第20話

炎月が神の代行者だと知って、慌てて頭を下げる火織。

しかし、炎月は「あーいいよ!堅苦しいのって苦手だから俺!頭上げて火織ちゃん!!」と言うので、火織はおずおずと頭を上げた。

「あ、呼び方……炎月様って呼んだ方が……?」

「いや、さっきまでと同じ様に炎月さんでいいよ!何なら呼び捨てでも大丈夫!!」

「呼び捨ては流石に……では、炎月さんで」

火織がそう言えば、炎月はニッと笑った。何だか火織もつられて笑ってしまう。

少年の様な、無邪気な笑い方をする人だなと、火織は思った。


「そーだ、柊水!雨、小雨になってんじゃん!良かったなぁ!」

「えぇ……火織さんが、一生懸命に原因を探して、私達と一緒に解決しようとしてくれたおかげです」

柊水が優しい表情で火織を見るので、火織は照れた。

そこでポンッと炎月が手を叩いた。

「そうそう!俺も雨が降り続ける原因をずーっと何かなぁって考えててさ、思い出したことがあったんだよ!」

炎月がそう言うと、柊水は前のめりになる。

「え、何ですか?」

「当たり前すぎることなんだけど、ずばり……健康!!」

「……健康」

柊水は小さな声でそう呟く。

「俺さぁ、思ったんだよね。柊水っていつ会っても、顔色悪いし、俺がぎゅーって抱きしめるだけで折れそうな細い身体してるし……。儀式をするには体力必須!術を完璧に使うには健康が大事!3食しっかり食べて、睡眠時間は7時間!」

炎月がそう言うと、空と火織はじっと柊水の方を見た。

二人の視線に気づいた柊水は気まずいのか、そっとあさっての方向を見る。


「以前の柊水様……全然食事してませんでしたよね?」

「はい……一日一食。それも少ししか口にしてませんでした……」

火織と空はひそひそと会話する。

それを聞いた炎月は目を丸くする。

「一日一食!?それも少しだけ?そんなんじゃ倒れるぞ、柊水!」

「ちょっと前に儀式の最中に倒れました……」

柊水は冷や汗を垂らしながらそう呟く。

「しゅーすいーーーっ!!!」

「た、倒れてからは、ちゃんと食事してます!ちゃんと寝てます!だ、だからそんな怖い顔で迫らないでください炎月!!」

しばらく柊水は炎月からお説教された……。



「あ、そうだ。柊水に聞きたいことがあるんだった。すっかり忘れるとこだったー」

健康でいることがいかに大事か語り尽くした炎月は、ふとそう言った。

「何ですか、聞きたいことって?」

「ほら、前に手紙で俺の里に移住させたい子がいるとかどうとか……結局、大丈夫ーっとか言ってたけど、本当に大丈夫なのか?」

「えぇ、大丈夫です。というか……私達の元から火織さんが去ってしまうと、色々困るので……。」

「あ、手紙で言ってた子って火織ちゃんのことだったんだ!なるほどなぁ」


その話を聞いて、柊水が提案していた、別の里に移住というのは、炎月のいる里のことだったのかと知った。

そして同時に、柊水の言葉……火織のことをとても必要としているのを知って、火織の心は嬉しい気持ちでいっぱいになった。

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