第11話 成人なんだから早く結婚しろって? というわけで結婚することになったぜ

 さて、川端の狭い範囲にある豆やごま、亜麻などの畑を除けばエリコの周りに広がる平地は基本牧草地だ。


 このあたりは冬でもめったに雪が降ったり霜が降りたりしない程度に暖かく、夏でも30度を超えない程度には涼しい。


 そして雨は冬に降って夏はほとんど降らないので夏は気候も乾燥している。


 つまりめちゃめちゃ過ごしやすいのだ。


 これは山羊や羊にとってもおなじことなんだな。


「ほれ、草の生えてるところに行くぞ」


 ”んべ~”


 朝方に山羊の夫婦や子ヤギなどを引き連れて町の外の牧草地に連れていき、放し飼いにして牧草をもりもり食わせた後はしばらくほおっておく。


 肉食の獣も昼間は基本寝てるので、山羊や羊が昼間から襲われることはあまりない。


 豆畑の雑草などはある程度伸びてきたら引っこ抜いたり、このあたりでは割りと手に入る天然アスファルトを接着剤に使って、フリント製の石刃を木や骨の柄に取り付けた鎌で刈り取って山羊や羊の餌の牧草にする。


 この時代の農業には施肥もないし水やりなどもない。


 基本的に夏の間は春先の雪解け水の洪水の時に流されてきた土や水を頼りに自然に任せて伸びるのを願うだけだ。


 春に収穫された麦類や豆類、にんにくなどの野菜類はたっぷりあるので食べる物の心配はさほどないんだけどな。


 そんなある日マリアに笑顔とともに告げられた


「所で結婚はいつがよろしいですか?」


 唐突にマリアに告げられた言葉に固まった俺。


「え?結婚?」


 マリアはニコニコしながら続ける。


「ええ、成年した男性が妻帯しないのはおかしいですから。

 あなたは色々生活を便利にしてくださいましたし、ぜひこの街に落ち着いていただきたいのですよ」


 マリアはそう言ってニコニコしている。


 まあ、この時代乳児死亡率は50%ほど在るはずなので、成人した男子が結婚せず独身を貫くなんてことは基本許されないわけだ。


 すべての大人の夫婦が2人以上子どもを成人させられないと人口がどんどん減っていくわけだからな。


 また、干し煉瓦による羊小屋などが出来たことで個人所有の概念も出来上がりつつ在る。


 それはまだ土地や水源にまでは及んでいないので、今のところ文字で記録を行うという文化は成立していないのだけどな。


 また、部落内で延々と近親婚を続けるのは良くないということもすでにわかっているようなので、外部から来た男性を村の婿に迎えるということは普通に行われていたようだ。


「しかし、俺はまだここに来たばかりで、マリア以外のこの街の女性はあんまり知らないんだが」


 やはりマリアは言う。


「あら、其れは当たり前ですわ。

 でもあなたの知っていることをこの集落で子どもをなしてきちんと子供に伝えていってほしいのですよ」


 割と大きな共同生活部落といえど、学校のような教育機関があるわけではないから、親の知識や技術を最優先で教えるのは自分の子供で、代々それを受け継いでいくわけだ。


「ふむ、まあそうかもしれないな。

 相手を紹介してもらってもいいだろうか」


「では、あなたの歓迎に加えて、豊穣の祈りも込めて祭を開きましょう。

酒を飲みながら手をつなぎ踊れば伴侶の見極めもできるのではないでしょうか」


 祭りというのは洋の東西を問わず、異性と積極的に交流出来る場だからな。


 実際西洋での舞踏会はただ踊るだけでなく、貴族の若い娘と息子たちのお見合いを兼ねていたりするのもそういったことの名残らしい。


 勿論、「祭り」とは「祀る」の名詞形であり、本来は神を祀り祈りや捧げ物を捧げることなんだが、この時期には山羊も乳離して乳が出なくなってくる。


 そうすると牡山羊などが増えすぎても冬に困るというのも在るので、神にその肉を捧げるという名目で牡山羊を屠殺してみんなで分け合って食べるという意味合いもあるんだな。


 無論この時はブドウを革袋で自然発酵させたワインも飲める。


 街の中心に在る神殿であるジッグラトに皆で集まり、神への捧げ物としてオスのヤギが祭壇に捧げられた後、屠殺されて神に捧げられた後、それは火で調理されて皆に振る舞われるわけだ。


 皆で大地母神へ祈りを捧げた後、皆で歌を歌いながらの踊りが始る。


「さて、マリアはどんな娘さんを紹介してくれるのかな」


 そんなことを言っていたら一人の女声が俺のもとに来た。


「アキラさんですね。

 私はリーリスと申します。

 一緒に踊っていただけますか?」


「ああ、ありがとう。

 下手くそかもしれないがよろしく頼むな」


 踊り自体はマイム・マイムみたいな割と単純な動きのものだったので助かったぜ。


「うん、君さえ良ければ僕と一緒にすんでくれるかい?」


 と俺はリーリスに言った。


 彼女はちょっと顔を赤らめて言った。


「うん、ありがとう、断られたらどうしようかと思ったわ」


 まあ、結果として俺はここの時代に来てそんなに経たないうちに嫁をもらうことになったわけさ。


 祭りによるリーリスと一夜を共に過ごした俺は早速翌日リーリスの母親に結婚の許可を貰いに行くことにした。


「リーリスのお母さん、リーリスと俺の結婚を許して下さい」


 リーリスのお母さんは優しそうな中年女性だった。


 彼女はニコっと笑っていった。


「当然大歓迎だよ、娘をよろしく頼むよ」


 と言った。


「はい、こちらこそよろしくお願いします」


 こうして俺はリーリスと結婚して一緒に暮らすことになったわけだ。


 この時代は婿に入るのが普通らしいので俺はマリアの家からリーリスの家に移り住むことになった。


「マリア、今まで色々有り難うな」


「いえいえ、異邦人をもてなすのは私に課せられた義務ですから」


 そう言われると少しさみしいが、まあ、これからは新しい家族と一緒の生活になるし、気を入れ替えて行くとしようか。

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