第24話

火織、柊水、空の三人が居間でお茶を飲んでいた時だった。


トントンッと扉を叩く音、そして「お届け物ですー!」の声。

空と柊水がハッとした顔になった。

空が真っ先に玄関へと向かう。


「本当に小雨になってますね!品物が水浸しになるかもっていうヒヤヒヤとようやくおさらばです!」

年若い少年の声が屋敷内に響いた。

気になって空と柊水の後をついてきた火織は玄関を覗く。


大きな荷物を背負っている少年は被っていた雨粒のついた笠を取る。

黒髪に翡翠色の瞳。神の代行者特有の入墨のような模様は見当たらない。


(一般人……?でも、空さんと柊水様の知り合いみたいだけど……)


火織がじっと少年を見ていると目が合った。


「あ、もしかして火織さん……ですか?」

「え、何で私の名前を……」

火織が驚くと、柊水が説明してくれた。

「彼は翠。空と同じ狛犬です。我々、神の代行者専用の運び屋なんです」

「はじめまして、翠と申します!火織さんのことは炎月様から聞いたんです!それにしても、炎月様が言ってた通り、柊水様、顔色が随分良くなりましたねー!」

柊水は苦笑いをした。


居間に案内された翠は背負っていた荷物を畳の上に広げた。


「えっと……これは柊水様宛ての手紙です。この箱は、火の神の代行者様……炎月様から柊水様と火織さんに、と。これは豊穣の神の代行者様からので〜……」

机に積み上げられていく荷物達。

柊水は炎月からの贈り物が入っている箱を開けた。

「わ、すごい……素敵な着物」

火織が思わずそう呟く。

海色の着物と椿色の着物が箱の中には入っていた。

「そう言えば炎月様、お二人に似合う着物を今度贈るって言ってましたね」

空も箱の中を覗き込んでそう言った。

(この着物を着るの楽しみだなぁ……)

火織は着物を着る日に想いを馳せた。


翠から渡された手紙を読んでいた柊水が「あっ」と声を上げる。

「忘れる所でした。空、私の部屋に置いてあるあの箱を持ってきてくれませんか?」

「あぁ、アレですね。わかりました。すぐに持ってきます!」

空がパタパタと廊下を駆けていく。

火織は首を傾げた。

(何のことなんだろう……?)


しばらくすると、空が平たい箱一つと、立方体の箱を一つ持ってきた。

「わー!もうアレ完成したんですか?さすが柊水様〜!仕事が早いですね!」

翠が嬉しそうな顔をする。

「確認お願いします」

柊水はまず、平たい箱の方を開けた。

箱の中の物を見て火織は目を丸くした。

「これって……!」


箱の中に並んでいたのは、青色を基調としたお守りだった。

火織が里に住んでいた頃、年始になると里長がこのお守りを住民に配っていたのだ。

「お守り……柊水様が一つ一つ作っていたのですか?」

「えぇ、そうです」

柊水が作るお守りはとても美しい。

去年のお守りには白梅の刺繍。今、目の前にあるお守りには水仙の刺繍がされている。

「私、毎年このお守りを貰えるの楽しみだったんです。今回の水仙の刺繍もとても綺麗……」

火織がお守りをうっとりとした表情で見ながらそう言えば、柊水は照れた表情をした。

「火織さんにその様に言って頂けて、とても嬉しいです」


翠は珍しい物でも見るように柊水のことを見ていた。

「柊水様のあんな表情……初めて見ました」

翠のその呟きに、側にいた空が「火織さんのおかげです」と答えた。


お守りの確認が終わると、柊水はもう一つの立方体の箱の蓋を開けた。

その箱の中身を覗いた火織は息を呑んだ。

箱の中には美しい鞠が入っていた。


翠も「素晴らしいですね……」と呟いた。

「この鞠は、何なのですか?」

火織が尋ねると翠が答えてくれた。

「あるお偉方の御息女が産まれた記念品です。これなら満足して頂けるでしょう」

翠が鞠をまじまじと眺めながらそう言えば、柊水はホッとした顔になった。

翠はお守りと鞠が入っている箱を受け取り、柊水に代金を払った。

そこで柊水は立ち上がり、「相談したいことがあるから、部屋に来て欲しい」と翠と共に居間を後にした。

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