第18話
夜、夕食を食べ終わった後は、柊水の霊力を使いすぎないように術を使う練習の時間だ。
いつもなら、空も含めた三人でやるのだが、まだ空の熱が完全に引いたわけではないため、今日は火織と柊水の二人だけだ。
「炎よ、猫の姿になれ」
火織がそう唱えると、手のひらの上の炎が猫の姿に変える。今回は、手のひらに収まる小さくて可愛らしい炎の猫だ。
「水よ、猫の姿になれ」
柊水も火織と同じように唱える。柊水の手の上に現れた水の玉は、猫の姿に変えるのだが……。
「うーん……」
柊水は何とも言えない顔をした。
柊水が水で作り出した猫は、片耳が長く、片耳が丸耳。
何だか不格好な猫になってしまった。
「また不格好な猫になってしまいました……」
「でも、手のひらに収まる大きさにすることが出来ましたよ!それに、この猫も耳以外は完璧です!!」
火織はそう褒めて、柊水が作り出した猫を撫でる。
水で出来ているため、触るとひんやりとしていた。
水の猫は、そのうち火織にじゃれる。
柊水はその様子を見て、少し笑った。
「火織さんは、凄いですね。大きさも自由自在だし、何でも作り出せてしまう」
柊水がそう呟くと、火織は慌てて首を横に降った。
「さすがに何でもは無理ですよ!自分がちゃんと見たことあるものしか作り出せませんし、見たことがあっても、どうにも作れないものもあります……」
火織がそう言うと、柊水は目を見開いた。
「え、どうにも作れないものって……一体何ですか?」
「……虫です」
「あぁ、なるほど……。虫全般が、苦手なのですか?」
「蝶は、大丈夫です。蛾は、ちょっと無理……。ムカデみたいな脚がいっぱいあるのは、もう無理です!でも、一番は……」
「一番は?」
「幼虫とか、毛虫の類いですっ……!あれはもう……見つけちゃったら、叫ばずにはいられない……」
火織は青ざめた表情をしていた。
「じゃあ、もし屋敷内とかで見つけたら、私か空を呼んでくださいね。火織さんの視界に映らない場所に虫を移動させるなり、何なりしますので」
柊水がそう言うと、火織はコクコクと頷いた。
「その時は、お願いします……っ!」
ふと、柊水は火織のことについてもう少し知りたいと思った。
この間、煎がやって来た時に、火織のことは、既に大事な仲間だと思っていると言ったが、火織について知っていることなどほとんどないことに気がついた。
「火織さんの、好きな動物は何ですか?」
「好きな動物ですか?うーん、犬も猫も鳥も好きですねぇ。あ、金魚も好きですし、鯉も好きです!昔、池にいた鯉を一日中眺めてたことがあります」
そう話す火織は楽しそうだった。
「炎よ、金魚の姿になれ」
火織は炎で金魚を作り出した。
炎の金魚はふわふわ、ゆらゆらと火織や柊水の前を泳いでいた。
炎の金魚を見て、柊水はあるものを思い付いた。
「水よ、金魚鉢になれ」
柊水は水で金魚鉢を作り出した。
炎の金魚は、柊水が作り出した金魚鉢の中へと入った。
「わぁ、素敵ですね!」
火織は金魚と同じ、紅の瞳をきらきらさせて、金魚鉢の中でゆったり動く炎の金魚を眺めていた。
火織のその様子を見ていた柊水は、自然と口角が上がっていた。
そんな時だった。
柊水が作り出した水の金魚鉢が、ぐらぐらと形が不安定になり、ついに……
ぱしゃんっ
「あっ」
金魚鉢の中にいた炎の金魚は、水によって消されてしまった。
「すみません、火織さん……金魚が……」
「大丈夫ですよ!また、練習しましょう!あ、畳や机がちょっと濡れちゃいましたね。私、拭くもの持ってきます!」
火織はそう言って、ぱたぱたと急ぎ足で部屋を出ていった。
火織と一緒にいると、心が暖かくなり、自然と笑えるのことに、柊水は気が付き始めた。
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