第12話 夏の乾季は日干し煉瓦をつくって家をたてるのに最適な季節
さて、このあたりは6月から9月くらいまではほとんど雨が降らない乾季になる。
秋になり木の実を採取したり、畑のクローバーをすき込んだあとで種まきを始めたりすると、そこそこ忙しくなるのだが、乾季の間は山羊や羊を朝に町の外にに連れていき夕方に家畜小屋に戻したりするとか、たまーに畑の伸びた雑草を刈り取るとか、川の魚や貝を取りに行くとかするくらいでそんなに忙しくはない。
俺は弓でガゼルを狩れるようにはなっていないが、色々作り出す事ができるので、狩猟ができないのは免除されているようだ。
「さて今日はどうしようか?」
俺がリーリスにそう聞く。
「じゃあ、あなた達に子どもができたときに備えて、新しく家を建てようじゃないか」
リーリスのお母さんがそんなことを言いだした。
「そうね、今の状態で子どもが増えたら狭いもんね」
リーリスもそう言う。
まあ俺はウサギ小屋と揶揄される日本の家に住んでいたから狭いとは感じないが彼らにとっては狭いんだろう。
確かにリーリスの家は客人をもてなすために客間があるマリアの家ほどは広くなく、子どもができたらちょっと狭い気はするけどな。
「じゃあみんなで煉瓦をつくるとしようか」
リーリスのお母さんが家造りを仕切るらしい。
うん、お父さんには発言権はないみたいだが、戦争があまりない時代ではやはり母方のほうが権力が強いらしい。
しかし、エリコでも干し煉瓦で長方形の家を作り始めたのはごく最近で、少し前までは縄文時代の日本とおなじように地面に円形の穴を掘ってそれに屋根をつける竪穴式住居だったはずだ。
しかし、穴を掘らなくても土を積み上げていけばいいではないかと言うことに気がつくと、乾いて固まった丸い土を泥を接着剤にしてドーム状に積み上げていったらしい。
しかしそれでは積み重ねるのが大変で崩れることもあり、土の塊を安定して積み上げるには積み上げる土の塊も平らで大きさや形が揃っていたほうが便利なことに気がついた人間がいたようだ。
そして煉瓦ができて、手早く煉瓦を形作るためには、木で作った型枠を使ってそこに材料を入れて型抜きすればよい事に気が付き、その結果として煉瓦は長さと幅と厚みが、ほぼ4対2対1という形に落ち着いてそれは21世紀でもほぼ同じ大きさのまま用いられている。
もちろん角などに使う部分は半分の大きさだったり、四分の一だったりもするわけだが。
「これを考えついたやつは天才だな」
干し煉瓦は粘土を含んだ赤土に石灰粉と砂と藁屑と家畜の糞を混ぜてつくる。
砂は乾燥収縮を押さえるための物、石灰が煉瓦をより固めやすくし、藁屑は煉瓦を積み上げることで横方向に引っ張られたりした時にレンガの亀裂が発生するを防ぐためで、家畜糞は糊のような効果があって加えることで煉瓦を硬くする事ができる。
干し煉瓦は見た目以上に丈夫でよほどの大雨でも有って水に浸かってしまったりしない限りは崩れたりもしない。
そして、この時代の煉瓦がエリコを中心として広まったのは小麦の栽培と山羊や羊の牧畜とも深い関係があるわけだ。
赤土と砂だけだと強度や耐候性が十分ではなかったようだが、それに麦の藁屑と家畜の糞が含まれたことで冬場に雨が降っても崩れなくなるわけだ。
「はいはい、無駄口をたたいていないで、どんどん作りなさい」
リーリスに怒られたので真面目に作ろう。
「うお、すまん、まじめにやるよ」
「はい、それでよろしい」
赤土に石灰粉と砂と藁屑と家畜の糞を混ぜて水を加えて練り、粘土状になったらそれを木枠に入れて四角く整形し、木枠からはずして地面において2~3日ほど天日で乾燥させれば、日干しレンガができあがる。
乾燥させているときは、途中で一度レンガをひっくり返して表裏を均等に乾燥させるのがポイントだな。
そして煉瓦が干し上がったらそれを組み合わせて泥を接着剤として煉瓦を家の形に積み上げていく。
煉瓦を階段状に積み上げていくことでその煉瓦そのものを足場にするわけだ。
まずは外壁から作っていき、窓の部分は木枠を入れ、外壁ができたら中の壁も作っていく。
彼らは手慣れているのであっという間に家が形となって組み上がっているのは凄い。
「凄いなあっという間にできちまった」
俺の言葉にリーリスが言う。
「まあ、家を作るためにそんなに時間もかけていられないしね」
「まあ、それもそうか」
家というのは人間が外敵から身を守るための手段でもある。
それをノロノロやっていたのではいつ外敵に襲われるかわからないから、可能な限り早く作り上げられないと生存も困難になってしまう。
家をたてるのに半年とか一年もかけられるのは余裕があるからってことだな。
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