第3話 この時期にはいまだバターやチーズはないらしいから作ってみようじゃないか

 さて、俺は山羊の乳搾りを手伝って、それなりの大きさの革袋4つほどにヤギの乳がいっぱいになった。


 しかし土器か木桶が欲しいものだ。


 石器は磨製石器は在るみたいなんだけどな。


「どちらにしても一人で絞るのは革の袋しか無いと無理だな」


 俺がそう言うと村長の女性は頷いた。


「ええ、ですので二人一組でやるのです。

 本来は女性の仕事なのですが狩りができないということですので、当面はこちらを手伝って下さい」


「ああ、了解だ」


 どっちにしろ運動不足の今の俺にまともに走ったり出来るとも思えんな。


 学生の頃は昼休みにサッカーをやったり、バレーをやったり、バスケをやったりしてたんでそれなりに筋肉はあったんだがな……。


 さて、動物の乳というのは完全食品の一つで、其れだけを摂取していても生きていけるくらい栄養に優れている。


 しかも、山羊乳は、人間の母乳に近く消化吸収が早いので乳児や牛乳でお腹を下す人間がのんでも大丈夫で、マグネシウム、カリウム、タウリンの含有量が多く、アレルギーが起こりにくいうえに体内で燃焼されやすい中鎖脂肪酸が多く含まれているので脂肪の燃焼効率も良くなるらしい。


 しかも山羊は羊や牛馬に比べてたいへんおとなしい。


「なんと素晴らしい動物なんだろうな」


「はい、この子達のおかげで助かっています」


 ヤギ乳を飲んでみると、なんとなく草の香りがする、でもヤギ乳はサラッとしていておいしい。


 意外と出る乳の量は多くて一頭で2リットル位は出るようなきがする。


 まあ、子ヤギが3匹ほど居るからそいつらに飲ませるためになのだろう。


 冬の出産の時期は子ヤギがある程度飲んでからあまり分を絞らせてもらうわけだ。


 子が乳離れする2ヶ月をすぎると乳の量は激減するが食料を得るのが厳しい冬の時期に栄養が豊富な乳を取らせてくれる山羊はとてもありがたい。


 ”ベェー”


 ”ベェー”


 ”ベェー”


 山羊は集団で生活する生物なので子ヤギが寂しくて鳴いているようだ。


「すまんな、さあ子供に乳をやってくれ」


 母山羊はてこてこ子ヤギのもとに向かうと乳を与え始めた。


 しかし子ヤギは3頭いるが山羊の乳首は2つしか無いので一頭はおあずけだ。


「うーん、かわいそうだけどどうにもならんよな」


「はい、どうにもなりませんね」


 最初の二頭が乳を飲み終わるともう一頭もようやく乳が飲めたのでホッとした。


「みんな無事に育つといいな」


「ええ、でもなかなかそうは行かないのです」


 生まれた後、子ヤギがうまく乳を吸えずに死んでしまうことも珍しくないのだそうだ。


「そうなのか……」


 さて乳は優れた食品だが欠点もある。


 その一つは腐りやすいということだ。


「乳って結構余るのか?」


「そうですね、余った分はヤシ酒とあわせて乳酒にしたりしますけど、うまく行かなければ腐ってしまうので捨てるしか無いですね」


 どうやらヨーグルトやバター、チーズと言った保存がききやすい乳製品はないらしい。


「そうか、よかったら余った乳を保存しやすいように出来るかもしれないから試させてもらえないか?」


「ええ、そういったことが出来るなら助かります」


 余ったヤギ乳の入った革袋をもらった。


 そして 早速俺はようつべで原始的なチーズの作り方を調べて実行に移す。


 まずは室内の暖かい場所にぶら下げて放置して乳が酸っぱくなるのを待つ。


「ん、こんな感じだな」


 乳が酸っぱくなるのは乳の中に元から含まれている乳酸菌のせいなので、その状態であれば腐敗しているわけではない、これがいわゆるヨーグルトだ。


 ただ、温度や乳の中の糖分変化でヨーグルトは腐敗してしまうのでもう一手間かけないといけない。


 三本の木の枝で三角錐を作ってその上を亜麻の紐で縛って革袋を吊るしブランコのように揺らすことでまずバターとヨーグルトに分離させる。


 そしてバターは別の革袋に詰め替えて塩を混ぜれば、常温でも結構持つ。


 気温が低い冬ならそんなに溶けることもないしな。


 それから乳が飲めなくて死んでしまった子ヤギの胃をもらって其れに革袋の中でバターから分離したヨーグルトを入れる。


 反芻動物の子供の胃には乳を凝固させる酵素が在るので其れを使うのだ。


 しばらくすれば、モツァレラチーズのようにヨーグルトが固まるので、亜麻の布で包んで乳清を濾過すれば固形のチーズが出来る。


 乳清は人間が飲んでもいいし、山羊に飲ませてもいい。


 案外栄養豊富だからな。


 そして出来たものを長の女性へ持っていく。


「ヤギ乳を固めてみたがどうだ?」


 長はバターを舐めてみたあとチーズを食べた。


 そして表情を輝かせる。


「これは、いいですね、ぜひこれの作り方を広めてください」


 俺は当然頷いた。


「了解、多少でも役に立ててよかったぜ」


 乳が取れない期間もあるし、余ったって腐らせるのはもったいないからな。


 余った乳がちょっとでも長持ちするなら其れに越したことはないよな。

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