第17話
「空さん、体調はどうですか?」
昼食を食べ終えた火織は空の様子を見に来た。
狛犬姿の空は、のそりと顔を上げた。
「んー……だるいですねぇ……」
「お水、持ってきたんですが、飲みますか?」
「頂きたいです……」
ゆっくり水を飲んでいる空と火織は目が合う。
「火織さんも顔が赤い……?まさか、熱?」
「顔が赤いのは、気のせいですよ!お気になさらず!!」
火織は隠すように頬に手をあてた。
家事をした後は、いつも通り火織は自室で神の代行者についての資料を読んでいた。
ざあざあと外では激しく雨が降っているのがわかる。
ざあざあ、ざあざあ、ざあざあ……
さあっ
火織はハッと顔を上げた。
「雨の音が……」
さあっ……と先ほどより、軽い音になっている。
火織は部屋を飛び出し、外に出る。
ついさっきまで、全てを叩きつけるように激しく降っていた雨。
今は……
「小雨に、なってる……!」
火織は傘も用意せずに、柊水のいる神殿の方へ走って行った。
神殿の入り口に、柊水は立っていた。
「柊水様!!」
「か、火織さんっ!雨が……!」
「小雨になりました!!」
「幻でも、私の気のせいでもなく……本当に小雨になったんですねっ……!!」
柊水の青い瞳がキラキラと輝いていた。
「すごいです、柊水様!」
火織がそう言うと、柊水は火織に向かって深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。火織さん」
「え、ちょっと柊水様っ顔を上げてください!」
顔を上げた柊水は真剣な眼差しで火織を見た。
「火織さんに言われて、自分がどう雨を、水を操りたいのか考えながら儀式を行えるようになりました。それに、霊力を使い過ぎないように毎日、一緒に練習してくれて……本当にありがとうございます」
「柊水様……」
火織もキリッとした表情になった。
「柊水様、これからも一緒に頑張りましょう!雨が止んで、青空を一緒に見る日が楽しみですね!」
2人は、灰色の雲の向こうに隠された青空に想いを馳せた。
「あれ、火織さん傘も持たずにここに来たのですか?」
柊水が、火織の髪や着物が少し濡れていることに気がつく。
「あ、早く柊水様に会いたくて……ちょこっと濡れただけですから、大丈夫ですよ!」
「ちょっと待っててください。確か何枚か手拭いとかあったはずなので……」
「え、そんな、お気になさらず!!」
しかし、柊水はもう既に走って行ってしまった。
しばらくすると、手拭いと傘を持ってきた。
「いくつか傘を置いてあるので、これを使ってください」
「わざわざありがとうございます」
渡された傘を受けとると、柊水は火織の髪についた水滴を、持っていた手拭いでそっと拭いた。
急に柊水との距離が近くなり、火織は緊張してしまう。
出会った頃は、顔色があまりよくなかったが、ここ最近はちゃんと食事をし、十分な睡眠をしているので、随分顔色がよくなっている。
それに、瞳も変わった。
全てを諦め、暗い闇に沈み込んだ瞳は、もうどこにもない……。
「あ、あの、大丈夫です!後は自分で拭きますから!」
火織がそう言うと、柊水はハッとした表情をする。
「す、すみません……。気安く女性に触れたりしてしまって」
「あ、いやその……そこまで気にしてませんし、柊水様なら嫌じゃないんですけど、ちょっと恥ずかしいと言うか……?」
色々言っている内に、火織自身もよくわからなくなってしまい、わたわたしてしまう。
柊水は静かに微笑んだ。
「火織さんは、先に帰っていてください。私はまだ儀式を続けますので……。屋敷に戻る際は、足元に気をつけてくださいね。さっきまで激しい雨が降っていたので、地面が滑りやすくなってますし、水溜りもありますから」
柊水は持っていた手拭いを火織に渡すと、神殿の中へと戻って行った。
火織が屋敷に戻ると、縁側に空がいるのを見つけた。
「空さん!起きていても大丈夫ですか?」
「あぁ、火織さん。大丈夫ですよ、ちょっとだるいだけです。雨が、小雨になりましたね」
空は、じいっと庭を見ていた。
さっきまで、全ての葉を叩き落とそうとするように激しく降っていた雨。
今は、葉を優しく弾いている。
「青空が見れる日が、近づいてきてますね」
空の言葉に火織は頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます