第45話 冬の種まきも娘がやると楽しそうに見えるな

 さて頑張った甲斐がありリーリスはめでたく二人目の子供を妊娠したようだ。


「うふふ、ようやく二人目ね」


「ああ、良かったよな」


この時代では子供を埋める限りは産み続けるのが普通だからな。


 そして、毛糸の編み物の帽子、マフラー、セーター、手袋で完全装備した娘は寒くなってきたのに元気に外で遊び回っている。


「かもしゃんいっぱー」


 ヨルダン川には鴨や雁が北から渡ってきて水の上をスイスイ泳いでいる。


 俺たちの家畜小屋に居着いてほぼ家鴨になってしまった真鴨や鵞鳥になってしまった雁達はもはや飛ぶことは諦めたようだが、泳ぐことは大好きだ。


 そして雨が降り出して、大地が潤えば軽く石鍬で地面を掘り返して種を蒔いていくのだ。


 俺は土をほって、リーリスが種をまいて土で埋めていく。


「さて、種を蒔いていきましょうか」


「ああ、そうだな」


 そして娘もやりたそうにウズウズしている。


「あちしもやうー」


 まあ予想通りだ。


「まあ、ちょっとならいいか。

 リーリス、娘にもやらせてやってくれ」


「あらあら、大丈夫かしら?」


 リーリスは笑いながらそういう。


「だーじょ!」


 娘の根拠のない自信は一体どこから来るのやら。


「落とさないように気をつけてね」


「だーじょ!」


 娘はリーリスから種籾の入ったカゴを受け取った。


「えーい!」


 そして娘がカゴの中の種籾の麦をわしっと掴んでばら撒いている。


「むぎがいっぱー」


 娘は楽しそうだがちゃんとほってるんだからせめてそこに蒔いてほしい。


「ああ、いっぱいだが適当に投げたら鳥に食われたりするから

 ちゃんと俺がほったところに蒔いてくれな」


 娘は首を傾げている。


「トリしゃんお腹すいたー?」


「いや、いますぐ鳥やネズミが来るわけじゃないんだけどな」


「どちてー?」


「お前さんもお腹が空いてる時になにか美味しそうなものが落ちてたら拾って食べるだろ」


「あい」


 コクリと頷く娘。


「鳥やネズミだってそうだってことさ」


「鳥さんおなかすいてう?

 かーいそう」


 まあ娘の言うことも分からないではない。


「まあ、そうなんだが鳥さんに食べさせて自分がおなかペコペコになっちゃ意味ないだろ?」


 やはりコクリと頷く娘。


「あい」


「だから食べられないように、ちゃんと土に埋めないとだめなんだよ」


「わーった!」


 娘はバンザイしながら言う。


 そしてガシッと麦の種をつかむとドサッとほったところに投げ落とす。


「やたー」


「あー、ごめんな、できれば種はほったところの中でちょっと

 ばら撒いてくれるか?」


「なんでー?」


「種と種がくっついてたらギュウギュウで芽が出せないだろ」


「ぎゅうぎゅうー?」


「そうだ、できるか?」


「できゆー」


 娘は今度こそと種をわしっと掴んでほった溝にパラパラと種を蒔いていった。


 まあ間隔とかは適当だけどこの時代は皆こんなもんだしな。


「できたー」


「おお、できたな。

 偉いぞ」


「えらーい」


 娘がバンザイする。


「ほんとえらいえらい」


 リーリスが娘の頭を寝でながら笑って褒めた。


「えらーい」


 そんなことをしているうちに日が傾いてきた。


「今日はそろそろ帰るか」


「そうね、そろそろ帰りましょう」


「かえるー」


 俺たちは娘を真ん中にして三人で手をつないで家まで戻った。


 まあ、何事もなければ無事に麦は育つだろう。


 ぶちまけた麦のいくらかは鳥やネズミに食われてしまいそうだし、麦がギュウギュウ詰めに生えてきそうな場所もあるが、娘にはそういったものも見てもらおう。


 どういうことをするとどうなるか知るのも大切なことだしな。

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