第19話
空の熱も無事に引き、火織達はいつも通りの生活を送っていた。
雨も、大雨になることはなく、小雨の日が続いている。
柊水の心理的不安も少し軽減したようで、火織が初めて出会った頃より、表情が明るい日が増えている。
ある日、火織が自室で書物を読んでいた時だった。
ガタッと障子を引く音が聞こえた。
空かな、と火織が思った瞬間……。
「空くーん、いるぅー?」
知らない男性の声が、屋敷内に響いた。
火織が慌てて部屋を出ると、縁側から居間へと侵入しようとする男がいた。
「ま、待ってください!誰ですか、貴方!」
火織がそう尋ねると、男は火織を見てニカッと笑った。
「俺、炎月!柊水の友達!」
「しゅ、柊水様の、友達……?」
火織が困惑していると、バタバタと誰かが走ってくる音が聞こえる。
姿を現したのは、空だった。
「炎月様!急にどうしたんですか?」
「お〜!空くん!柊水と空くんに会いたくなったから来た!あ、これお土産ね!」
「わわ、お土産ありがとうございます!あ、居間へどうぞ!お茶の準備しますね!」
空の様子を見る限り、本当に柊水の友達らしい。
炎月は座布団に座ると、手持ち無沙汰にしている火織の方を見た。
「それで、君は誰?」
「あ、えっと、火織と言います」
「へ〜火織ちゃんね。で、何?柊水の新しいお手伝いさん的な?」
炎月にそう問われ、火織は答えに詰まった。
(そう言えば、私って何なんだろう……?柊水様の花嫁としてここに来たけど、柊水様は、花嫁を望んでいなくて……お手伝いさんは違うような……)
悩んだ末に出した答えは……
「い、居候……?」
「居候?何だって、こんな所に住んでるの?」
「火織さんには、雨が降り続ける原因を探してもらっているんです」
そう答えたのは、お盆にお茶を乗せた空だ。
「へぇ!雨が降り続ける原因を探してくれてるんだ!あ、もしかして小雨になってるのも、火織ちゃんのおかげ!?」
「私のおかげと言うか……柊水様が、霊力を使い過ぎてるから、使い過ぎないように術を使う練習を一緒にしているだけです。私は、お手伝いしているだけで、頑張っているのは柊水様です」
火織がそう言うと、隣に座っていた空が「火織さんは、凄いんですよ!邪の者退治が驚くほど速くて〜……」と何やら炎月に説明し出す。
すると、ガタッと襖が開き、柊水が顔を出した。
「炎月!お久しぶりです」
「柊水っ!久しぶりー!!」
炎月はガバッと柊水に抱きつく。
「!?柊水、ちょっと肉づき良くなった!?あ、よく見たら顔色が良い!肌つや良い!何?何があったの?あ、火織ちゃんのおかげかぁ!」
「ちょ、炎月……そんなにぎゅうぎゅう抱きしめないでください……く、苦しいです……」
火織は二人のその様子を見て、柊水と炎月は友達……というか、親友なのだと知った。
「あの、空さん。炎月さんってどういった方なんですか?」
火織は、コソッと空に聞いてみた。
「あぁ、炎月様は火の神の代行者です。柊水様より二年前に代行者になった方で、先輩のような方です。近くに住んでいるのもあって、何かと我々を気にかけてくれているんですよ」
火織はぽかんとした。
「火の神の……代行者……」
ハッと火織は炎月の方を見た。
黒髪に黒い瞳……そして、両頬に炎のような模様の刺青。
神の代行者は、体のどこかに刺青がある。
「神の代行者様だったとは……!すみません!!ちゃんと挨拶もしないで……」
火織は、慌てて頭を下げた。
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