第15話
「私は、里に戻らない」
「ど、どうして……」
火織は空を指差した。灰色の厚い雲が空を覆い、ざあざあと傘を強く叩きつけるように雨が降っている。
煎も空を見た。
「私、雨が降り続ける原因を探すって柊水様に宣言したから」
「雨が降り続ける原因って……それは、代行者が出来損ないだからで……」
「柊水様は、食事も忘れて、睡眠時間を削って、雨を止めるための儀式をひたすらやっていたのよ。そのことを知った上で、出来損ないと言っているの?」
火織がそう言えば、煎は黙り込んだ。
「私は、里に戻らない。ここにいたい。ここで……柊水様と空さんと一緒に、雨が降り続ける原因を探して、解決したい」
火織はそう言ってから、何かを思い出したのか、「あっ」と声を上げた。
そして、火織は柊水の方を見る。
「柊水様、以前言ってましたよね。今後どうしたいか……元の里に戻るか、別の里に行くか」
「え、あぁ……そう言えば、そんな会話しましたね」
火織は笑った。火織の紅の瞳が煌めいたような気がした。
「私、元の里へ戻りません。別の里にも行きません。ここにいたいです。ここで、柊水様と空さんと一緒に、雨が降り続ける原因探しを頑張りたいです!」
火織のその言葉に、柊水は柔らかく笑った。
「火織さんは、もう既に大事な仲間の一人です」
「……そうか」
煎がそう言った。
もうすっかり、諦めた顔をしていた。
「火織の意思が、よくわかった」
煎は、掴んでいた火織の腕を離した。
「すまない」
煎は頭を下げた。
そして、落ちていた自分の傘を拾い、火織達に背を向けて歩き出す。
鳥居を潜る前に、煎は振り返った。
「何も知らないで出来損ないと言って、悪かった。それと……頑張れ」
火織は、ただじっと煎が去っていくのを見ていた。
煎が姿が見えなくなると、火織はホッと息をついた。
「火織さん、大丈夫ですか?」
柊水が心配そうに覗き込んだ。
「大丈夫です!ちょっと疲れちゃったけど……あ、空さんこそ大丈夫ですか?びしょ濡れになってますけど……!!」
「大丈夫ですよ!ちょっとベタッと張り付いて気持ち悪いだけですから……」
「急いで帰りましょうか」
3人は屋敷へと戻った。
「煎さんに向かって、ビシッと自分の意思を伝える火織さん、とってもかっこよかったです!」
お風呂から出てきた空は、キラキラした目でそう言った。
「そ、そうですか?あの時は、自分の気持ちをちゃんと伝えないと……って必死だったから」
「かっこよかったですし、それに……嬉しかったですね」
柊水がそう言うので、火織は「嬉しかった?」と聞いた。
「えぇ、私達と一緒に雨が降り続ける原因探しを頑張りたいと言ってくれて、とても心強く感じました。それに、出来損ない、というのも……貴女はいつも『違う』と言ってくれる。火織さんは、私のことをちゃんと見て、知ろうとしてくれて……嬉しいんです」
柊水のその言葉に、火織は心が温かくなるのを感じた。
「私も、柊水様が『大事な仲間の一人です』って言ってくれて、すごく嬉しかったです!私、これからも頑張りますね!」
「えぇ、皆で頑張りましょう」
火織と空は「はい!!」と元気よく返事した。
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