第39話 猫も無事に馴染んできたし家の守り神みたいになってきたぞ

 さて、冬になり雨が降るようになって来ると、晴れ間は農作業などを行い、雨の日は休みだ。


 今日は雨が降っているから家族三人で、のんびり家の中で遊んで過ごす日だな。


 大雪でも台風でも働かなきゃいけない21世紀現代の日本とは違って、この時代のエリコでは食料は十分あるので天気の悪い日に無理して働くことはない。


 月末に家賃の支払いで四苦八苦することも、携帯電話やインターネットの料金の支払いで頭を悩ますこともないし、ゲームの課金を後悔することもない。


 衣食住の全てや教育の費用に金がかかりすぎて結婚できないなんてこともない。


 そして娯楽を楽しむために長い時間必死になって働く必要はないのはやはりいい。


 畑を耕したり、羊や山羊の世話をするのもそこまでそんな厳密にやらないでもいい。


 果樹やナッツなんかは自然に生えてるものをとってるから鳥やらリスやら虫やらに食われてることもあるけど、傷んで腐ったりしてるのでなければさほど気にすることもない。


 まあ、虫食いがひどい場合は捨てるけど、鳥が食べた種は糞とともに土に落ちて新たな芽を生やすはずだ。


 空気は澄んでるし水も澄んでいてどちらもうまい。


 四季折々の自然や夜空の星もきれいだ。


 もちろん日干しレンガの家は雨が降ると少しずつ痛むから乾季に自分たちの手で補修したりしないといけないし、亜麻の服やその他の道具を全部手作りで作るのにはすごい手間はかかるけどな。


 けどもまあ時間はたっぷりあるからのんびりスローライフを楽しめるのはとても良い。


 そして、少し前に助けた子猫は娘にとてもなついている。


 ちなみに猫は女の子で本来のリビアヤマネコの毛は短めで明るい褐色であり、縞模様は不明瞭なのだがこの猫は真っ白で目も赤いのでおそらくアルビノなんだとおもう。


 アルビノの個体は敵から発見されやすく自然界での生存は極めてまれなはずなので運良く助けられてよかったと思う。


「みゃーちゃん、ほらほらー」


 ”みゃっ、みゃっ”


 娘は猫じゃらしっぽい草を床の上でふりふりさせて猫と遊んでいる。


 そして猫は前足をてしてしさせて草にじゃれついている。


「うふふ、可愛いわね」


「ああ、娘も猫もカワイイよな」


「あら私は?」


「無論リーリスも素敵だぜ」


 ちなみに娘いわく”ねじゅみさんみたいにうごかしゅのがこつなの”だそうだ。


 具体的には床の上を左右にくねらすように動かしたほうが猫がよくじゃれつくみたいだな。


 21世紀では猫カフェで適当に猫じゃらしを動かしても全く反応してくれないはずだ。


 まあ子猫だけは反応したから、親猫は猫じゃらしに飽きていただけかもしれないけどな。


「ネズミが前はよく家の中にいたってことか」


「あい、いたー」


 まあ、この時代の家には入り口にドアはないし、窓も開きっぱなしだしな。


 ネズミが家の中に入ってきて、蓄えてある穀物や豆、ナッツなどをかじろうとしても無理はない。


 一応、それらを入れた籠は中空には吊るしてあるが床に落ちたりしてる分もあるし、そういったものを食べようとネズミが家の中に入ってきていたのかもしれないな。


「今は?」


「いなーい」


 この時代の猫は人間の居住区域に入り込んでネズミを捕らえて食べているが、座敷猫のような社交性や従順さを基本的にはまだ持っていない。


 もっとも猫が娘と一緒に寝ているのは相当懐いている証拠でも有るんだがな。


 とはいえ家の中で大人しくしているほどではないので、家の外に出てカラスなどに襲われたりしないように、あるいは家畜小屋に入り込んで家鴨や鵞鳥のひななどを食べてしまわないように、猫の首に天井から吊り下げたフックと繋げた紐はつけてあるが、ある程度の長さは持たせてあるので、家の中にネズミや昆虫が入ってきたらそれを食べたりしているらしい。


 ちなみに日本には飛鳥時代にやってきた猫だが、豊臣秀吉が猫を紐で繋いで飼っていはいけないというお触れを出すまでは、紐で繋いで買うのが普通だったらしい。


 また家猫が座敷猫のような社交性や従順さを身につけたのは4000年ほど前のエジプトで、おそらく猫の女神であるバステトの神官が子猫にミルクや肉などを与えて育て、人間になつきやすい猫同士を交配させていった結果だと思う。


 これはロシアにおける狐の家畜化実験と同様のことを古代のエジプトで行ったということだな。


 またイエネコの祖先はリビアヤマネコだが、同じように人間が農耕を始め貯蔵した穀物にネズミがよってくるようになったことでヤマネコが人間の集落に近づくということは中国ではベンガルヤマネコが、ポーランド付近ではヨーロッパヤマネコがやっているが、エジプトで行われたような子猫への餌付けによる人間に懐いた個体を作ることはせずただネズミを狩るに任せていただけだったため、それらのヤマネコがイエネコになることはなかったようだ。


 まあ、猫は新鮮な生きた動物を食べたほうがビタミンの補給などの関係もあるし体にはいいはずだが、一応干した魚なども与えている。


 ネズミが家に入ってこなくなるのはいいことだ。


 糞尿などに病原菌が混ざってることもあるからネズミは怖いのだ。


 それにこの時代には娯楽は少ない。


 その点猫が娘の遊び相手になってくれるのはとても助かる。


 他の動物たちの山羊、羊、驢馬、猪、ほとんど家鴨の真鴨とほとんど鵞鳥の雁は何かを飲んだり食べるために飼っているが、猫は食べるために飼っているわけではない。


 だが、子供の遊び相手をしつつネズミなどから家を守ってくれているのだ。


「ありがたやありがたや」


 猫はエジプトではバステトとして崇められていたが、ネズミから穀物を守ってくれたりするのと多産であることから豊穣の神様でも有ったわけだ。


 だからきっとこの子猫が家に来たのも何らかの縁なのだろう。

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