第13話

キィエエ、キィエエと耳障りな鳴き声の邪の者をじっと見る火織。


(さて、どうやって退治しようかしら……鷹の姿か……なら、こっちも鷹の姿にしてみよう)

火織がスッと出した手のひらから、炎が現れる。

「炎よ、鷹の姿となれ。あの黒き鷹を狩れ」

真っ赤な炎で出来た鷹が、鷹の姿をした邪の者へ向かって飛んでいく。


キィエエと鳴いていた邪の者は、炎の鷹を見つけると逃げ出した。

それを見た空が動く。

「逃がしませんっ!!」

青い炎が壁のように広がり、邪の者を足止めする。

火織はぐっと拳を強く握る。

「今よっ捕まえなさい!」

火織がそう言うと、炎の鷹が足で邪の者の頭をガシッと掴む。

そしてすかさず、炎の鷹は口から炎を吐き、邪の者が赤い炎で覆われる。

耳障りな鳴き声も段々小さくなり、ついに邪の者は灰となって消えた。

炎の鷹は一度、火織達の頭上をくるりと回って飛ぶとスッと消えた。


「お疲れ様です、火織さん。今日も華麗な退治でしたね!」

「空さんのおかげですよ。あの炎の壁、すごかったです!」

お互いを褒めながら、屋敷へと戻る2人。

扉を閉める前に、空がじっと外の様子を見ていた。

「空さん、どうかしましたか?」

「あ、いえ……今日は珍しく中型の邪の者がいたので……ちょっと不安で」

「……今日、何事もないといいですね」

火織がそう言うと空は頷いた。



朝食を3人で食べた後は、柊水は儀式を行うために神殿へ、空は食器洗いや掃除、洗濯などの作業へ、火織は空の家事を手伝ったり、神の代行者について調べたりした。


火織が空と一緒に洗濯物を畳んでいた時だった。

空がハッと顔を上げた。

「空さん?」

「鳥居の付近に誰か来たみたいですね」

「え、わかるんですか?」

「はい。鳥居のそばに私の霊力を込めた庭石を設置しているので、鳥居の付近に誰か来たら私がすぐにわかるようにしているのです」

しかし、空は怪訝そうな顔をした。

「それにしても……誰でしょう。里長様なら、いつも朝に来るのですが……今は昼頃ですし。ちょっと行ってきますね」

「わかりました。空さん、お気をつけて」

火織はそう言って空を見送った。


「さてと……空さんが帰ってくるまでに洗濯物を畳めるだけ畳んでおこう」

火織はもくもくと洗濯物を畳んだ。

畳んで、畳んで、畳んで……終わったら、棚に入れて、居間の掃除をする。

「空さん、ちょっと遅いような……」

火織は胸がザワザワした。


傘を持って外に出ると、柊水が神殿から出てくるのが見えた。

「あ、柊水様……」

「火織さん、どうしたんですか」

「鳥居の付近に誰か来たみたいで、空さんが様子を見に行ったんですけど、帰りが遅くて……心配だから様子を見に行こうと思って」

「私も一緒に行きます。何だか、嫌な気配がするんです。儀式を中断したくなる程の嫌な気配が……」

柊水のその言葉を聞いて、火織の胸はより一層ザワザワした。



火織が鳥居の付近に来るのは、嫁入りの日……あの時以来である。

そろそろ鳥居が見えてくるだろうと思った時。


「火織はここにいるんだろっ!?」

突如、大声が辺りに響く。空ではない男の声だ。

思わず柊水と火織は足が止まる。

「里長の声ではありませんね……火織さん、私の後ろに」

柊水が火織の前に出て、歩き出す。


鳥居の下で、空が一人の男に胸ぐらを掴まれていた。

よく見れば、空の右頬が赤く腫れている。殴られたのだろう。

傘は地面に転がっており、2人はびしょ濡れだった。


柊水の後ろにいた火織は男の姿を見て「あっ」と声を上げる。


男と火織の目があった。


男は火織の姿を見つけるなり、口角を上げた。

火織は眉をひそめ、ジリッと後ずさる。


「煎さん……」

火織は男の名前を呟いた。

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