第23話

いつも通りの日だった。


日の出前に起きて、空と一緒に屋敷付近に邪の者がいないか確かめた。

朝食の時間まで軽く仮眠して、空と柊水、三人で朝食を食べて、柊水は儀式を行うために神殿に向かうのを見送った。

午前中は空と一緒に家事をし、昼食を食べた後は、自室で神の代行者に関する資料を読んでいた。

夕食を食べた後は、三人で術の練習をして、そして就寝……。




さぁ……っと小雨が降る音が聞こえる。

深夜、火織の両目は開いていた。


「寝れない……」


何か不安なことがあるわけではない。何か嫌な出来事があったわけではない。


しかし、何故か今日はちっとも眠くない。

いつまでたっても、睡魔はやってこない。


ぼんやりと天井を眺めていた火織は、外の空気を吸いに起き上がった。


廊下に出た火織は、居間の襖が開いていることに気がついた。

就寝する時に、空がしっかりと襖や障子を閉じていたのを火織は見ている。

不審に思い、火織は開いている襖の隙間からそっと居間の様子を見た。


人がいた。

障子を開け放ち、射し込む月光に照らされていたのは、柊水だ。

静かに雨が降る庭の様子を見ていた。


「柊水、様……?」

火織が名前を呼ぶと、柊水はこちらを振り返った。

「火織さん……!どうしたんですか?」

「その、何だか寝れなくて……柊水様も、眠れないんですか?」

火織がそう聞くと、柊水は苦笑しながら頷いた。

「つい……寝る前に儀式のことを考えてしまって」

「儀式のこと?」

「えぇ、もっとこうしたらいいかな、とか……術を使う時に、こういうことを意識した方がいいのでは、とか。後は……朝、目が覚めたら、小雨から大雨になってしまわないか……とか。考え出したら眠れなくなってしまって」

柊水はそう言って庭を見た。

しとしとと小雨が濡らす庭。

火織は、そっと柊水の隣に座った。


火織も静かに月光に照らされる庭を眺めた。

そんな時だった。


「あの、火織さん。その……お好きな色って、何ですか?」

柊水が突然そう聞いてきた。

「え、好きな色ですか?えっと……赤、ですかね。柊水様、どうしてこのような質問を?」

火織がそう尋ねると、柊水は少し照れ笑いをした。

「火織さんのことを、もっと知りたいな……と思いまして……」

柊水のその言葉に、火織は顔が熱くなるのを感じた。

「わ、私も柊水様のこと、もっと知りたいと思ってます……!あの、眠たくなるまでお喋りしても、いいですか?」

火織がそう言えば、柊水は頷いた。



「あの、柊水様。柊水様の一番好きな色は何ですか?」

「青系の色ですね。特に紺色が好きです」

「そうなんですね……!そう言えば、柊水様って紺色の着物が多いですよね。好きな色だからですか?」

「そうです……つい、紺色の着物を選んでしまうんですよ」

「ふふ、わかります。私も里にいた頃は、赤系の色の着物を選びがちでした」

二人はくすくすと笑う。

密やかな笑い声が、夜の闇に溶けていった。

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