第28話

「……好き?」

柊水が言った言葉をうまく理解できず、自身の口でも呟く火織。

ちらりと柊水を見れば、耳が真っ赤だった。

柊水が火織に好意があるなんて、ちっとも考えていなかった。


「う、うそ……」

「嘘なんかじゃ、ありません」

そう言って火織を見つめる柊水の青い瞳は真剣だ。

「その、いつから……?」

火織はおずおずと尋ねる。

「……食事も睡眠も削って儀式をし、倒れてしまった日です」

柊水はそっと目を伏せてそう答えた。


あの頃の柊水はいつも顔色が悪く、そして悲壮感がヒシヒシと火織にも伝わっていた。


「あの時、火織さんが、焦って周りが見えなくなって……迷子になっていた私の手を取り、導いてくれました」

柊水は優しく冷えきった火織の手を包みこむ。


「太陽のような火織さんが、とても素敵で……手離し難く、ずっとそばにいて欲しいと想いました」

「そう、だったんですね」

火織の中でごちゃごちゃと荒れていた感情の波が、ようやく落ち着いた。


「火織さん。もう一度言います。あなたのことが好きです。これからも、私のそばにいてくれませんか?」

柊水は火織と目線を合わせてそう言う。

火織は、絞り出すように答えた。

「そばに、いたいです」

柊水がふんわりと笑った。

その笑顔を見て、火織の心の中は、花が咲いたような気持ちになった。


雨にずぶ濡れになった2人は、空に頼んでお風呂を用意してもらった。


ゆっくりお風呂で体を綺麗にして温まった火織は、居間でまったりしていた。


「あの、火織さん。今、いいですか?」

柊水がひょこっと顔を覗かせていた。

「どうされましたか?」

「その……コレを渡したくて」

首を傾げる火織にススッと近寄る柊水。

おずおずと何かを差し出した。

「簪……ですか?」

「はい。翠に頼んで買ってきてもらった簪の中でコレが一番、火織さんにぜひとも身につけてもらいたいと思った簪なんです」

柊水が渡してくれた簪は、白梅に赤色の折り鶴の飾りがついた簪だ。

火織は思わず笑顔になる。

「素敵な簪ですね。それに、赤と白で何だかおめでたいですし」

「気に入ってくれたなら、良かったです」


ふと、火織は気になったことを柊水に聞いてみた。

「柊水様、何であんなに大量の着物や簪を翠さんに頼んだのですか?」

別にあんなに大量である必要はないように思えた。

すると、柊水はじわじわと頬を赤らめた。

「その……悔しくて」

火織はきょとんとした。

「悔しい?」

「はい……炎月が、火織さんによく似合う素敵な着物を贈ってきたから、悔しいなぁと思って。それで、炎月よりもっと良いものを贈りたいってなったら、あんな量に……」

柊水のその言葉を聞いて、火織は胸がきゅうっと愛しさでいっぱいになった。

「嬉しいです。この簪……それと柊水様が私を想って用意してくれた贈り物全て、大事にしますね」

白梅と赤い折り鶴の簪にそっと火織は触れる。

この簪を見れば、いつだって元気に、そして幸せな気持ちになれる気がした。

気がついたら、激しく降っていた雨も少し弱まっていた。

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