第41話 はじめてのさかなすくい
さて、基本的に植物の育成には多大な水分と養分が必要でなおかつ適度な温度でなければならない。
だから、基本的に定住は大きな川のそばで行われるようになった。
しかし、定住が行われると季節によって快適な温度や湿度の場所に移動するということができなくなったり、洪水を避けるのが難しくなる。
だから、エリコの周りには壁が有って、それは肉食獣などの危険な生物の侵入や害意を持った人間の侵入を防ぐ意味もあるが、どちらかと言えば洪水時に街を水から守るために築かれたという方が大きい。
現在は川の増水期で雪解け水によりエリコの街の周りは水浸し。
なのでこの時期の食べ物は主に家畜の乳や収獲済みの穀物など以外は水の中の住んでいる生物、要は魚がメインなわけだ。
で、俺たち家族は今日は葦舟に乗ってエリコの外にいこうとしている。
「とーしゃ、かーしゃおみずがいっぱー」
エリコの壁の外は水が一面に広がっていて娘は物珍しそうに見ている。
「ああ、今はな、水がいっぱいの時期なんだ」
「いっぱーいっぱー」
そして葦舟には先にリーリスが乗っている。
「ほれ、おまえさんも舟に乗るぞ」
「あーい」
俺は娘の両脇を抱えるとひょいと持ち上げて葦舟にのせた。
「大丈夫だ、怖くないぞ」
「こあくなーい」
船に乗せた娘はリーリスが抱きかかえる。
初めて船に乗った娘はやっぱり楽しそうだ。
「とーしゃ、かーしゃおみずがもっといっぱーいっぱー」
俺は娘の言葉に頷く。
「おう、水がもっといっぱいいっぱいだな」
そして娘は水の中を泳いでいる小さな魚を指差していう。
「おしゃかなー」
リーリスが笑って頷く。
「そうね、お魚が泳いでいるわね」
のんびりパドルを使って船を進め、ちょっと街から離れた場所に来る。
まあ、水深はそんな深くはないので大人なら立てる程度だ。
もっとも冷たい雪解け水に浸かる趣味はないけどな。
「さて、そろそろ魚を捕まえないとな」
俺の言葉にリーリスが頷く。
「そうね」
娘が両手を上げて言う。
「あちしもやうー」
「おいおい、大丈夫か?」
「だいじょー」
なぜに自信満々なのか?
まあ、やりたいというのだからやらせてやろう。
「んじゃ、網で魚を捕まえてみてくれな」
「あいー」
俺は娘にタモ網をわたして、娘が水の中に落ちないように支えてやることにした。
釣りではなくタモ網で魚をすくってるのは娘や子猫が食べやすいようにだな。
この時代では小さな釣り針を作ったり、細い釣り糸を使ったりするのは難しいが、
「えいー」
”ばっしゃーん”
娘は網を思い切り水の上から叩き込もうとして魚に逃げられた。
「さかなしゃんいないー?」
「そりゃ、あんだけ派手にやったら逃げるさ。
魚を驚かさないようにそっとやらないとな」
「そっとー」
俺達は少し船を移動させて再びチャレンジする。
「網は最初から水に入れて、魚が近寄ってきた時に動かすんだぞ」
「わあったー」
娘は網の先を水の中に入れ魚が来るのを待っている。
「よしきた」
「えーい」
娘が網を持ち上げると無事に魚をすくい上げることができた。
「やたー」
「おお、えらいぞ」
俺が娘の頭をなでてやると心なし胸を張っているな。
まあ、小さいのに大したものではあるんだが。
そんな感じでたぶん
「よーし家に帰るぞ」
「あーい」
「そうね、帰りましょう」
パドルを漕いで水の上をゆったり進んでエリコの街に帰り着く。
魚はさばいたら焼いて食べ、子猫にもやる。
川から溢れた水は大地に潤いと栄養をもたらしてくれる。
水浸しになるのはやっぱり困ったものだが、それはとてもありがたいことでもあるんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます