第37話 みんなで揃って屋外で宴席なんてのもたまにはいいもんだ

 さてあの後、俺は魚と同じように果実を干すと長持ちするようになることをマリアに伝えた。


 しかし、フルーツの収穫からしばらくすると雨が降り出してしまい、雨に当たると腐ってしまうので今まではやっていなかったそうだ。


 しかし、林檎が取れていた頃とは気候も少し変わっているだろうということで、果実を干すことを再度勧めてみた。


 マリアは少し悩んだようだがまずは自分で試してみてうまくいくようなら来年は皆に勧めることにしたようだ。


 そして、冬も近づいて雨が振り出し、ドングリやナッツも実るようになってきた。


 そういったものを十分に拾い集めた後の今日はもうすぐ農作業も始まるので晴れ間が広がっているうちに親類みんなで集まって皆で揃って豊作を祈っての屋外での宴席だ。


 酒は葡萄酒にナツメヤシの実のデーツ酒に大麦のビールなど意外と種類は豊富だ。


「じゃあ料理も少し工夫してみるか」


 俺はそういうとリーリスが笑いながら言った。


「あらそれは楽しみね」


 娘も笑顔で言う。


「たのしみー」


 なんかハードルを上げられてしまったな。


「こりゃ、大変だ」


 とりあえずまずは料理を作ろうか。


 まずはシチューだ。


 まずはフェンネル、クレソン、クミンなどのスパイスとヤギの乳をまぜて煮込み、そこにイノシシ肉を加える。

 クリームシチューもどきだな。


「ん、美味しーわね」


 リーリスがほくほく顔で言う。


「そうだね、これはなかなかいいね」


 リーリスのお義母さんもほくほく顔だ。


「お母さんにそう言ってもらえて光栄ですよ」


 やっぱ、家の最高権力を持つ人の機嫌を損ねるのは怖いからな。


 それとは別に小麦粉を水を加えてこねて薄く伸ばしてそれを何度も生地を折り返し何層かに重ねてパイ生地にする。


 広い皿にパイ生地を敷き詰めて塩をすり込んだ肉を載せて更にパイ生地をかぶせて焼く。


 こうすれば肉汁などの旨味が逃げ出さない、簡単なパイの包み焼きってところだ。


「うん、これもいいわね」


「ああ、肉の味がパンに染み込んでて美味しいわね」


 普通に肉の塊を炎で炙っただけでも十分うまいけどな。


 後は山羊やロバのフレッシュチーズやヨーグルトに入れた無花果やナツメヤシのドライフルーツなどがデザートだな。


「甘酸っぱくていいわね」


「ああ、そうだね」


 そんなところで娘が不満そうに言ってくる。


「おーしゃ、あちしのはー?」


 娘を忘れていたわけではないんだがちと放置しすぎたか。


「おうちょっとまってくれな」


 娘にはフレッシュなヤギの乳に軽く塩を加えて、レンズ豆を柔らかく煮込んだリゾットを作ってやる。


「熱いからフーフーしてから食べるんだぞ」


 俺は石匙にレンズ豆のリゾットを少しすくってふーふーしてやってから娘に渡した。


「あいでし」


 娘は更にふーふーしてから石匙をパクと口にした。


「んまー」


 そして笑顔になる娘。


「いいなー」


 そういって指をくわえている男の子がよってきた。


 親戚の子供かな?


「お前さんも食べるかい?」


 男の子は目を輝かして言う。


「うん、ちょだい」


 俺は新しく石匙を持ってきて 男の子にリゾットの入った石匙をわたしてやる。


 男の子はフーフーしながら石匙を口にした。


「おいしい」


 そう言って笑顔になる男の子。


 だが娘はご飯を取られたと思ってご機嫌斜めだ。


「あちしのー、とらないでー」


 俺は慌てて娘にリゾットを差し出した。


「ああ、大丈夫だぞ。

 まだまだいっぱいあるからな」


「あいーあむあむ」


「ぼくにももっとー」


「はいはい、まってろ」


「ん、おいしー」


 なんか雛鳥にご飯をせがまれる親鳥の気分だな。


 交互にリゾットを食わせていたがそのうちお腹がいっぱいになったのか両方共せがまなくなった。


「おなかいっぱー」


「ほんとういっぱい」


 そう言ってニコニコしている。


 腹が減ったらいがみ合っても、腹が一杯になれば幸せになれるんだから人間は面白いよな。


 そして宴席はおわって解散になった。


「ばいばーい」


「またねー」


「ばいばーい」


「またねー」


 娘と男の子が別れを惜しむかのように手を振りあっている。


 やがて男の子が家族と一緒に家に入ってしまうと娘はちょっとさみしそうだった。


「まあ、一緒の街に住んでいるんだしすぐまた会えるさ」


 上目遣いで俺に娘は聞いてきた。


「しょかな?」


 それを聞いてリーリスが優しく言う。


「大丈夫よきっと」


 娘はそれを聞いて笑った。


「あいでし」


 そして家族揃って家路についたのだ。


 明日からは畝をおこしたり種まきしたりしないといけないから頑張らんとな。

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