第36話 フルーツは美味しい、菓子は甘い
さて、夏も終わりかけ、雨季になって雨が降る前には木々にぶどう、なつめやし、いちじくなどの果実が実り熟したら食えるようになる,
特にナツメヤシは乾燥していても育ち、沢山実がなるしカロリーも高く、甘くてビタミン豊富なとても有用な植物だ。
木材としても有用で果樹としての栽培は最も古い部類に入るのだな。
このあたりではその他に葡萄とともに暑ければ無花果が、寒ければ林檎がなるのだが、最近ではあまり林檎はこのあたりでは見かけなくなってしまったらしい。
「残念だけど林檎が育つにはちょっと暖かすぎるんだろうな」
俺と一緒に採取に来ているリーリスが頷く。
「たぶんそうなのよね」
娘は首を傾げている。
「りんごー?」
俺は娘に頷く。
「ああ、お前さんに食べさせてやりたかったんだけどな」
「ざんねー」
そう言う娘は言うほど残念そうでもない。
林檎は色々体に良いので食べられないのはちょっと残念なんだが無いものはしょうがない。
それはともかくナツメヤシのオレンジに完熟した実はやわらかくなったものをそのまま食べるか干して食べることが多いが、その味は干しぶどうや干し柿の味を濃厚にしたようなとても甘い味がする。
今年はナツメヤシやブドウ、いちじくは少し多めに採取して干してドライフルーツにしておくか。
果実というのは基本的には痛みやすいのだが、糖度が高いものは干してさらに糖度を上げると砂糖漬けや蜂蜜漬けと同様に腐りにくくなるからな。
採れたての実を絞ってジュースにしても甘くて美味しい。
無花果も意外と甘いがやっぱりナツメヤシのほうが上だな。
俺は娘のためにナツメヤシの実をすりつぶして布でこしてジュースにしてやった。
「ほれ、ジュースにしたから飲んでみろ」
俺は絞ったジュースを炻器のコップに入れて娘に差し出した。
「あーい」
娘はコクリと頷いてコップを受取ると、それに口をつける。
相変わらずコップの周りからダバダバとこぼしてるがまあしゃあないな。
「あまー」
コクコク飲んでいたコップを口から話して笑顔になる娘。
「おう、甘くてうまいだろ」
コクコク頷く娘。
「うまーでし」
うむ、子供が喜ぶ姿を見るのはやはり幸せなことだな。
更に俺は小麦粉に刻んだナツメヤシの実をまぜてよくこねたものにスライスしたアーモンドを加えて四角く固めてパン窯で焼いたものを作る。
これはハルヴァと呼ばれるお菓子でパウンドケーキとヌガーの間のような食感なわけだが21世紀だと甘味には砂糖を使う。
もちろんこの時代にはまだ砂糖はないから、代わりに甘味にナツメヤシを使うわけだ。
ナツメヤシは実だけではなく樹液も甘いのでそっちを使ってもいい。
ナツメヤシのシロップはメープルシロップに近く蜂蜜や砂糖の代用品として古くから甘味を得るために使われているのだ。
「リーリス、ちょっと食べてみてくれ」
ぱくりと食べたリーリスが笑顔になる。
「あら、甘くて美味しいわね」
俺は頷く。
「俺も食べてみたけどまあまあだろ」
もちろん現代のケーキのように半分は砂糖というわけではないから甘さは控えめではあるのだが、この時代では十分に甘い方だと思う。
「お母さんや妹にも食べさせてあげたいわね」
リーリスの言葉に俺は頷く。
「ああ、なんだかんだ世話になってるし、たまにはお返しもしないとな」
娘もなんだか嬉しそう。
「ばあば、ばあば」
俺はハルヴァを作り直してリーリスの実家に向かうことにする。
「こんにちはー」
「お母さん、アキラ焼いたものが、とても美味しいからおすそ分けにきたよ」
「ばあば、ばあば」
そんな感じで俺たちがリーリスの実家に行くと笑顔で迎えてくれた。
「あらあら、いらっしゃい。
悪いわねぇ」
「あ、いらっしゃーい」
そういってリーリスが差し出した亜麻の布で包んだハルヴァの入ったかごを受け取るお義母さん。
そして娘を抱き上げて笑う。
「よくきたわね、ばあばのこと好き?」
「すきー」
お義母さんは孫である娘を特にかわいがっている。
まあ、孫が嫌いなやつはそうそういないよな。
そしてリーリムも聞く。
「わたしは?」
「すきー」
なんだかんだでリーリムにも面倒を見てもらってるからな。
特にお義母さんはいままでに子どもを何人も育てているからあやすのも大得意だし、なんだかんだで育児の手伝いもしてもらってる。
妻の実家に子育てを手伝える家族がいるというのは有り難いものだ。
家の新設も手伝ってもらったしな。
その代わり乳や卵をおすそ分けしてる。
二人で食うには飼ってる家畜や家禽が結構な数になってきたから結構余るのだ。
「いないいないばあば」
「きゃはははは」
うむ”いないいないばあ”と”ばあば”をあわせてるみたいだな。
娘も楽しそうだしなによりだ。
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