第16話
早朝。日課である屋敷付近の邪の者がいないかの見回りのため、火織は身支度をすませ、傘を持って外に出た。
「今日も雨……」
火織はそう呟いた。
それにしても……
「空さんがまだ来てない……?」
珍しいと思った。いつも火織より先に準備を済ませて、外で待っているのに、今日はまだ来ていない。
それに、玄関にはいつも空が使っている傘がまだあった。まだ屋敷内にいる。
「まだ寝てるのかな……」
昨日は、煎が突然やって来て、空は煎から殴られたりしているし、直接雨に当たってびしょ濡れだった。疲れがたまってもおかしくはない。
「先に見回りをしよう」
火織は一人で屋敷付近の見回りをすることにした。
火織が一人で屋敷付近を歩くのは何気に初めてだった。
辺りの景色も初めてゆっくり眺める。
「これ、桜の木かな……?柊水様や空さんと一緒にお花見できたら楽しいだろうな」
皆でお花見をすることを想像したら、自然と口角が上がった。
屋敷付近を一周し、邪の者がいないことを確認できた。
火織は屋敷に戻り、玄関の傘立てを見れば、空が使う傘は相変わらずそこにあった。水滴も付いてないから、使っていないのもわかる。
「空さん、かなり疲れているのかな……?」
火織は少し心配になり、空の様子を見に行くことにした。
「疲れて熟睡しているだけならいいけど……」
空の部屋へと向かう火織。
曲がり角を曲がり、廊下に何かあるのに気がつく。
白い毛の塊……
「空さん!?」
火織が慌て近づき、よく見れば、狛犬姿になっている空であった。
「あ、火織さん……ごめんなさい。体がだるくて……起きるのが遅くなって……」
「ちょ、ちょっと待っててください!」
火織は慌て柊水を呼びに行く。
「風邪ですね……たぶん、昨日の雨が原因でしょう……」
柊水は空の様子を見るとそう言った。
「どうしましょう……空さんって人間じゃなくて狛犬だから……人間の薬って効くんですか?」
火織はどうしていいのかわからず、慌てている。
「ちゃんと狛犬専用の常備薬がありますので、大丈夫ですよ」
柊水はそう言って、テキパキと薬の用意をする。
この後は、柊水と火織が交代で空に水を飲ませたり様子を見ることになった。
「2人だけでご飯を食べるのって、初めてですね」
火織は、向き合って昼食を一緒に食べている柊水を見ながらそう言った。
「あぁ、確かに……そうですね。空がいつもいるので、何だか違和感です」
ふと、柊水がじぃっと火織を見ていることに気がついた。
「な、何か……?」
「火織さんって、美味しそうに食べますよね。何だか、子栗鼠っぽいなぁ……と」
「こ、こりすですか?そんな照れちゃいますよ……」
火織は頬に熱を持つのを感じた。
心がそわそわして落ち着かない。
(急いで食べて、空さんの様子を見に行こう……)
空の体調がどうか気になるし、耳や頬が真っ赤になっている様子をいつまでも柊水に見られるのが恥ずかしいと、火織は思った。
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