暑い。


「とーしゃ、あちゅーい」


「まあ、暑いか」


「あちゅーい」


 今年は割りと夏の暑さが厳しいのか、娘のアイシャが暑い暑いと言っている。


「じゃあ、死海に塩を取りに行くついでに死海で泳いで涼むとしようか」


 俺の提案にリーリスは頷いた。


「それはいいわね、どちらにしても塩は必要だし。

 すみませんが息子の面倒と留守番たのめますか?」


 リーリスがそういうと乳母さんはうなずく。


「たまには気分転換も必要だからね。

 行ってきなさいな」


 よくわかってない娘は首を傾げていった。


「すずしいー?」


「ああ、涼しい、というか冷たい水に入ってプカプカ浮くのもたまにはいいもんだ」


 娘はバンザイしている。


「わーい、ぷかぷかー」


「じゃあ、手や足を切ったりしないように靴と手袋を用意しよう」


「そうね」


「あーい」


 家族皆で死海へ出かけるために必要なものを準備する。


 死海の底には岩塩がゴロゴロしていて、下手に素足で足をつくとすっぱり切れたりするので靴や手袋が有ったほうがいいのだ。


 前に死海に岩塩を取りに行ったように、今回も葦舟でヨルダン川を下って死海に向かう。


 葦舟には先にリーリスが乗り俺は娘を抱え上げて船に載せる。


「よし、アイシャ、おまえさんも舟に乗るぞ」


「あーい、だっこー」


 俺は娘の両脇を抱えて、ひょいと持ち上げて葦舟にのせた。


「おふねー」


 リーリスが船の上ではしゃぐ娘に苦笑する。


「はいはい、落ちないように座りましょうね」


「あーい」


 船に乗せた娘をリーリスが抱きかかえて座らせた。


「さて、じゃあいくか」


 リーリスは頷く。


「ええ、いきましょう」


 船の上でキョロキョロしている娘もニパッと笑っていった。


「いっくおー」


 葦舟を川岸から離して俺たちは船棹で川底ををついてヨルダン川を下っていく。


「風が涼しくていいな」


「あい、すずしーでし」


「そうね、川の上はホント涼しいわね」


 まあ、地面は太陽の光が当たればそれなりに熱くなるが流れる川の水はそうそう熱くならないからな。


 そして2時間ほど船を操れば死海に到着する。


 娘が目を輝かせて言う。


「すごー、きえー」


「ああ、綺麗だな、だけど危ないからちゃんと靴を履いて、手袋をしてから触ろうな」


 死海には水の中にも岩塩の柱がいくつも立っていて、それは太陽の光を浴びてキラキラ光っていて美しいが、下手に触るとほんとにスパッと切れるから、塩水でめちゃしみるのは言うまでもない。


「こんなもんかね。

 乳母さんに持って帰る分もあわせて」


「ええ、十分じゃないかしら」


 まずは湖岸で適当な結構な大きさの岩塩を拾う。


「まあ、塩はこれくらいあればいいか」


「そうね」


「じゃあ、ちょっとみずにはいってぷかぷかするか」


「するー」


「そうしましょう」


 死海の中にゆっくり入って、水の上に横たわるようにするとプカプカ浮かぶ。


「おもろー」


 塩分濃度が高く比重が重い塩水とは言えバタバタ暴れたりすると沈むので油断はしちゃいけない。


 5分ほど塩の濃いところで浮かんだあとで、ヨルダン川に近い場所へと移動していく。


 死海は塩分濃度が濃すぎるのであまり長く入っていると脱水症状を起こしかねないからな。


 大人でも長くて20分程度しか入ってはいけないらしい。


 真水に近い場所へ移動すると水がぬめる感じからサラッとした感じに変わっていく。


「何度やっても面白いよな。」


 そしてある程度楽しんだところで岸に上がる。


「さて、塩を落として帰るとするか」


「そうしましょう」


「わあったー」


 川の真水で塩を落とし、手袋と靴を脱いで太陽で干しながら、ヨルダン川を登って家路につく。


 塩水に浮かぶだけでも案外楽しめるものだ。

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