第21話

「俺、そろそろ帰るわ」

最近の出来事をお互い話し終わると、炎月は立ち上がってそう言った。


「いくら近いとは言え、暗くなると危険ですしね」

柊水も炎月を見送るために立ち上がる。

空と火織も柊水の後ろをついていった。


玄関前で傘を広げた炎月はため息をついた。

「はぁ……帰りたくねぇ。ね、火織ちゃん俺と一緒にこない?」

「えっ……!?」

いきなり炎月からそう言われて素っ頓狂な声を出す火織。

空と柊水も目を見開いた。

「だってさぁ、火織ちゃん霊力めっちゃ高いし、術の使い方上手いし可愛いし!同じ火属性を得意とする者だから、何だか安心感めっちゃあるし〜!」

炎月はそう言って火織の手を取った。

「それに、俺の所に来たらもっと良い着物とか用意するよ!もちろん、簪とか櫛もね。火織ちゃん可愛いから、磨いたらもっと綺麗になるよ!」

まさか、うっかり炎月の前で術を披露したら熱心に誘われるとは……火織は困ってしまう。

少年のようなキラキラした瞳、そして炎月は火の神の代行者。ズバッと断れない要素が火織の前に立ちはだかる。

そんな困る火織の肩に手を置いたのは、柊水だった。

「あの、炎月。先程も言った通り、火織さんがいなくなってしまうと、私、困るのです」

「じゃあ、柊水も一緒にくる?柊水に似合いそうな着物を、ちょっと前に貰ったんだよ!お前も中々の美男子だし、磨いたらもっと良くなるぞぉ絶対に!」

「無理です。小雨とは言え、まだ雨が降り続けているこの地をほったらかしにするわけにはいきませんから」

柊水がそう言ったので、火織もすかさず自分の気持ちを炎月に伝える。

「炎月さん!お誘いいただきありがとうございます。でも私、ここで柊水様と一緒に雨が降り続ける原因を探して、解決して、一緒に青空を見るって決めているので……!」

二人の言葉を聞いた炎月は笑った。

「そっかぁ!いやぁ〜二人とも何か似てるな」

炎月がそう言うので、火織と柊水はお互いを思わず見てしまう。


「あ〜何だかわかります。柊水様も火織さんも、誠実なんですよね」

空がそう言うと、炎月は「そうそう!」と大きく頷く。

「そうですか?何だか照れますね……憧れている火織さんと似ているだなんて」

柊水のその言葉を聞いた瞬間、火織は一瞬で体中が熱くなった。

「あれ、火織さん、耳が真っ赤……」

隣にいた空がそう口にした瞬間、火織はバッと両手で耳を隠した。

「き、気のせいですよ!」




「火織ちゃん、柊水と一緒にいるのが嫌になったらいつでも俺の所に来いよ~!あ、柊水もたまには来いよ!俺、全力でおもてなしするからさ!あ、二人に似合いそうな着物を今度送るよ!柊水、手紙また書いてくれよー!」

「えぇ、わかりました!炎月、気をつけて帰ってくださいね」

炎月の姿が見えなくなるまで3人は、見送った。


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